第3話 鬼が出るか蛇が出るか、余計なもんまで出るか

「一度セレナーデに集まれ。全員招集、本格始動だ。」

今すぐにでも走り出してしまいそうなカムイさんを無理やり引き連れて病院から出て行った。


一時間後、カフェセレナーデ

そこにはマスター、カムイ、忠、錦。忠の隣にはボサボサの髪の女性がパソコンを抱えて座っていた。

カランとドアが開くと、一条とチャラめの作業着の男がいた。

「あ!!てめぇバカ文!余計な仕事を…」

そう、この男こそ僕がここへ来るよう仕向けた張本人、川端千歌文なのである。

「まぁまぁ、小遣い稼ぎよぉ?で、さっき道で会ったんだけどっさ」

というと、僕は千歌文さんに促され、カフェに入ったのだった。

「BARで会って以来だし、よく顔覚えてたよなぁ〜…あ、一条と一緒にいたからか…で、こいつ、手伝わせてくれってさ。」


一同は顔を見合せ驚いた。錦に至っては「無理だろ」と吹き出して笑いだした。

「いや、南岡さん……さすがに危険では」

「おぉおぉ、一条が狼狽えてやがる!」錦がゲラゲラ笑い始めた。


「いや、僕は本気です。エース…カムイさんに鍛えて貰って、あんな事までされてもう許せないんです!」

僕はいつになく声を張り上げた。

「ンー、いいんじゃなぁい?お金さえ貰えれば、それでいいんだし。ねぇ、新華ちゃん?」

パイプに火をつけながら、黒いスーツの紫城忠がいう。新華、と言われた横の女性も、うんうんと頷いている。

「わ、わわ、わたしも忠に賛成…」ボソボソと賛同の声を上げていた。


「しかしだなぁ……」

マスターが答えあぐねている中、すぐさまカムイさんが立ち上がり、僕に確かめた。

「豊…俺が教えた護身術、あいつらとやった練習、身についてんだろうな?」

「えぇ、勿論です。」

カムイさんは初めて会ったときの様に値踏みをするかのように…いや、今回は違う。僕の覚悟を測るように、じっと僕を見た。

「マスター…大丈夫、心配要らねぇよ…参加させようぜ」

カムイさんのまっすぐな目には力がある。最初の時から変わらない、何かを測る目。

カムイさんのその言葉に、マスターも折れ、条件付きで同行を許可した。

「南岡君、まず『本当に危ないと思ったら俺達のことは見捨てて逃げる』こと。それと、カムイは俺とやる事があるから、『忠と新華ちゃんの言う通りに動く』こと。いいね?」

「はい!」


そこからの段取りは早かった

錦さん、千歌文さんは今回はヘルプのみで実働はなし。まぁ千歌文さんはちゃっかり『紹介料』を貰って、悠々と飲みに出かけたが…錦さんを連れて。

マスターとカムイさんは今回の件で気になることがあるので、町一番のヤクザに会いに行くということだった。

「ンー、豊くん、行こうかね」

忠さんは僕の肩を叩き、付いて来いと指をクイっとした。

「あ、はい!」

そして僕と忠さんは、係長がよく行くアングラな飲み屋の前で張り込むことになったのだ。


サラサラと小雨が降る中、忠さんの車の中から係長のよく行く店を見張っていた。

運転席には忠さん、後部に僕。助手席に男を乗せるなとの家訓なのだとか…本当か、と疑いながらじいっと時を待った。すると、忠さんが口を開いた。

「ンー、豊くん?時に聞くが…新華ちゃんに手を出そうなんて考えてないよねぇ?」

車の中で爪を研ぎながら、こちらへ振り向くでもなく忠さんは僕へ問いかけた。

「いや、ないですよ、ないです。人妻に手を出すほど飢えてませんよ…」

僕だって彼女くらいは欲しいけども、さすがに理性は持ち合わせている。

「………あっそう……」

忠さんは素っ気ない返事のあと、爪を磨き続けている。コンビニで買った飲み物を飲む、車内はその音とヤスリの音だけが響いていた。

「あの、忠さん?そういえば、普段何をされてるんですか?」

ピタリとヤスリの音が止まる。

「ンー、知りたい?まぁ簡単にいうと、テーラーよね。オーダーメイドのスーツを作ったり、直したり…ま、爺様からの店ね…」

「え!もしかして、テーラーって、紫城洋裁本舗のことですか!?よくじいちゃんが行ってましたよ!」

忠さんはあまりの僕の一気に上がった熱量に驚いていた。

「あ、あぁ、そう…それより、ンー、その係長とやらはいつ来るのかね?」

忠さんは時計と店の外観を見比べている。

「はい、僕が知る限り、20時には何があっても帰ってましたから、そろそろで間違いないと思います……あ!あれ!」

タクシーで店に現れた係長、店のドアをノックすると中から坊主に鼻ピアスの男が出迎えた。

「ンー……やっぱり絡んでたねぇ……」

「え?絡んでるって、何が…」

忠さんは僕を見ながら頬を切るポーズをした。僕は察した。

「え、じゃあもしかしてマスターとカムイさんは…」

忠さんはまたパイプに火をつけながら「正華会」と短く言った。

僕はとんでもない事に巻き込まれ、とんでもない事に足を突っ込んだのではないかと



ワクワクしていた。



その頃、亀吉とカムイは

「よう、久しぶりだな、樽尾よぉ…」

2人が会っていたのは、この町一番の暴力団組織「正華会」の幹部、樽尾八雲(たるおやくも)であった。

「本当に久しぶりだね、亀さん…今日はどうしたってんです?」

嫌味な艶のある皮のソファに座っている樽尾はタバコを吹かしていた。反対側のソファに座った亀吉とカムイは、辺りの気配にピリッとした空気になった。

「樽尾よぉ、俺らは話しに来たんだ。それとも何か?俺の命(タマ)でも取ろうってのか?カタギに手ぇ出したらどうなるかくらい、分かってんだろ?親父のこと見くびってんじゃねぇだろうな」

樽尾はハハハと笑い、手を挙げた。それと同時に2人を包んでいた殺気は消えた。ただ、樽尾の後ろに立つ男からの殺気はダダ漏れではある。

「いやぁ職業柄、敵が多くて。それに、亀さんのこと知らない若い奴らばっかりなもんで、すいやせん。あんただって、そんなゴッツイ用心棒連れて…」

ニヤニヤして、本当に謝っているとは思えない表情だ。カムイは物の言い方に腹を立てて今にも殴りかからんとしていた。亀吉はカムイをたしなめ、ため息をひとつ付いて、写真を見せた。

「こいつ、人一人潰すのにいろんな奴に声掛けてるらしいんだ。そっちにも声かかってんじゃねぇか?」

写真には豊を殺そうとしている係長が写っている。写真を見て、一瞬顔を顰めた。

「おい!オン!見たことあっか?」

後ろに立っていた男に声をかける樽尾。後ろの男はカタコトの日本語で「シラナイ」とだけ言うと、また2人に睨みをきかせた。

「こいつね、俺の秘書でオン・シフって言うんですわ。優秀でね、俺の代わりにいろいろやって貰ってるんでねぇ…コイツで知らなければ、俺もなぁんにも知りませんよ?何にも、ね」

亀吉はカムイに目配せし、立ち上がった。

「あれ、帰るんですか?せっかく最近貰った山崎があるのに…」

「酒は辞めた。もう聞くことはねぇな、帰るぞカムイ。」

カムイは立ち上がり、オンへひと睨みし、亀吉の後ろを付いて出ていった。


「ボス、アイツらムカつく…」

オンは樽尾の酒を作りながらブツブツ呟いていた。

「まぁそういうな、あの人は元正華会の最強の男だ。お前でも勝てるかわからんぞ?隣の兄ちゃんもな。」

オンは鼻で笑い、水割りを渡した。樽尾は飲み干すと、また笑いだした。

「それにしても、あの男ももう完璧に終わりだな。前金で良かった良かった…おーこわっ」

再び出された水割りを飲みながら、余裕の笑みを浮かべていた。


帰りの道すがら、カムイは

「アイツら完璧嘘付いてやがったなぁ」

と、いつもの審美眼で見極めて腹を立てていた。

「まぁ俺でも分かるわ、あんなん。裏で何でも屋稼業してんのは奴らだけだ。これでアイツらとこの事件が繋がったのが分かった、それだけでいい。ヤクザ相手だ、俺らも好きにやればいい…」

亀吉は何処か寂しそうな表情で電話を掛けた。

「忠、裏は取った、第2フェーズだ。豊くんもいるんだ、無理はするなよ…」


『マスター、申し訳ない…手遅れのようですね……』



レギュラーズ・イレギュラーズ


第3話 鬼が出るか蛇が出るか、余計なもんまで出るか

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