「さみしがりやだね」

 つらい。さみしい。さみしい。日向がこんなにさみしいのに、周りはみんな楽しそうで、それがさらにさみしくて落ち込んでしまう。分かってる、こんなのは日向が勝手にそう感じてしまっているだけだ。被害妄想だ。分かっていても、やっぱりさみしい。

「やっぱりここにいた」

 だからこうやって、日向を探しに来てくれる人に寄りかかってしまう。

「……ごめんなさい」

「それは何に対して?」

「迷惑、かけてばかり」

「今更だよ、そんなの気にするなら次はもっと分かりやすい場所にしてくれ」

 迷惑を否定されなかった。でも、次も探してくれるんだ。

 日向と澪は小学校に上がる前からの友人で、いわゆる幼馴染だ。近所に近しい年の子は日向と澪だけで、よく二人で遊んでいた。似たところなんてひとつもない二人はそれでも不思議と馬が合って、今でも付き合いが続いている。

 小さな日向は今よりうんと人見知りだった。外に出たがらなくて、だけど家で遊べるおもちゃも少ない。おままごともゲームもあまり好きじゃないし、何より日向は手先も器用とは言い難い。そんな日向に、澪は二人だけの暗号を作ろう、と言ってくれた。お互いにしか伝わらない文字。暗号。とってもわくわくする響きに日向はうんと頷いて、ああでもないこうでもないと暗号を作るのに時間を費やした。懐かしい、日向の大事な思い出だ。

「難しかった?」

「ちょっとだけ。にしてもさすが日向だね、使い方が上手い。まさかあそこでフェイクを入れてくるとは思わなかったよ」

「へへ……頑張ったもん」

「遅くなってごめん、寒くなかった?」

「大丈夫。今日は陽は出てないけど、風もないし」

 本当は少し強いくらいの風が好きだ。冷たさが心地いいし、ひとりのさみしさを紛らわせてくれる気がする。

「やっぱり次は分かりやすくして。場所でも暗号でもどっちでもいいからさ」

「え、何で……面倒だった? 嫌になっちゃった? ごめん、ごめんなさい。もうしないから、しないように頑張るから、ごめん、ごめんなさい」

「違う違う。もう、日向の早合点は悪い癖だよ」

「ご、ごめ……」

「すぐ謝るのも」

 そう言われてしまえば日向はもう黙るしかない。

「日向は風、ある方が好きでしょ」

「え、う、うん。好き。さみしくないから」

「日向は本当にさみしがりやだね」

「……嫌?」

「嫌じゃないよ。困ったなあとは思うけど、それも含めて日向だし。急にもうさみしくないからいいよ、なんて言われる方が嫌だ」

「言わない! 絶対言わないよ。私、澪がいないとだめだよ。澪だって知ってるでしょ」

「困ったお姫様だね」

「じゃあ澪は王子様?」

「女の王子様でもいいならね」

「女とか男とか関係ないよ。私にとって澪以上の人なんていない」

「それはそれは。恐悦至極にございます、お姫様」

「……澪はすぐそうやって茶化す。それに私だって澪の王子様になりたい。……頼りには、ならないけど」

「なってくれるの?」

「なるよ。頑張る。澪は私だけの澪だもん。他の人になんて絶対あげない」

「そういうとこだけ強気だよねぇ」

「め、迷惑……」

「じゃないってば。いやあ、愛されてるなあって思って」

「? うん。好き。澪が一番好き」

「……とんだ天然たらしの王子様に捕まってしまった」



2021.05.16

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