第15話 カナリアの本当の目的。

「それで、私達だけ抜け出してきちゃいましたけど、よかったのでしょうか?」


 当初予定していたディナーをアイシャと二人で取りながら、俺はうんと首を縦に振った。そもそも例のパーティーは、シスアの陰謀を阻止し、毒物を回収、回し者を改心したシスアに引き合わせるだけで簡単に終息するものだった。


 俺がこれ以上介入する必要はない。


「あの……カナリアさんと、ケージくんは仲直りできたんでしょうか。決闘が終わった後もずっと険悪なムードでしたけど」


 ナイフを使って、肉を切って口に頬張る。ジューシーな肉汁が口内に広がって、アイシャは幸せそうに口を綻ばせていた。


「もともとあの諍いは、単なる行き違いでした」


 俺は、アルドから得た情報を元に分かりやすくアイシャへと伝える。


「カナリアさんが『聖女』としての力を得た後、故郷を出たのは何故だと思いますか?」


「それは……あのオルゴ様からスカウトを頂いたからだってベリアルさんが説明していた通りの話だと思うんですけど、違うんですか?」


「ええ。もっと大事な事実がそこには隠されていました」


 俺はナプキンを取って口元を拭く。


「彼女の母親は現在、


「……!」


 その事実だけで、何かを察したらしい。今までの話に新しい糸口が生まれた事で、事態の凡そが掴め始めて来た。


「つまり、カナリアさんは『聖女』としての力を存分に発揮する為に、オルゴ様と修行に出掛けられていた訳ですね!」


「その通り。『恩恵』には通常熟練度が存在します。使い込めば使い込む程、更に力を引き出すことが出来る。もし、『聖女』の力が最大限発揮されればきっとその病も治せるのだと考えたのでしょう」


「そっか……だから、急に決闘なんて始められたらカナリアさんとしては当然心象は良くないですよね。オルゴ様的には、自分より強い人間ならその後の彼女を託しても構わないと考えていたんでしょうけど……」


「ケージ様は、その事実を知らず、オルゴ様の事をただ『幼馴染を連れ去った野郎』としか映らなかった訳です。道理であれ程揉めていたんですね」


 カナリアの親族に因れば、毎回ケージを巻き込んではおけないから、母親の問題はケージに頼らず自分の力で解決しようと考えていたそうだ。故郷を去る時も、ケージに断りを入れる事もなく去った。言葉足らずだったカナリアにも多少の問題があった。


「でも、誤解が解けたならこれ以上言い争う必要はないでしょう。好きな女の子の為に身体を張ってでも力になりたいと思うのは男の本能と呼ぶべきものです。今頃、人目も憚らず二人は泣きながら抱き合っていたりするんじゃないですかね」


「流石に人目は気にすると思いますし、泣きながら~なんてちょっと大げさな気もしますけど……仲直り、してるといいですね」


 □■□


 事後処理の方はこちらで先に手を打っている。

 まずは、隣国の毒物を持ち込んだなら取引相手を炙り出して証拠を掴む事は容易だ。それくらいの事なら、俺が抱える傭兵なら簡単にやってのける。


 そしてその情報を元に、国王様を突く。

 そうすると、国王様は無関係を装う為、マイスター家の独断であると国民に周知。計画の全貌は一部を隠して露呈し、マイスター家は貴族を剥奪される。


 オルゴについては冒険者ギルドの方で保護し、新たに本部へ登録の移転を行う。俺の管理下に置いておく方が、こちらとしても都合がいいからな。


 こうして、長きに渡る戦いに終止符が付いた。




 数日が経って俺達は通常業務へと戻りつつある。

 だが少し懸念があるとすれば、


「最近……ケージさん達来ませんね」


「仕方ありませんよ。俺の方からケージ様に回復に役立ちそうな薬草や、魔法を補助する媒介アイテムについての情報を流したので最近はそれらに躍起になっていたでしょうから。まあ早ければ今日にでも結果が分かると思いますよ……」


 俺達が、雑談を交わしているとギルドの扉がバァンと勢い良く開かれた。噂をすれば何とやら。主役のお出ましの様だ。


「代行……じゃなくて、ベリアルさん、やったよ!」


 ぶいっと指を二本立ててアピールしてくる。その横ではカナリアが深々と俺に礼をするのが見えた。謝意は伝わったがお辞儀したままで戻る様子がない。


「カナリア様、顔を上げてください……っ」


 俺は急いで彼らに駆け寄った。俺の言葉を聞き入れてなんとかカナリアは俺に向き直った。


「良かった、それではお母様は……」


「はい、今は大事を取ってまだベットで休ませていますが、前よりは格段に体調が良くなってきています。本当にありがとうございました」


「いえいえ、滅相もございません。『聖女』という稀有な力をお持ちなカナリア様だからこそ、お母様をお救いする事が出来たのです。俺はほんの少し、お手伝いしたに過ぎません」


「謙遜しないでよ。君がいなかったら今のボク達は無かった。だから、この恩は一生忘れる事はないさ」


「(ケージ様、でしたらお支払いの方もよろしくお願いしますよ。金貨の負債がたんまりと溜まっております。お早目にお願いしますよ)」


 俺が耳元で告げ口をすると、露骨にケージは顔を歪ませた。忘れていた訳では無いだろうが、そこを突かれると痛いといった感じた。


「分かった、今のボクならその額を稼ぐのもそう難しくないと思う。AランクでもSランクでも依頼を受けに来るから楽しみにしててよね」


「はい。期待していますよ」



 用が済んだ彼らはすぐに帰る様だ。

 確かに病気が治ったとはいえ、闘病生活で疲弊した身体が直ぐに全快するとは思えない。


「ベリアルさん、これからもよろしくね」


 ぎゅっとケージは俺の手を握った。

 初めてあった時より随分と逞しい腕だと感じた。


 幼馴染の為に貴族すら相手にした少年。


 そんな彼もまた、一人のお客様であるに違いない。



 俺のもう一つの顔。

 どんなざまぁも引き受ける、ざまぁ代行屋である。

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