アンハッピー魔法少女⑥
少し帰りが遅れたのもあり、食卓には既に料理が用意されていた。
もちろん、そこに私の分はない。
私はただいまも言わずに自室へ戻り、布団にダイブした。
今日は色々あって、メンタル面で疲れた。
明日からのことを思うと、憂鬱で仕方がない。
――彼女と話したい。
私は焦燥に駆られ、チャットアプリを開く。
AIHAからのメッセージはなかった。
『学校終わったよ。最悪』と送ると、すぐに既読がついて、AIHAのアイコンの横に「メッセージを入力しています」と表示された。
AIHA:今日は遅かったね?何かあった?
shizuka:お昼休憩が終わって教室に戻ったら、鞄と中身が隠されてた
AIHA:え...それってイジメ...だよね?大丈夫?
shizuka:別のクラスの子が助けてくれたからなんとかなったけど...明日からどうしよう
AIHA:先生には...言えたら言ってるか...その助けてくれた友達に守ってもらうことってできるの?
shizuka:守ってくれそうだけど、クラスも違うしいつも一緒にいられるわけじゃないから...
AIHA:そっか...つらいね
shizuka:ごめんね、こんな話
AIHA:ううん!頼ってくれて嬉しいよ。今度会えない?
shizuka:会うってどこで?
AIHA:まだ考えてないけど...最近会ってないから
shizuka:うん、私も会いたい
AIHA:じゃあ決定ね!しーちゃんはやりたいこととかある?
shizuka:映画観たいな
AIHA:分かった!予定組んだらまた連絡するね
shizuka:うん。ありがとう
彼女と話している間は、嫌なことを忘れられる。
でも、最近は家庭が切迫しているみたいだから心配だ。
詳しいことは話してくれないし。
私はあの日のことを忘れていない。
彼女と一緒に死ぬために森の廃墟に向かって、いよいよという時になって泣きつかれたことを。
私はあの時、死ぬはずだったのだ。
なのに今もこうして生きている。
それはなぜ?
分からない。
あの日から、大切なネジが欠けてしまったようだ。
布団に投げ出したスマホを拾い上げる。
クリアしかけのパズルゲームがあったのを思い出して、それを起動した。
画面が上と下で分割されており、下部がパズル部分で、上部には敵が配置されている。
落ちてくるブロックの色を揃えて消して、そのエネルギーで敵を攻撃する。
それをひたすら繰り返し、あと一歩で倒せるというところでタイムオーバーになってしまった。
「もう、HP高すぎ……」
萎えてアプリを落とそうとした時、異変が起きた。
コンティニューは押していないのに急にブロックが動き出して、巨大なエネルギーを生成して敵を攻撃し始めたのだ。
何が起きたのか分からず画面を食い入るように見ていると、あっという間に敵が撃破されてしまった。
画面に、GAME CLEAR!! の文字が映し出される。
「え、どういうこと……? バグ?」
こんなバグ、聞いたことがない。
ブロックが勝手に敵を攻撃するなんて……。
しかし、すぐにもっと信じられないことが起きた。
ブロックがカタカタと動き出して、何かの形を作り出したのだ。
「え、え、なに!?」
怖いけれど、目を離すことができない。
ブロックが作り出したのは、女の子の顔だった。
それには見覚えがあった。
それは、『魔法少女アプリ』のアイコンに描かれていたあの
『ハアイ、元気ー?』
「ひゃあああぁああ!」
私は心臓が破裂するほど驚いて、スマホを投げた。
『ムゴムゴムゴ』
「な、なんなの!? もうやめて!」
私は恐る恐るスマホを拾って『魔法少女アプリ』を消そうとした。
でも、どう頑張っても消すことは叶わなかった。
『ムダだワよ。一度インストールされたら、消せないのヨ』
「あんたなんなの!? 私が何をしたっていうのよ!」
『アンタ、魔法少女になるのヨ』
「は……? どういうこと?」
『そのままの意味だワよ。アンタはあの方々に選ばれたのだワ。これは光栄なコトなのヨ』
「魔法少女なんて……そんなの作り物よ。現実にはいない。あなたが誰に指示されてこんなことしてるのか知らないけど、私はそんなの興味ないから」
『強大なチカラを手に入れるコトができるなら?』
「そんな方法があるなら、こんなに苦労しない!」
『それがあるのだワ。アンタ、いじめられてるんデショ? そいつらに復讐したいとは思わないのカシラ?』
「どうしてそのことを……」
『誤算だったワ。まさかこんなに時間がかかるなんてネ……もう八割が魔法少女のチカラを享受したっていうのに』
「……なんの話?」
『いい、今この瞬間にも、アンタみたいなフコーな少女たちは魔法少女のチカラを使ってイヤなやつらを排除してるのだワ。だのに、アンタは未だにグズグズしていて情けないコトこの上ない!』
「そんなこと言われても、私は……魔法少女なんて……」
『まあ、どうしてもっていうなら無理強いはしないケド、"見て"みてからでもいいんじゃナイ?』
唐突に画面が切り替わった。
そこには夕方の路地裏を走っている少女が映っていた。
彼女は何かから逃げているように見えた。
「なに、これ……」
『ヒヒヒ、今からオモシロイコトが起きるだワよ』
「面白いこと? 彼女……逃げてるように見えるけど」
少女は路地裏を駆け抜けて、河川敷に飛び出した。
すると、画面外から派手なコスプレ衣装を着た少女が現れ、それを見た少女は恐怖に顔を染めて尻餅をついた。
コスプレ少女が、少女に歩み寄っていく。
少女は何かを叫びながら、後退る。
明らかに異常な状況であることは、私にも分かった。
「ね、ねえ……この人大丈夫なの?」
『ヒヒヒ、カノジョ、もう終わりヨ』
アビスの言う「終わり」が何を示すのか、理解できなかった。
でも、それが意味することをすぐに理解することになる。
コスプレ少女は未だ尻餅をついたままの少女の間近まで近寄ると、右手を天に突き上げた。
その瞬間、起きた出来事に目を疑った。
コスプレ少女の右手に光が収束したかと思うと、たちまち巨大な槍が生成されたのだ。
それを見た少女の顔が、恐怖に染まっているのが画面越しにも見て取れた。
私はこの後何が起きるのか、分かってしまった。
槍が振り上げられる。
少女の断末魔が響き、彼女の首と胴体が泣き別れになった。
思わず目を伏せた。
『ギャハハハハ! ついにやった! やったやったったった! これでカノジョは一人前だワよ!』
「え、映像を消して……」
『釣れないわネ。でも、これでわかったデショ。
「魔法少女って……あんなのただの殺人でしょっ。私にあれをやれっていうの?」
『イカスもコロスもアンタ次第。殺したくないなら、ビビらせるだけでもいいのだワ。せっかくこんなチカラを授かったのに、何もしないのはもったいないだワよ』
「そんな、私は……」
『アンタのあのウザったい妹を黙らせてやるコトだってできるのだワよ』
胸がざわついた。
妹――。
私はアレのせいで、人生をめちゃくちゃにされた。
もし、アレに復讐できるとしたら。
「……本当に、あんなことが私にもできるの?」
『ヒヒヒ……モチのロンよ』
理性が音を立てて崩れていく気がした。
抑えていた黒い感情は、どんどん大きくなっていき、悪意という名の核となって投下されようとしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます