case2 連れ去られた幼馴染

第4話 『先見』を持つ少年。

 

『追放処理班』の業務が今日も始まる。

 冒険者ランクに固執する冒険者達が、用済みとなった冒険者を排除、追放し、より高みを目指す世界。


 仲間という信頼は実力によってのみ保証されるもので、足手まといと感じればすぐさま追放。随分と世知辛い世の中になったものだ。


 そんな追放処理業務とは別に、俺個人にをしてくる者がここ最近増えてきた。



 ───ほら、今日も一人……お客様だ。



「うわぁぁん! カナリアちゃーーん!!」


「ええと、事の経緯を順番に説明して頂けますか?」



 俺の目の前には、喚き散らす一人の少年の姿があった。

 落ち着かせる為席に座らせてはみたが、情緒が不安定なまま一向に何も話が進まないのでそう催促する。


「うぅ……ボクはケージ、15歳。つい最近になって辺境の村からこの街にやって来た新人冒険者だ。ボクには、カナリアちゃんって言う幼馴染がいたんだけどね? その子がある男に連れ去られたんだ!」


「はあ……誘拐って事ですか?」


「惚けるなよっ。男はマイスター公爵家の長男で、オルゴ・マイスターという。彼は、カナリアちゃんを強引に村から連れ出し、自分の家へと持ち帰ったんだ!」


 なるほど、所謂NTRだな。

 しかし驚いた。マイスター家とは国の中ではかなり有名な貴族の名だ。その息子の目に留まる人物、少し気になる。


「カナリア様というのはどの様な方なのですか?」


「ええっ、やっぱり気になる!? 気になっちゃうよねぇ〜あんな可愛い子、この街でも見たことないもんっ。美人だし料理上手だし、その上凄く気が利く子なんだ〜!」


「違います、そうではなく彼女が求められる素質や能力といった問題です。何か特別な才能等はありませんでしたか?」


「ああ……そう言われてみれば」


 ケージは少し考え込むと、やがて何かを思い出した素振りで俺に向き直る。


「『恩恵スキル』だよ。彼女に『聖女』の『恩恵スキル』が発現したんだ! ……ところで、『恩恵スキル』って結局何なんだっけ」


 ずこっ。危うく椅子から滑り落ちるところだった。

 だが、凡そ今の説明で納得出来た。

 本人は何も納得出来ていないようだったが。


「『恩恵スキル』は、我々人間にとって神から受ける特別な才能、ギフトの事です。『恩恵スキル』は通常、15歳になると発現し、協会や冒険者ギルドの登録によって、己の『恩恵スキル』を確認する事が出来ます」


「へぇ、でそれと『聖女』に何が関係あるの?」


「『恩恵スキル』は人生においてとても重要な役割を果たします。通常一人につき一つ……つまり、神から実質【天職】を与えられたと解釈できます。カナリア様の場合、それが『聖女』だった。『聖女』は《回復》《解毒》《強化》等の強力な魔法発動の効率を上昇させる、とても貴重な『恩恵スキル』です」


 俺の説明に一定の納得を示すケージ。しかし、田舎者故かイマイチ状況把握が遅い。


 こっちは既に、結論まで出ているというのに。


「つまり、その『聖女』っていうのが凄く凄いって事くらいは分かったんだけど……」


「はい。ですから、カナリア様の才能をオルゴ・マイスター様が掘り起こし、自らのパーティーに加えたのでしょう。確か彼は、『英雄』の『恩恵スキル』持ちで、現在最も"勇者"に近い人物だと言われています」


「えー! じゃあカナリアちゃんは勇者パーティーにスカウトされたって事!? そんなぁ!」


 だから結論が遅い。いらいらするな。


「さて。ここで本題ですが、俺への直接依頼と言うからには彼へのざまぁ展開をご所望という事ですよね? 具体的にどう決着させたいのか、ご提示頂けますか?」


「もう少し待って。ボクはカナリアちゃんを連れて行かれて凄くムカついているんだ。だから、


「はい?」


 唐突に見る目が変わる。

 小心者かと思いきや、かなりの度胸があるらしい。彼の双眸には明確な闘志が宿っていた。


 あるいは、ざまぁへの渇望か───。


「すると、あの男は玄関へと出てきて僕にこう言ったんだ。『期限は一週間後、私と貴方で決闘を行い、これに勝てばカナリアをお前に返してやる。だが、負けた時は責任をもって腹を切って詫びろ』と。ボク、悔しくて悔しくてっ!」


「な、なるほど……まさかそこまで話が進んでいるとは」


 ならば、求めるエンディングは一つしかあるまい。


「ボクは決闘に勝って奴を見返してやりたい。そして、カナリアちゃんを連れて故郷へと帰る! どうだ、ボクの計画に協力してくれないか!?」


 話がようやく見えた。

 つまり、彼は勝つ為の方法を享受して欲しいと頼み込みに来た訳だ。実力は格段に向こうが上、それでもイカサマや不正を使ってでも彼に勝って盛大に煽り散らして帰ると。


「それを早く言って下さい。


 俄然やる気が沸いた。

 "勇者候補"だか何か知らないが、実力があるからと横暴を効かせまくる野郎にはキツい一発が必要だ。


「ところで、一つ質問があるのですが……ケージ様が持つ『恩恵スキル』は一体何なのですか?」


「それが、分からないんだ。登録時点じゃ何も発現していなかった。だからそれが不安で仕方なくて……」


「ふむ。ならここは、俺が一肌脱ぎましょう」


 片目を閉じて彼を


「『恩恵スキル』──『鑑定』ッ!」


 名前 ケージ 14歳

 性別 男

 体力312/313 魔力100/100

恩恵スキル』 『先見(※)』

 ※15歳時点で発現

 ※精度は魔力依存


「なるほど。ケージ様は正確には14歳のようですね。きっと数日以内に15歳となって発現すると思いますよ」


「へえ、お兄さんそんな事まで分かるんだ凄いね! ずっとそのオッドアイが気になってたけどようやく謎が解けたよ!」


 ケージが俺の目を指摘した。

 覗き見るように顔を落とすので少し身を引いた。


「片目が黒でもう片方が蒼。それって義眼なの?」


「変ですか? 実はこれは、魔眼なのです」


「そうなんだ! ううん、格好いいよっ!」


 こういう所は純粋無垢で気が楽だ。

 発動を止めると、表示がなくなってしまった。


「依頼は確かに承りました。金貨は五枚、と言いたい所ですが特別に後払いの四枚と致しましょう。こちらは情報収集を先んじて行います、ケージ様は後日、『恩恵スキル』発現以降にお越しくださいませ」


「うん。発現はギルドの登録証で分かるんだよね」


「ええ。ですがケージ様ならそんな事をしなくても、きっと』を見る事になると思いますよ」


「夢?」


「はい。夢の内容は必ず紙に書き留めて置くように」


 そう言って俺は少年と別れた。

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