第四話 私たちの恋はどこへ向かう?

  ある朝突然、沙百合さゆりが聞いてきた。


「……ねえ、香鈴かりんって、高崎たかさき君への恋心を自覚したのよね?」

「え、いや、まだ認めたわけじゃ……」


 もごもごと口ごもると、認めた認めてないって言ったって自分のことでしょ、と一蹴された。


「じゃあ、何で話しかけに行かないのよ?―――っていうか何してるの」

「え、おまじない……」


 私は今、メモ帳に私と陸也りくやの名前を書き、ピンク色のハートで囲ったところだ。


「そのメモ、どうするの」

「財布に入れる……」


 ちょっとだけ、金運アップのおまじないと似ているのは気のせいだと思おう。


「ちなみに聞くけど何のおまじない?」

「雑誌には『気になるあの人の隣の席になれるかも?!』って書いてあったけど……」


 沙百合は額に手を当て、露骨にため息をついた。


「……香鈴。あなた何組?」

「え、A組だけど……」

「高崎君は?」

「B組……あ――――――――――っ!!」

「やっと気づいたか……」


 沙百合にここまで言われて気づいた。私と陸也はクラスが違う。すなわち、隣同士の席になることは不可能なのだ。


「わ、私の努力はなんだったの……」

「……たかがおまじないを努力とは言わないわよ?」


 バッサリと切られる。

 うっ、辛辣……。その通りなんだけどね……。自分でやっててちょっと子供っぽいかな、って思ったし。


「じゃあさー、どうすればいいの?」

「ん-、カレーパン渡したのは結構良かったと思うわ。付箋に書いた内容も可愛かったし」


 んー、と沙百合は考えるポーズ。


「まずは……。一緒に登下校する、とか?」

「あ、それはもうしてる」


 こないだの喧嘩も、一緒に学校行こ、と誘いに行ったことから勃発したことだったし。

 あれ? 沙百合には珍しく、すごくびっくりしてる。


佐久間さくま香鈴……。恋愛経験ゼロのくせに……恐ろしい子」

「ん?」


 なんでもない、と口の中でつぶやき、沙百合は席を立った。


「ま、あとは自分で頑張って」

「えっ、ちょっと沙百合、どこ行くの?」

「……ある会合、かしら」


 えーっ、何それ。沙百合って、何か委員会入ってたっけ?





 その頃、体育館裏。


寺内てらうち君」

「やっほー、小泉こいずみさん。こないだぶりー」


 沙百合が向かった先は、人気ひとけのない体育館裏。そこで待っていたのは、高崎陸也の親友、寺内琉斗てらうちりゅうとだった。


「で、用事って何なのかしら」

「そうそう、小泉さん、香鈴ちゃんに恋心を自覚させてくれた?」

「ええ、それはもう簡単だったわ」


 琉斗は、クスッと笑い、香鈴ちゃんらしいや、と呟いた。


「こっちもオッケー。よし、『高崎陸也と佐久間香鈴の恋を手助けする会』、本格始動だ!」


 こぶしを突き上げてポーズをとった琉斗に対し、沙百合のパラパラとした乾いた拍手が響く。


「……と言いたいところだけど、メンバーがもっと欲しいよねぇ」

「ああ、確かにそうね」

「いくら仲が良くても他人の恋だからなぁ……」

「誰彼構わず容易にバラすわけにもいかないものね」


 うーん……と二人で考える。


「……あ」

「寺内君、何か思いついたの?」

「えっと、協力してくれそうで、信用できる人、見つかった気がする」


 沙百合が顔を明るくした。


「ほんと?誰?」

「俺と香鈴ちゃんと陸也ってさ、おんなじ中学なんだけど、中学の時の同級生」

「名前は?」

菱川尚ひしかわなお


 さっきまで明るい顔をしていた沙百合が、その名前を聞いた途端、表情を曇らせ、うつむいてしまった。


「……小泉さん?どうかした?」

「……その人」

「尚?」

「入学してすぐに私に告白してきた人なの」



 ―――陸也と香鈴、二人の知らないところで恋が複雑に絡み始めた。

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