第5話 残酷な未来の掲示。

夜になると、俺は動き出す。

 ギルド職員としての顔を一旦忘れ、『ざまぁ代行』を始める。全ては、お客様の"心のケア"の為。


 今回の獲物は、公爵貴族。

 簡単にいくとは思えないが、だからこそ面白い。


「久しぶりですね、皆さん。キーラさん以来でしょうか」


 路地裏へ、三人の傭兵を既に集めている。

 左から順に、アルド、ベイタ、ガルムだ。

 ギルド終業の鐘の音を聞きつけやって来た。


「キーラの一件、ありゃあ酷かった。ただの数合わせって聞いてたはずが、まさかAランク指定の魔物討伐依頼とは」


「おまけに勝手に身体を賭けさせられ、奴隷コース寸前……流石に私も鬼かと思いましたぞ」


「相変わらずおっかねえ人ですな、旦那」


 散々な言われようだ。

 しかし、彼らは身の危険など顧みない。


「『金さえ与えれば何でもする』、そう言ったのは貴方達でしょう。破格な報酬に見合う働きを期待する俺が悪いのですか?」


 容赦しない性格なのは既に知ってるだろうに、今更文句を言われた所で知った事ではない。


「旦那と初めて会った時から、こき使われていた気がするぜ」


「野盗だった俺達に魔物討伐をさせ、街案内させ……いつから傭兵は"なんでも屋"になったのですかな」


「がははっ、旦那に会ったのが運のツキって事だな」


 初めてあった時。

 それは俺が、この世界に降り立った三年前の出来事だ。日本から転移し、右も左も分からなかった当時の俺をこの街まで連れてきてくれたのは彼らだった。


「昔話もいいですが、今は貴方達に至急お願いしたい案件がございます」


 今回の依頼内容についてを簡単に説明しつつ、決闘の件についても話した。三年も行動を共にする彼らならばこちらが何を望んでいるかも承知しているはずだ。


「アルドさんは、ご子息であるオルゴ・マイスター様の情報を集めてください。特に戦闘面においての特徴や苦手な攻撃など」


「合点ですぜ、旦那」


「次に、ベイタさんは、オルゴ様の父───シスア・マイスター様の動向を探ってください。誰と接触し、何を狙っているのかを逐一報告してもらいます」


「カナリア嬢を連れ去った目的が、その父にあるかもしれないと考えるのは当然の判断ですな、了解したですぞ」


「最後にガルムさんは、カナリア様の心境を探っていただきます。当の本人が何を考えているかで今後の状況が一変してしまいますからね」


「おうよ。俺に任せておきな」


 これで、役割分担は終了。

 大胆なアプローチを仕掛けない。

 今は「待ち」のターンだ。


 □■□


 今回はキーラの一件とは違い、武力等で簡単に解決出来る案件ではない。前回、ざまぁ対象者は冒険者ギルドという制御下にあり根回しする事で簡単にセッティング出来た。


 しかし今回はどうだ。

 相手は名のある貴族で、権力を盾にギルドの圧力をも押し通す程の社会的地位を手にしている。ギルドを操った所で、望むようなざまぁ展開には持ち込めない。


 つまり、カナリアを連れ去った本当の目的と、決闘での圧倒的な勝利。この二つが鍵になるに違いない。


 その時、


「ベリアルさーん、ケージ様がお見えになっています。何でも至急取り次いで欲しいそうで……」


「あ、あのっ、ゆめっ! 夢みたっ」


「十五歳の誕生日おめでとうございます、ケージ様。お話を承りますので、どうか落ち着いて」


 どこか様子がおかしいケージ。

 顔は真っ青になっていて、視点もどこか虚ろ。


 流石に異変に気が付いた。


「ダメだ、急がないと……!」



 きな臭い話になってきた。


 □■□



「改めて、夢の内容を御説明頂けますか?」


「うん。ボクが見たのは、


 現時点、ケージは敗北する未来は変わらない。

 だが、夢の内容はそれだけで終わらなかった。


「カナリアちゃんの計らいもあって、僕は自害せずに済んだんだけど……そこで口を出して来たのは、オルゴの父、シスア・マイスターさんだった」



『ケージよ。勝負を逃げ出さず、勇敢に我が息子へ立ち向かった貴殿の勇気を称え、特別に今日は我が屋敷へ招待しよう』


『父上!? 何を……っ』


『良いのだ、オルゴ。儂はこの男が気に入った』



「事件はその時に起こった……?」


「そう。褒美に屋敷で夕飯を振る舞ってくれるって話になって、その夜はちょっとしたパーティーが開かれていたよ。立食式で、驚く程高価な食材が次々出てきて……テンションが上がってたんだ」


 それ以降は、語るのですら少しキツそうだった。

『先見』は鮮明に先の未来を見る。


 ケージが見た未来は───。


「突然、カナリアちゃんが倒れた。口から血を吐いて、すぐに意識が無くなった。毒殺だったらしい」


「立食式なら、誰がどこで仕組んでもバレないですものね」


「いや、それだけじゃない。あろう事かその罪をボクに着せたんだ。勝負に負けて、連れ戻す事が出来ないなら、いっそここで殺そうと思ったんだろうって」


「まさか……それは」


「そうだよ。



 カナリアの毒殺。

 その犯人をケージとしてこちらも処罰。


 それも屋敷の中での犯行だ、死刑でまず間違いない。


「どうにかならないかな!?」


「まだそれは決まった未来ではありません。それにケージ様はのですから、問題ありませんよ」


「そっか……決闘に勝利すれば、未来は変わるんだ!」


「はい。あくまで『先見』は"自分が何も行動しなかった"場合における仮定に過ぎません。いっそ決闘に出向かない手もあります。しかしそれでは……カナリア様をお救いする事は出来ない」


「……っ!」


ここは、本気の覚悟が必要になる。


「今日から特訓致しましょう。確実に勝つ為にはイカサマより、相応の実力を身につけ正攻法で勝利する他ありません」


「でも……稽古をつけてくれる人なんて───」


「何を言ってるのですか。?」


「はい……?」

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