第二話 本当は……。 香鈴の場合

 いつもはこんなに長引くことないのにな……。


 私、佐久間香鈴さくまかりんは、現在、幼馴染の高崎陸也たかさきりくやと絶賛喧嘩中。

 今日も、せっかく陸也が謝りに来てくれたのに、素直になれなくて、むしろ怒らせた。

 私も陸也も、折れどころが見つからなくて意地を張り合っているだけのような気がする。ここまで喧嘩が長引いているのは私のせいもあるかもしれない。

 謝りたいけど、今まで陸也を責めてきた手前、ちょっと謝りづらいな……。


「どーしたの、香鈴」

「さ、沙百合さゆりぃぃぃ」


 私が抱きつくと、私の親友、小泉こいずみ沙百合はぎょっとした顔で後ずさった。


「ホントにどうしちゃったの?」

「私、私さあ、陸也と仲直りしたいの、でもどうしたらいいか分かんなくてっ」


 沙百合は、この語彙力0ゼロの言葉を理解できるほどには私との付き合いが長い。


「わかった、わかったから。離して?」

「……うん」


 私が沙百合の体から離れると、沙百合は私の前の席に座り、話を聞く体勢になった。


「香鈴が気にしてるのはさっきのことね?」

「……うん」


 そうだよねぇ……と、沙百合は、苦笑しながらも相談に乗ってくれる。


「まず、喧嘩の最初のきっかけは高崎君なのよね?」


 その通り。私がせっかく起こしてやったのに、アイツって奴は……。


「でもさ、さっきのは全面的に香鈴が悪いと思うよ。高崎君がせっかく謝りに来てくれたのにさ」

「そうなの!わかってる、わかってるんだけど……」

「素直になれない?」


 私が言えなかった、言葉の後半を沙百合が代弁してくれた。


「じゃあさ、このまますれ違ったままでもいいな、とか思わないの?」


 ——え。考えたこともなかった……けど。


「ちょっと冷たいこと言っちゃうかもだけど。ただの幼馴染ってそんなに重要かしら?同性ならまだしも、異性の幼馴染とここまで仲がいいことってそんなにないと思う」


 まぁ、そうだよね……。


「ただ高校まで一緒の腐れ縁っていうだけなら、きっと香鈴がここまで仲直りしたいって思うこともないんじゃないかな。―――ねえ、香鈴。本当は高崎君のこと、好きだったりしない?」


 ——……っ。


「そんなこと、ない……」

「でも、好きな相手だからこそ素直になれない、なんてこともあるし?」


 ……違う。

 そうやって反論したいけど、言葉が出てこない。


「これが一応私の考えだけど。どう?香鈴、自分に当てはまりそう?」


 ……確実に当てはまってる。

 

「これが好きってことなんだと思う……?」


 そうつぶやくと、沙百合が驚いたように身を乗り出す。


「まさか香鈴、これが初恋?!」

「あ……そう、なるのかな……?」


 高2で初恋か……と沙百合が驚いた顔をしている。


「え、遅い……?」

「いや、人によるだろうし、多分遅いってことはないと思うけど……」

「ちなみに、沙百合の初恋は?」


 えー、それ聞いちゃうー?とおどけてはいるが、私にはわかった。

 もしかして沙百合、ちょっと照れてる?

 普段、ポーカーフェイスな沙百合なだけに、私の詮索センサーがうずく。


「教えてよーっ」

「じゃあ言うけど……。大きい声出さないでね?恥ずかしいから」

「もっちろん!」


 沙百合は、口を私の耳に寄せてささやいた。


「……年少」

「年少って……幼稚園の?」


 うん、と頬を薄紅色に染める沙百合。


「まあ年少の〝好き〟を初恋って言っていいかは疑問だけどね」

「へえ、年少、かぁ……」


 え、でもそれって……。


「早すぎない——————?!」

「香鈴、ちょっと静かにしようねー?」


 沙百合、笑っているけど、目の奥が全然笑っていない。


「ご、ごめん」


 へ——っ。初めて知ったぁ。それにしてもすごいなー……。


「だからさっ。私の経験も生かして香鈴の恋愛相談にも乗るよ?」

「じゃあ、『先輩』って呼ばせてくださいっ」

「えー、それはフツーに嫌」


 拒否られちゃった。


「ま、とりあえずは高崎君に謝りなよっ」


 あ、それについては結構いい方法を思いついたの。


「あのね……」

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