第五話 小泉沙百合の恋愛相談

 ――その人、入学してすぐに私に告白してきた人なの。


「え――――――っ?!うっそぉ、そんなタイプじゃなかったよ?!」

「一目惚れした、って言われて……断ったんだけど」

「あああああ!そういえば、合ったばっかりの時に『コイツ、惚れっぽそうなタイプだな』って思ったかも!」


 沙百合さゆりは俯いたまま、短いため息をついた。


「あれー?でも彼女いたって聞いた気が……あー!そういえばその彼女にも一目惚れして付き合い始めたって言ってた!えっ、別れたのかな?」


 言葉の順序がめちゃくちゃで、どうしても驚愕を隠せない琉斗りゅうと


「あー、もう自分で何言ってるかわかんなくなってきた」

「ごめんなさい、急にこんなこと」


 申し訳なさそうに謝る沙百合に、琉斗は微笑みかけた。


「大丈夫、確かに自分に告白してきて、しかも振った相手ならなおさら話したくはないよね」

「……ありがとう」

「でも、俺が少しだけコンタクトとってみるよ。……あっ、でも小泉こいずみさんの迷惑にはならない程度に!」


 頼もしいなぁ……と、沙百合は心の中で思う。


「そーだ、小泉さん。連絡先交換しない?お互いの情報共有にさ」

「いいよ」


 琉斗はスマホを取り出し、某チャットアプリのIDを画面に出した。沙百合も急いでスマホを操作する。


「お、できた」


 キーンコーンカーンコーン―――。


「やば、始業じゃんっ。小泉さん、走ろっ」


 本当は廊下を走ってはいけないのだが、琉斗は、そんなことはお構いなしに走り始める。

 ―――まあ、いっか。遅れそうになってるんだし。

 決まりを破るのに抵抗があった沙百合だったが、理屈をつけて納得すると、琉斗の後を追って走り始めた。





寺内てらうち君、かぁ」


 クラスに戻り、ギリギリHRに間に合った沙百合は、窓の外を見つめながら、何やら意味深に呟いた。





「沙百合っ」


 一限目が終わるなり、香鈴かりんが沙百合のもとへ駆けてきた。


「どうして始業ギリギリに戻ってきたの?」

「ん、ちょっと話し合いが予想外の方向に行っちゃったからよ」


 香鈴がむぅ、と頬を膨らませながら言う。


「そうっ!その『会合』なんだけどさ。沙百合って委員会入ってないよね?」

「入ってるわよ、今日の話し合いは委員会じゃなかったけど」

「え、委員会入ってたの?!知らなかったー」


 沙百合はニヤリと口元に笑みを浮かべる。


「聞いて驚きなさい、生徒会よ」


 香鈴は発する言葉もなく、口を開けたり閉じたり、パクパクさせている。


 「え、えぇぇぇぇぇ!?」


 びっくりしてる、びっくりしてる。こういうとこ、かわいいのよねぇ。


「待って、一年生の時から同じクラスなのに、全然知らなかった!」

「ちょっと人手不足らしくて、先生に頼まれたの。生徒会選挙には出てないから、香鈴が知らないのも無理はないわね」

「ななんで教えてくれなかったの!?」

「え、別に聞かれてないし?」


 確かに聞かなかったけどぉ……と香鈴はまだ腑に落ちない様子だ。


「ま、確かに沙百合はそういう性格だよね……」

「おわかりいただけたようで嬉しいわー」


 ……と、その時、突然香鈴があっ、と声を出した。


「そうそう、陸也りくやから伝言を預かってるよ」

「え、高崎たかさき君が?」


 陸也と沙百合の付き合いは無いに等しい。

 何の用だろう、と沙百合は不思議に思った。

「お昼休みに体育館裏に来てほしいって」

「……今日はよく体育館裏に呼び出されるわね……」

「ん?」

「何でもない。よかったらさ、高崎君にOKです、って伝えといてくれる?」


 え、なんで? 私が? と香鈴が間抜けな声を漏らす。その呟きに対し、沙百合は香鈴の耳に口元を寄せ―――


「香鈴が高崎君と話せる機会を作ってあげたんだけど?」


 ボフンッ。

 今のは香鈴の顔が真っ赤になった音だ。


「もうっ、からかわないでよぉ」

「でも伝えに行くんでしょー」

「まっまあね!チャンスを逃すわけにはいかないし?」


 そのチャンスは私が作ったんだけどね。まあ、いいか。





 昼休み。

 陸也が体育館裏に行くと、沙百合はもう来ていて、手をひらひらと振った。


「高崎君に呼び出されるなんて思ってなかったわ。私に何の用なの?」

「あ―――……」


 珍しく高崎君が焦ってるじゃない。ちょっとからかっちゃおっかな。


「何、もしかして私に告白?」


 ありえないけど。高崎君は香鈴一筋だろうし。


「ま、まあ、告白と言えば告白、かな」

「ゴホッ、ゲホッ」

「こ、小泉さん、大丈夫?」

「だ、大丈夫……」


 あー、びっくりした。でも、そういえば「好きです!」っていうだけが告白じゃないわよね。私は自分を落ち着かせるようにもう一度言った。


「うん、大丈夫。用って?」

「あのさ……俺、香鈴が好き、みたいなんだ」

「ゴホッ、ゲホッ」


 またせき込んでしまった。


「えっ、本当に大丈夫?」

「ん、大丈夫……」


 私は話を本題に戻した。


「で、それを私に言ってどうするの」

「えと、小泉さんって香鈴と仲いいからさ、協力してもらえると嬉しいな、って思って」


 私はその言葉の裏に隠れた真実を見抜いた。


「……寺内君の入れ知恵?」

「えっ」


 ……図星ね。本当にわかりやすい人だわ……。


「いいわよ、協力してあげる」

「ありがとう!でさ、俺、何したらいいと思う?」


 こういうところ、香鈴と似てるわね。


「ん―――……。そういえば、もう5月……。もうすぐ体育祭があるわよね?」


 高崎君の顔がパッと輝いた。

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