アンハッピー魔法少女④
「……だ、大丈夫?」
『グフ……』
私はとりあえずスマホを拾い上げ、魔法少女に話しかけてみた。
最近のAIは精巧だって聞くし、人間みたいな反応を示してもおかしくない。
そう思うことにした。じゃないと、恐怖でスマホをかち割ってしまいそうになるから。
『アンタ、見かけに反して激しいのネ……脳天勝ち割れるかと思っただワヨ』
「いや、あなたロボットでしょ……。痛いとかあるの?」
『ンな! 不名誉なのだワ! アタイはあんな角張ったやつらとは違うワ。アタイはアビス。アンタ達を救済するために生まれた魔法生命体なのだワ。気軽にアビーって呼ぶのだワ』
「アビス……? 魔法生命体……? なんだか分からないけど……そういうのは間に合ってるから他所でやってくれない?」
『アタイのコトは気軽にアビーって呼ぶのだワ。それに、このアプリを開いたってコトは、魔法少女に興味があるんデショ?』
「いや、それは間違えて開いただけで……」
『きっかけはどうでもいいのヨ! 肝要なのは、アンタがこのアプリを開いてアタイを呼び出したってコトなのだワ。ていうかそもそも、アンタのスマホにアプリがインストールされてたデショ。それはつまり、アンタにはソシツがあるってコトなのだワ』
「素質って……なんの?」
『それはもちろん、魔法少女なのだワ!』
「……悪いけど、もう次の授業始まるから……」
『あ、チョット!』
私は名残惜しそうにするアビーを無視してスマホをスリープモードにした。
「魔法少女って……子供じゃあるまいし」
すぐにアプリを消せてないことに気づいたけれど、またあのお喋りなAIが現れるのが憂鬱だったのでそのまま教室に戻った。
***
「…………え?」
教室に戻った私は、すぐに異変に気づいた。
机の横にかけてあったはずの鞄がないのだ。
何かの衝撃で落ちたのかと周りを見てみたけれど、どこにもない。
「あ、あの……私の鞄知りませんか?」
「え! し、知らない……」
嫌な予感がして、クラスメイトに聞いてみたけれど、皆知らないの一点張りで顔を合わせようとしない。
どうして?
もう授業が始まる。
これじゃあ、授業を受けられない。
どうして……どうして……。
「あれ〜? 名楽さん、鞄はどうしたの〜?」
「え、あっ……」
どうすればいいか分からず狼狽していると、後ろから馬鹿にするような声が投げかけられた。
振り向くと、それは教室の後ろの席を陣取っている
彼女のサイドには、彼女とよくつるんでいる
そして私は理解した。
彼女達の
鞄は仙崎達が隠したのだろう。
考えるまでもない。心配する振りして、あんなに楽しそうにしているのだから。
「え、えっと……どこか分からなくて……」
「それは大変! もう授業始まっちゃうって!」
「ど、どうしたら……」
「探しにいこ! まだ間に合うから!」
「でも……どこにあるか……」
「あ、二階の女子トイレに名楽さんの鞄ありそうだな〜!」
仙崎があっさり鞄の場所を明かした。
教えないと思っていたから、内心ほっとした。
その場所なら、今から走って向かえば授業までにギリギリ間に合う。
「二階のトイレだって! 名楽さん急げ!」
「ダッシュダッシュ!」
「う、うん」
彼女達は私を玩具のように弄んでくる。
腹が立つけれど、それより今は鞄を取ってくることが優先である。
私は胸に黒い感情が渦巻くのを感じながら、急いで教室を出た。
「はあっ、はあっ、はあ」
夢中で走ったせいで、呼吸が乱れる。
背中には汗がじんわり滲んでいた。
そうして二階の女子トイレ前に着く頃には、肩で息をするほど疲れ切っていた。
鞄、鞄、鞄……。
トイレの入口前にはなかった。
私は中に入り、手洗い場にもないことを確認すると個室を一つひとつ確認していった。
最後の一つ。鞄はこの中にある。
それまでと同じように扉を開けようとしたけれど、鍵がかかっていて開かなかった。
誰か入ってる……?
「す、すみません! 誰か入ってますか?」
扉を叩きながら
「あ、あの! 私の鞄知りませんか? 鞄がなくて困ってるんです!」
食い下がるも、一向に返事はない。
私は我慢できなくなって、隣の個室に入り、便器の上に立って壁の縁を掴んだ。
「ふんっ……くっ……」
それでも高さが足りなかったので、両腕の力だけで体を持ち上げる。
運動をしない私にとっては、それだけでも大変だった。
それでもなんとか上がりきり、個室の中を確認するとそこには誰もいなかった。
しかし、便器の上に鞄を見つけた。
「はあ、はあ、はあ、ふんっ……!」
私は最後の力を振り絞って、壁の縁に座ると落下しないようにゆっくりと下りた。
手こずらせるためにわざわざ個室の鍵を閉めて隠すなんて……どこまで性悪なのか。
確認のために鞄の中身を見ると、中には何も入っていなかった。
「え……嘘……」
脳裏によぎるのは、動物園の動物を見るような目で私のことを見る仙崎達の顔。
もう間に合わない。
私は両膝をついて、しばらく放心していた。
授業の開始を告げるチャイムが虚しく鳴り響いた。
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