第7話 決闘準備。

傭兵達が続々と集まり始めた。

 今日は情報交換会、そして今後の方針決めだ。


 最初に静寂を破ったのはアルドだった。


「まずは、俺からだな。オルゴ・マイスターは、既に勇者パーティーを形成していた。男一人と女四人、所謂ハーレム状態だな、羨ましい。おっと話が逸れた……オルゴの主武装は片手直剣、もう片手から初級魔法程度は放てる。魔法の牽制を軸に剣でトドメって寸法だ」


「カナリア様については?」


「聖女らしく、回復魔法に徹していた。あ、そうそう言い忘れていたが、彼らは冒険者支部の方で討伐した魔物の換金等して稼いでるようだ。大貴族の息子ともなれば、そうそう金に困る事は無い様だが、自由に使える金も少しは持っていたいらしいな」


 冒険者支部……どうりでギルドに顔を見せない訳だ。

『英雄』の効果は知らないが、冒険者に適した『恩恵スキル』であるには違いない。直接顔を拝みたかったが、決闘で敗北に歪んだ顔を見られるならば、今は我慢しておこう。


 終わったのを見計らって。ベイタが口を開く。


「次は、私ですな。シスア・マイスター氏は国王様とのお茶会をお楽しみになっておられました。なんでも凄く仲のよろしいとのことで」


「国王様と……? 一体何の話をするのでしょう」


「流石に、王宮まで乗り込む事は出来ませんからな。その辺の侍女に探りを入れる等して得た情報で、これ以上の事は何とも……」


「分かりました、今はそれで結構です」


 オルゴの父シスアと国王が密接にかかわっていた場合、『聖女』の情報も既に渡っていると考えるべきだろう。それと、ケージが言う夢の話、毒殺とどう関係するかだ。


 ケージは単に利用されただけ。なら犯人が本来殺したかった相手は、聖女カナリアという事になる。考えられる容疑者はオルゴかシスアのどちらか。シスアだった場合、話はかなりこじれてくるな。


 最大のヒントは殺した事で得られるメリット……か。


「最後にガルムさん、教えてください」


「うむ。カナリア嬢については、特に落ち込んだ様子もなく、日々前向きに暮らしておった。何でも、オルゴ様に茶菓子を作ってあげるとかで近くの街に材料の買い込みを行っていたそうだ。いやいや連れ去られた訳では無く、彼女には何か別の目的があったようですな」


 無論、徐々に内面に惹かれたとも考えられるが。


「つまり、オルゴ様とカナリア様は何らかの契約関係にあると?」


「まだ確信はできんが、恐らくは。オルゴ様の仲間にでも聞いて情報を更に集める必要がありそうだ。その話を聞いてケージという依頼者が何というかは知らんがな」


 十中八九、ケージは引き下がらないだろう。

 彼はカナリアに深く心酔していた。「彼女は幸せにやってるよ」と言った所で火に油。カナリアがオルゴを利用しているのか、そしてケージの元に戻るつもりがあるのか。


「決闘の日まで出来る事は少ないですが、後手に回れば誰かの思惑通りになってしまいます。今後の方針をお伝えしますので、今後貴方達は平行して調査をお願いします」


 ピースは出揃った。

 ケージ、カナリア、オルゴ、シスア。


 


 □■□


 決闘までの日にちも残り少ない。

 ケージには毎日『夢』を見てもらい、未来を観察している。

 しかし、最近では『夢』の内容が少し不透明らしく鮮やかな映像を見る事が出来なくなってきたという。これは正しく、『未来の変革』が起きる兆候だ。


 決闘に勝つ未来が仮に現れたとして……その後どうなるか。

 依頼者のざまぁを達成する本来の目的は完了するのか。



「最近お疲れじゃないですか? ベリアルさん」


 受付嬢が唐突に話しかけて来た。

 彼女は元【戦神の集いアルトシュ】の担当で名前はアイシャという。


 担当冒険者の全滅を受けて、一時は消沈していたものの、三日経つ頃には復帰し始めていた。絶望を経験しそれでも這い上がる姿勢は見事としか言いようがない。


「お構いなく、俺は冒険者の為に尽力することこそが責務ですから。アイシャさんこそ、気持ちの整理はつきましたか? あんな酷い事件があった後なのに」


「……はい。私分かったんです。冒険者に頼りきりで、その成長を傍から眺めるだけじゃなくて、私自身がもっともっと成長して冒険者を支えられる人間になろうって。私が今できるのは、挫ける事じゃない、前に進む事だって。きっとあの子達もそれを望んでいますから」


 強いな。

 きっと心が折れただろうと思っていたのに。


 メラメラと燃え盛る炎は、寧ろ勢いを増していた。

 純粋さは時に脅威だ。俺とは真逆の人種。


「そうだ、ベリアルさん。今度一緒にご飯でも如何ですか? たまには息抜きも必要ですし、良かったらなんですけど……」


「飯ですか。構いませんよ、どこで待ち合わせますか?」


「え。あっ……えっと終業後に一緒に行きましょう。ついでに行くみたいな軽い感じで……その」


 丁度息抜きは必要だと考えていた。

 アイシャという人間そのものは観察対象として申し分ない。


 俺の知らない世界に生きる人間に興味はある。

 人を疑うことを覚えた俺と、純真さを忘れぬ彼女。


 少し、時間を割いてもいいかもしれない。


「分かりました」


 □■□



 遂にこの日がやって来た。

 一週間後の今日、決闘は開始される。


 俺も勿論観戦に行く。

 何でも、貴族の特権を活かして、闘技場を丸一日貸し切ったそうだ。ちょっとしたお祭り感覚に心が踊る。


「わ、私。ベリアルさんと一緒に……っ」


 アイシャも連れて来た。

 冒険者ギルドの視察が一人より二人の方が、独断による行動と捉えられず、寧ろ好都合だ。


 実際には二人揃って有給を消化した。


「俺が専属で指導した冒険者がどれ程強くなったかをここでお披露目しようと思いましてね」


「な、なるほど。頑張って応援しなきゃですね」



 必要ない。

 応援などしなくとも

 だが


 彼が見た『夢』はどう変わったのか。

 依頼内容にない、勝利した先の未来。


 それがどうなったか。今拝むとしよう。

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