第一話 反省の気持ちがあるとは思えない!
「おい、
「こればっかりは無理ー」
俺、
喧嘩をした幼馴染、
「陸也が悪いんでしょー」
そう言われてしまうと黙るしかない。
「頼む!何か奢るから!」
「……いくらまで?」
「五百円!」
「……それだけ?」
「金欠なんだよ!お願い!マジで頼む!」
琉斗は、どこか値踏みするような目で俺をジッと見てから、
「……本当は千円のところだけど、特別に五百円で手を打ってあげる」
と答えた。
俺はこぶしをぐっと握りしめる。
琉人に頼めば、友達同士の揉め事などすぐに片付く。
「ただし、条件がある」
「え?」
「僕は『手助け』をするだけだからね」
……。
「わかったよ!自分で言えばいいんだろ」
そう言うと、琉斗はにっこり微笑んだ。
「じゃあ、今から香鈴ちゃんのところに行こっか」
……え、
「『善は急げ』って言うでしょー、これが僕の思う『善』だよ?」
ああ、もう逃れられないか。
「……わかった」
香鈴のクラスはA組。廊下に出て隣のクラスを覗くと。
「香鈴、友達と話してるみたいだけど?」
微妙な抵抗を試みてみるが、
「駄目ー。ほら、呼びなよ」
「呼ぶって……ここからか?!」
俺たちがいる教室の出入り口前から、香鈴のいる窓際までって……。どのくらい叫べば届くんだ……。
「そう、ここからだよ」
ただでさえ男子が女子を訪ねるだけでも好奇の目に晒されるというのに……叫べだと……?
「あれ、陸也君はもう仲直りなんかどうでもよくなっちゃったかな?」
……やるしかないか。
「香鈴!」
諦めの境地で香鈴に向かって叫ぶと、教室のすべての視線が俺を貫く。
香鈴は、チラッとこちらに視線を投げかけると、一緒に話していた友達を連れて俺のところにやってきた。
「ごめんねー、琉斗君、いつもコイツがお世話になってます」
なんだ、その言い方。俺はペットか何かか。
「だいじょーぶ、奢ってもらうし」
……お前は結局それが目当てか。
「ところで香鈴ちゃん、この子はお友達?」
「ああ、ごめん、喧嘩したことを愚痴ったら、よく分かんないけど興味持ったらしくて」
少女がペコリと頭を下げた。
「
「いつも相談に乗ってもらってるの。……で、アンタは何の用よ」
今までの笑顔とは打って変わって、冷たい視線が俺を突き刺す。
「い、いや、あの……」
「なんかさ、陸也が言いたいことあるらしいよ?」
早く言いな、と琉斗が目で促してくる。
「その、今朝は俺が悪かった……。だから機嫌、直してくれないか」
香鈴は一瞥をくれるとこう言った。
「陸也に反省の気持ちが欠片も見えないのは私だけ?」
は?
「どうせまた琉斗君に言われて謝りに来たんでしょ」
「いやそこはお前には関係ないだろ」
琉斗の無言の制止を振り切って、思わず声に出してしまった。香鈴も、まさか俺が言い返すとは思わなかったのか、心なしか僅かに目を見開いているように見える。
しかし、すぐにとげを含んだ瞳に戻り、絶対零度の声を発した。
「そう、あなたの気持ちは分かったわ。もう私は陸也に干渉しないからそのつもりで」
「こっちから願い下げだ」
売り言葉に買い言葉。俺たちの喧嘩は、こじらせにこじらせて、どこへ向かうのだろう———。
香鈴がツカツカと教室に戻っていってしまったので、俺も自分の教室に、わざと足を踏み鳴らしながら戻った。
———だから、あとに残された小泉さんと琉斗の会話を、俺は聞くことができなかった。
「あーあ。今回はなんか二人とも意地はっちゃってるなぁ」
香鈴から聞いていて知っているのだろう、琉斗のつぶやきを沙百合が拾う。
「あの二人、喧嘩ばっかりよね。……今回はいつになくひどいけど」
「……ねえ、小泉さん」
「なんですか」
「陸也と香鈴ちゃんさ、お互いに意識しまくりだと思わない?」
沙百合は首を上下にブンブン振って肯定の意思表示。
「そうよね、私もそう思う」
「ね、僕達二人でさ、『高崎陸也と佐久間香鈴の恋を手助けする会』でも作らない?」
「楽しそうね、入るわ」
———そうして、ここに『高崎陸也と佐久間香鈴の恋(?)を手助けする会』が発足した。
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