第16話 世界を知った小鳥。


 ケージが帰った後、俺達は各自の席に戻った。嵐が過ぎ去った様な感覚だ、無性の虚脱感が全身を襲う。


「お疲れ様です、ベリアルさん。ところで、去り際に"またのご依頼"って言っていたと思うんですけど、何か依頼を引き受けていたんですか?」


 アイシャが要らぬ所に目を付けた。

 個室ではなく、公の場で発言したのは少々問題があったか。


「いえ、大した事ではありません。それよりも、カナリア様は今後どうするのでしょうね」


 カナリアが必死に冒険をしていたのは母親の病を治す為だ。それが達成された今、冒険者に固執する必要はないのだが。


「きっと続けると思います。今回母親を救った事で、より一層自分の『恩恵スキル』の有用性を思い知ったはずですから。この世界のどこかにいる病める人達の為に、あの『恩恵スキル』をもっと磨こうと努力するはずです」


「そうですね。冒険者の冒険が、個人の自己満足に終わるのは一番虚しいものですから。国民に慕われ、必要とされてこそその更に先にある理想へ冒険を続ける意味が広がる。カナリア様は、きっと成し遂げてしまわれるでしょうね」


 カナリアが『聖女』の『恩恵スキル』を正しく理解し、人々の役に立ちたいと願えば冒険へと再度向き合ってくれるはずだ。


 ちなみに、『聖女』を俺の『鑑定』にかけてみたが、そもそも女性限定『恩恵スキル』であり、人為的に取得するには千以上の薬草を集め回復薬ポーションを精製する必要があった。


 俺に取得出来そうにない。

 事実上の『固有恩恵ユニークスキル』だ。


「時にベリアルさんっ。カナリアさんが今後復帰するとして、どっちを選ぶと思いますか?」


 少女漫画的なシチュエーションでも想像しているのだろうか。私を求める二人のイケメン男子。ああ、私の為に争わないで〜的な。


 珍しく興奮気味で、是非とも俺に予想して欲しいようだ。


「オルゴ様はまだ諦めてないのでしょうか。まあ確かに目的が達成されたなら、干渉しない理由もなくなりますが」


「勿論ですよっ、で……どっち。ねぇどっち!」


「そうですね……」


 俺は真剣に考えてみた。

 生まれた時から常に一緒だった幼馴染。しかし、突如現れた貴族の息子という存在は、彼女にとって新鮮で世界が生まれ変わった様だったはずだ。


「世界を覚え、大空を自由に羽ばたいた小鳥カナリアがその後自身の住む鳥籠ケージに戻るか。ふふっ、まあでも、彼女の意志は関係なく、鳥籠ケージの方が───」


「あはは、答えになってないですよ〜っ」


俺とアイシャは暫く笑い合った。


 …………


 ……



『カナリアちゃん!』


『なあに? ケージ』


『ボクはカナリアちゃんの傍にいる。カナリアちゃんが嫌と言っても、ボクは絶対に君を離さないよ。だから───』




 ───……

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