⑤2001年1月

2001年1月


 広い会場の中、壁に貼り付けられたトーナメント表を眺めながら、亮司は、数年前に聞いたある噂を思い出していた。

「化け物」のように強い奴がいるらしい、と。

 対戦を続けていれば幾度も耳にするような言葉ではあった。

 だが、亮司がそれまで出会ってきた「化け物」は、ゲームのバグや永久コンボなどを使った、本物ではない者たちばかりであった。

 幾人もの偽者と戦い続けるうちに、亮司は自分が強さへの興味も失っていることに気付いた。しょせんはゲーム。瑣末な技術の積み重ねによってしか、人は強くなれないのだ、と。だが、それでも、凡人の及ばない何かを持つ者がいるのではないか、という疑念や期待は消えなかった。

 亮司が高城からコーシについての話を聞いたのは、そんな頃だった。

 その「化け物」は勝負の天才と呼ばれ、凡人とかけ離れた閃きを持ち、プレッシャーのかけ方も、他の追随を許さないという。

 皆が賞賛するその「化け物」の存在に亮司の心は惹かれたが、社会人となり、日々の忙しさにかまける内に、亮司はゲームから離れた。

 だが、『MAX』の発売を契機に高城に呼び出されたことで、対戦への熱が蘇ってきた。

 期せずして、メーカー主催の大会。

 ついに出会える、本物と! それも最高の舞台で。

 だが、現実は厳しく、亮司は『MAX』で辛酸を舐めた。ブランク、操作感覚の違い、そして若手の成長。不本意な敗北が続いた。

 慣れない敗北と、それに比例してかさむ出費。対戦では負けたほうが金を払う。勝つのは強者。金を失うのは弱者。かつて強者であった頃は当たり前のこととして受け入れてきた現実が亮司を苦しめた。仕事の疲れが対戦に影響し、対戦の苛立ちを仕事中も引きずった事もあった。荒れた、と言っていいだろう。しかし、荒れたところで何も変わらないこともまた、彼は知っていた。初心者同然だった和泉の練習に、毎日付き合う高城の姿を見て、亮司は決心した。一つずつ手順を踏み、一歩一歩強くなっていく。しょせんはゲームなのだから、そうするしかないのだ。退屈な防御テクニックも、覚えられる限りのものを覚えた。

 そして今、亮司は強くなった。自惚れではないと、亮司は思う。客観的な事実として、高城への勝率も五割近くまで上がり、関西最強を決めるとしたら、彼の名を挙げる者もいる。

 トーナメント表の自分の位置を確認する。

 一回戦の相手は、恐らく地方の選手だろう。自分は良く知らないが、掲示板などである程度名前を見たことはある。

 二回戦の相手は激戦区、東京の新宿エリア代表のシード枠。つまり、コーシのことだ。

 先ほどあった会場説明では、舞台の上で戦うのはベストエイト以降、つまり六回戦からのようだ。壇上でないのは残念だが、まぁ対決が早まったと考えよう。何かの拍子で、向こうがそれまでに負けないとも限らないのだし。

「えー次は、三十番、亮司選手。三十一番の小谷選手の試合となります」

 係員の声に口の端を曲げて笑うと、亮司は席に向かった。



 危なげない試合運びで二回戦を終えた高城は、自分の試合を観戦している者の中に和泉の姿を見つけた。向こうも気付いた様子で、こちらに笑顔を向けてくる。

「三回戦進出おめでとうございます」

「あ、和泉くんも勝ち残っとるよな。呼び出し前に試合見たで」

 和泉は今日の早朝から行われた予備予選で、どうにか切符を獲得していた。本戦が行われるのが東京ということもあり、一部の切符獲得者からキャンセルが出る。事前に確認のとれたキャンセル枠をかけたトーナメントが行われ、それに勝ち残ったのだ。

「ところで知ってました? 段位に、『魔神』なんてあるんですよ」

 へぇ、と感想をもらすと和泉は得意げに語った。

「僕の本戦一回戦の相手が、その『魔神』だったんです。三百勝〇敗。勝率百%」

「コッテコテにうそカードやんー」

「結局、自作した勝率みたいで、あっさり倒せたんですけどね。最初は呑まれかけました」

 そう言って和泉は笑った。

「甲田って人なんですけどね。知ってます?」

「おお! 知っとる知っとる。その筋では有名なお方や」

 カードシステムの弊害。

 カードに段位や勝率などのデータが記録されるため、それが一種のステータスとなる。それに捕らわれ、勝率や段位を自作する者まで現れる始末だ。

 このような本末転倒が起こるようでは、そのうち、段位に誰も見向きもしなくなるかも知れない。

「僕のせいで段位が落ちて、『魔神』から『魔王』に降格になっちゃったんですけどね」

〔さぁ、注目の二回戦! いきなりビッグカード同士の試合だ。関西と関東、攻め系プレイヤーの意地を見せるのはどっちだ!〕

 実況の声に正面スクリーンを見ると、亮司とコーシの試合が行われていた。注目のカードということもあり、実況に選ばれたのだろう。

 亮司のキャラクタ、獣人が飛び込む。鋭く、不規則なジャンプから獰猛な牙が、コーシの操作する空手家を襲った。牙が空手家の頭を捉える寸前、獣人は空手家の放ったアッパーによって、下顎を砕かれ跳ね飛ばされていた。

〔開幕の一撃が対空の獅子砲! 亮司選手の獣人はショートダッシュとジャンプを駆使して翻弄しましたが、コーシ選手、これを意に介さず。射程距離に入るなり超反応で獅子砲。いきなりお互いの持ち味を魅せてくれます〕

 獅子砲。それは発生に伴い、相手の打撃をさばく時間が存在する、一撃必殺のアッパーだ。基本的に、格闘ゲームにおける近距離戦は、攻撃を先に発生させたほうが打ち勝つ。技のヒット、ガードで変わる互いの硬化差から、どちらが有利かどうかを瞬時に判断し、選択肢を選ぶことが重要になってくる。だが、この獅子砲だけは別物だった。相手がどれほど早かろうが、どれほど不利な状況だろうが、タイミングを合わせれば打ち勝つことができる。

 だが、獅子砲には大きな欠陥が存在する。まず、咄嗟には出せない複雑なコマンド操作。そして何と言ってもガードされた際の膨大な隙。この隙の最中はカウンター扱いとなっており、通常の倍近いダメージを受けてしまう。

 そんな諸刃の剣のような技であるため、普通のプレイヤーならば使用をためらってしまうものなのだが……

〔また獅子砲! これでこの試合三発目だ!〕

 亮司が、攻撃のためではなく、距離を取るために振り払った爪に、獅子砲が叩き込まれる。

 コーシの操る空手家に代表される素手のキャラクターには、リーチの不利を補うために、パリィング、という特殊な操作が用意されている。相手の攻撃に合わせてレバーを一瞬前に傾けることで、攻撃を受け流すことができるのだ。ボタンを押している間はずっと打撃を防ぐ体勢をとることができるガードとは違い、読みを外してしまえば無防備なまま攻撃を受けてしまうパリィングだが、成功させれば防御から攻撃へと転じることができる。

 本来、牽制技に対してはガードで対応するのが基本であり、アグレッシブな展開を好むプレイヤーでさえ、パリィングを合わせる程度なのだ。獅子砲を狙うのはリスクを無視した無謀な戦術だと、断言してよい。しかし、実際には獅子砲が次々と火を噴き、そしてそのことごとくが命中する。

 思わず亮司が牽制をためらってしまったところに、絶妙なタイミングで空手家が踏み込む。マズイ、と思った瞬間には空手家の背負い投げで地面に叩きつけられていた。亮司が受身を入力する暇もなかった。そして倒れた獣人の無防備な腹に、鉄拳が振り下ろされた。

 ―K・O!

〔終わってみれば、ノーダメージで決着!〕

 実況の声からしばし遅れて拍手が鳴った。拍手に気をとられる様子もなく、淡々と席を立つコーシ。席に残った亮司の顔にはショックの色がありありと浮かんでいた。

「見とったか?」

 高城は興奮を抑えられない様子で隣で観戦していた和泉に聞いた。

「ものすごい反応速度でしたね」

「その前や。ひょっとすると、あいつの傷を見つけたかも知れん」



 準決勝の舞台で和泉は、高城とぶつかった。

 全国大会を前に、高城はこれまで誰も確立していない戦法を編み出していた。

 紙の鎧と言われる人形使い本体を前面に出しての、人形との同時攻撃。時には本体を犠牲にしての人形での相打ち狙い。他の人形使いを使用するプレイヤーに言わせれば、無謀としか言いようのない戦い方なのだが、高城は安定した勝率を誇っている。

『耐久力は使うもの。自分のがゼロになる前に、相手をゼロにすりゃええだけやん。期待値計算して、必要やと思ったらどんどん経費払ってくべきやろ』

 和泉は、そう語った高城を思い出す。

 もちろん、その計算には相手の攻撃力やリーチ、攻撃発生の速度など、様々なデータが必要になる。皮肉なことに、高城がこの戦法を使い始めたのは、和泉とダブルKOになった対戦の後からだった。次の日から高城は、この無謀とも言える戦法を研究しはじめる。

『ありがとう。きみのおかげでまた強くなれたわ』

 何度も失敗ののちスタイルが完成した時、高城は和泉にそう語った。

 高城が【プラスアルファ】で連勝する姿を見ている時、和泉の中に、他人事ながら誇らしい気持ちがなかったと言えば嘘になる。

 それでも、と和泉は思う。

 それでも、僕も毎日あなたに勝つことを考えてきたんです、と。

 人形を下段斬りで後方へとなぎ払う。ダメージは与えられないが、致し方ない。剣を振り切った隙を見逃さず、人形使いが接近、投げ技でダウンを奪われる。慌てて受身を取るが、人形使いは追撃に来る様子もなく距離をとったままだ。

 人形をナイトの真後ろに設置されてしまった。挟み撃ちの形だ。本体を追うと人形に無防備な背中を見せることになり、人形を相手にしようとするのにも、ガードをといて振り向かなければならない。やはり、試合運びが巧い。

〔出ました。人形使い鉄壁の布陣。機動力の低いナイトでは脱出は厳しいか〕

 和泉は人形が動き出すのと同時に、人形使いに向けて、武器である剣を投げつけた。人形の攻撃をまともに食らうが、投げた剣が無防備な人形使いの本体にクリーンヒットする。

〔おおっと! ここで武器投げ! 人形使いの耐久力を一気に奪った。しかし、これも高城選手の言うところの必要経費か?〕

 武器を失ったナイトは、機動力の低さ、リーチの短さ、攻撃発生の遅さ、と全てにおいて最低クラスの性能になる。人形が振るうアイスピックが、素手のナイトの耐久力を徐々に削っていった。隙をついて飛び込もうとするも、呼吸を読まれているのか、すべて人形に叩き落されてしまう。背後にいる人形が、とりついたように引き剥がせない。

〔やはり奥の手で仕留めきれなかったのは痛い! もはや打つ手なしか〕

 会場にいるほとんどの者が高城の勝利を確信したその時、ナイトが背後からの人形のアイスピックをパリィングした。体勢を崩した人形を、ナイトの回し蹴りが巻き込む。

〔おおっと! ここで背後に対してパリィング。武器を失ったナイトも素手キャラ。しかも背後へとあたる唯一の攻撃、回転蹴りできちんと人形を吹き飛ばした。〕

 人形への攻撃には、毎回本体が反撃を入れる。高城の得意としていた戦法である。だが、予想外のナイトの行動に、高城の追撃がほんの一瞬遅れた。人形使いのタックルを、回し蹴りから体勢を立て直したナイトがガードする。無防備な人形使いの腹に、ガントレットの一撃を叩き込んだ。

 ―K・O!


 和泉は不思議に落ち着いていた。細かい技を食らい、自分の体力が減っていくのを見ながらも、冷静に敵の動きは目で追えていた。何度目かのジャンプ失敗の後、人形に引きずられるように落下した場所は、人形使い本体のタックルの間合いの外だった。いける! そう思ったら、自然に手が動いていた。タックルをガードした後、ガントレットからの連続技を叩き込もうとしたら、一撃目で相手は倒れていた。


 高城は席を立った。油断したつもりはなかった。しかし、試合の最中も次のコーシとの戦いを考えていた。負けて当然だ、と今更になって気付く。まだ興奮から覚めていない表情を浮かべている和泉に、握手を求めた。

「後は任せたで。関西勢の意地見せたろやないか」



 壇上から眺める会場はとても眩しかった。

 これまでは高城を倒すことに夢中で、それ以外は何も考えていなかった。何も見えていなかった。今は違う。自分の鼓動を感じる。アナウンスの声も耳に入らないほどにそれは大きかった。鼓動にかき消されて、戦略も戦法も何も思いつかない。少し、ぼうっとする。現実感が、ない。

〔それではスタートボタンを押してください〕

 始まってしまうのか。

 キャラクターセレクトの時間を目一杯使って、控え室で聞いた高城のアドバイスを思い出す。コーシの傷についてだ。

『亮司が飛び込みの動作を開始する前から、コーシの扱う空手家が細かく動いとったのが見えた。ほぼ間違いなく獅子砲のコマンドのレバー部分や』

 試合の後、見えたか? と訊ねていたのはそのことだ。和泉は気が付かなかった。

『まだ、理論化してない話やけど、俺が思うに、超反応にも二タイプあって、反射神経に頼るプレイヤーとそうでないプレイヤーがおると俺は思っとる』

『前者の典型は亮司。ジャンプもダッシュも、とにかく「見てから」対応しようとする』

 その分、反応して出す技は単純な技に限られる。ワンボタン、ワンアクションで出すことができる対空技や迎撃技に限られることが多い。

『後者の典型は俺。事前に何が起きるか予想して、あらかじめ準備を仕込む』

 たとえば、ジャンプされたら危険な間合いで牽制する時には、複雑な対空技のコマンドのレバー入力部分だけを仕込む。事前に予測していることが前提となるが、高威力や高性能の技を出すことも可能になる。

『まぁ一種の保険やね。俺の長所は、俺を信じてへんとこや、と言える。俺の牽制がうまくいくはずがないし、俺の飛び込みが刺さるはずがない、と。絶えず疑って保険かけるのが俺のスタイルやね』

『さて、俺はこれまでコーシを前者のタイプ。反射神経型やと思って対策を練っとった。でも、違う。どうやらあいつは予測保険タイプやった。このタイプの傷は、予想外の行動に対しての反応が遅れることや。遅れるだけならまだしも、遅れた技を出し切ることもある』

 先ほどの高城が典型例だ。せめてタックルを止めておけば、あの場面で勝敗が決することはなかっただろう。

『でも、ええか。この傷に和泉くんが気付いとることを、相手に悟られたらあかん。傷は残しておいて、勝負どころで一気に倒しきるんやで』

 でも……

〔さぁ、決勝の始まりです。関西の巨星、高城を破った和泉選手。そして今大会で危なげなく勝ち上がってきたコーシ選手。果たしてこの二人はどんな試合を見せてくれるのか? 注目の開幕です〕

 ラウンド開始直後、牽制の横薙ぎを繰り出し、ガードボタンでキャンセルする。反応したコーシは獅子砲を空振り。

〔おおっと! 和泉選手、開幕は手堅くフェイント! これはコーシ選手引っかかってしまったか〕

 そう。傷は教えてしまったほうがいい。僕はこの人の全力、限界が見たいんです。

 僕は、今、勝ちたいんじゃない。今、強くなりたいんだ。

 獅子砲への反撃を見送りながら、和泉はそんなことを思った。



「……ま、えーけどね」

 ちっともよいとは思ってない口調で、高城はうなだれる和泉の隣で口を尖らせていた。

「師匠を殺すわ、人のアドバイス聞かんわ、しかもその上負けるわで、どうしようもない弟子やけど、俺は許すで」

 そう言いつつも、高城は和泉のほうを見ようともしなかった。

「すいませんってば」

「ホントは反省してへんやろ?」

「え?……えぇ、まぁ」

 無邪気に肯定してしまう和泉を目端で睨む。

 ま、仕方ないか。俺もそうしたかも知れないし。

 諦めて肩をすくめ、許そうとしたその時。

〔ここでM社からのお知らせがあります〕

 ざわつく場内にアナウンスが響いた。

〔本日はご来場いただき、ありがとうございます。素晴らしい大会でした。さて、表彰式に先立ち、これからわが社の新作発表をさせていただきます。皆さまスクリーンをご覧ください〕

 照明が薄暗くなり、スクリーンに映像が流れ始めた。

「尽きることのない、戦いへの欲求」

 格闘家が吸血鬼の裏拳をしゃがんでかわし、

「十二年という歳月は、あらゆる無駄をそぎ落とした」

 がら空きになった胴体に、体重の乗った肘うちを叩き込む。

「そしてここに、格闘ゲームの完成形が誕生」

 吸血鬼の体はくの字に折れる。

「鍛え上げた自分を、存分に解き放て」

 体勢を立て直した吸血鬼は自らの血を炎に変えて投げつけ、

「歴史を背負え」

 格闘家は刹那の見切りで飛びのいてかわす。

 一旦、距離をとった両者が、ほぼ同時に飛び込み

「MAX」 

 画面はそこでホワイトアウト。一瞬の後にタイトル画面が大写しにされた。タイトル下には「VERSION  CONSUMER」の文字。

 会場からは驚きの声があがる。

 家庭用ゲーム機用の『MAX』の告知だった。

「アーケードのカードシステムを改良! 使った技の回数、ヒット率など、さらに詳細なデータが閲覧可能!」

「待望のネット対戦を実現! 一ヶ月500円で対戦し放題!」

「充実のトレーニングモード。あらゆる課題の練習が可能!」

 などの宣伝文句が、映像の中に踊る。

「さらに、発売に先立ち行われた全国大会のDVDを映像特典として付属!」

「互換基盤によりスピードリリースの達成!」

「二月十日発売」

 そこで映像は終わり、場内の照明が戻り始めると、マイクを持ったM社の社員が慇懃に説明する。

〔いかがでしょうか。我がM社と盟友X社の格闘ゲーム史の結晶『MAX』が初の家庭用への移植です〕

 通例だと、ソフトの告知は発売の三ヶ月ほど前には、雑誌など様々な媒体で発表される。小売店の予約や流通など、様々な要素が関係してくるからだ。だが、今回の『MAX』に関しては、家庭用への移植は全く噂にもなっていなかった。相当の情報規制がかけられていたのだと思われる。

〔ユーザーの皆様にも、待ちわびていた方もいらっしゃることでしょう。今回の大会に合わせて趣向をこらし、初公開となります。映像でもご紹介しましたが、映像特典として、本日の大会の模様を収録したDVDが付属します〕

 高城は大会の出場規約に、大会で行われる映像の著作権は全てM社に帰属する、と書いてあったことを今更のように思い出した。

〔なにとぞ、今後ともご愛顧くださいますよう、お願いします〕

 大きな盛り上がりを見せる会場の中、高城は一人呟いていた。

「……いつかは来ると思っとったけど、せめてもうちょっと、時間欲しかったかな」

 その呟きは歓声にかき消され、誰の耳に入ることもなかった。

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