明日こそは素直に

宵待草

プロローグ アンタってバカじゃないの?!

「起っきろ———!」


 ——……?何の騒ぎだ……?


「起きろって言ってんのよ!」


 怒号と共にカーテンが勢いよく開けられる。寝起きにはツラい日光が部屋に差し込んだ。怒りの形相で俺のベッドの脇に仁王立ちしているのは、幼馴染の佐久間香鈴さくまかりん……。


「何回起こしたと思ってんの!?」

「なんだよ香鈴、朝っぱらから……」

「なんだよ、ですってぇ?寝坊で遅刻しそうになってるアンタを起こしに来た幼馴染に向かっていう言葉なの、それ!?」


 ……と、ここで恐ろしいことに気づいた。


「どうやって家に入ったんだよ、お前……」

「え、普通に鍵開いてたけど?」


 ……うわこいつ鍵が開いてたからって理由で不法侵入するのかよ、ヤバ。

 鍵が開いてたのは俺も悪いけど。


「ねぇっ、陸也りくや。本当に遅刻するって」


 あぁ、憂鬱な水曜日の始まりか……。今何時だ……。八時……二十分……。


「マジでっ!?遅刻じゃねーか!」


 その一言でついに香鈴の逆鱗に触れた。


「……だっからさっきから起こしてたのに……」

「わ、悪い!許してくれ!」

「もう二度とアンタなんか起こしてやんないっ!」


 ———こうして俺たちの平凡な水曜日が始まった。





 キーンコーンカーンコーン———……。


 四限目の終わりを告げるチャイムが鳴ると、校舎内が騒がしくなっていく。

 俺らの高校、都立湊とりつみなと高校は、ギリギリ東京都に属している、結構田舎の市にある。購買のカレーパンが有名という誇るほどでもない特徴を持つ、平凡な学校だ。

 しかし、カレーパンは本当に旨いらしく、昼休みに入れば廊下をバタバタと走る音があちらこちらから聞こえる。

 ———そこまでするほど旨いのか?俺のようなコンビニの菓子パン組にはわかんねーな。


「陸也ー、一緒に食べよー」

琉斗りゅうと……」


 昼食は弁当派の親友、寺内てらうち琉斗に声を掛けられる。

 琉斗は、俺の前の席に座ると、なぜかいぶかるように俺の顔を覗き込んできた。


「……その顔」

「なんだよ」


 ビシッと指を突きつけると琉斗は言った。


「香鈴ちゃんとまた言い争いでもしたんでしょ」


 ……なぜわかる、コイツ怖い。


「だって陸也って、わかりやすいんだもーん」

「何が」

「顔が☆」


 はぁー……。


「どうせまた陸也が悪いんでしょ。さっさと謝った方がいいよ」

「……喧嘩したわけじゃない」


 琉斗が、すべてわかってるよ、という感じの視線を投げかけてくる。


「香鈴ちゃんてさ、怒りっぽいんだけど、その代わり反省するのも早いんだよね。でも原因は陸也にあるから、どうやって仲直りしたらいいか分からないんだと思う」


 琉斗は人と関わるのが上手い。


「……俺にもそれくらいコミュ力があったらな……」 

「ん?なんか言った?」 


 ……耳聡い奴め。





 ———その一つの喧嘩が、その後の騒動の始まりだった。

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