村編1 ようこそ!メイプル村へ(前)

明里達の後に、絵の中へと送られた透(とおる)、鈴良(すずら)、優志(ゆうじ)の3人は、どこかの道の上に立っていた。

きょろきょろとあたりを見回す3人。

「ここ、どこ?」

まず始めに透がそうつぶやいた。

見渡す限り、前も後ろもずっと透達が立っている5m幅くらいの道が続いていて、道の周りは短い草が生えている原っぱだった。

木が生えているほかは、地平線が見えるほど平らな景色が広がっている。

どうしよう?おじいさんがこっち向きで送ってくれたんだから、前に進むべきかなあ。

透がそう考えているとき、

鈴良がいち早くそれに気付いた。

そして、それを指し示して言った。

「ほら、見て!あそこに看板があるよ」

透が鈴良の指した方を見ると、ななめ前に大きな木があって看板がかかっている。

3人がその木のところに行って見てみると、その木には大きな矢印と「メイプル村まであと3km」と書かれた看板がかかっていた。

矢印は、前を指している。

「メイプル村って、わたし達が行くべき村なのかな?」

透がその看板をじっと見つめながら言った。

鈴良も優志もわからないので答えようがない。

わたし達は村で絵を書くために絵の中に入ったんだから、多分この村だよね。

透は自分でそう結論を出すと、

「この村に行ってみよう!」

と鈴良と優志を振り返って言った。

「そうね」

鈴良も同意した。

しかし優志は、

「あと3kmも歩くのかよ。あのじいさん、何で村に直接送らなかったんだ?」

と不機嫌そうに言った。

…………。

優志の言葉に、透と鈴良は苦笑いした。

3人はとりあえず村に向かって歩き始めたが、優志は看板を振り返り思った。

最初に見たとき、あんな木あったっけか?

そう、透と鈴良は気付かなかったけれど、あの木は最初はありませんでした。


しばらく歩いているうちに、優志はその木のことは忘れて、また不機嫌になって考え始めた。

ったく。部長に呼ばれて、せっかく久しぶりに部に出てきたのに、何でこんなわけわかんないことになるんだよ。

それに…。!

優志は今までのことを振り返って考えていたが、おじいさんの話のところまで行きついた。

「そういや俺達が行く村って、小人とかいるって言ってなかったか?」

優志の問いに、今までしていた話を止めて透と鈴良が答える。

「うん!いるって言ってたね。会うの楽しみっ!」

透がはずんだ声でうれしそうに言う。

「どんな村なのかしらね」

鈴良も楽しそうな顔で言う。

そんな2人に優志は冷静に言った。

「俺は小人とか、そういうものばっかりじゃないことを祈るな」

普通じゃないと、食べるところとか寝るところとかど―すんだよ。

優志はそう思っていたのだが、透は違う意味に受け取った。

?あ、そっか。優志くんは小人とか好きじゃないんだ。

透の頭の中では、小人、妖精などがいる。

「そういえば、お前達、名前何ていうんだ?」

そんな優志の言葉に、透の考えは中止された。

そして気落ちした。

え?わたし達、1年生の時からずっと同じ部なのに…。

一方鈴良は、当たり前のように納得し、

「あ、そっか。野村くんはあんまり部活に出てないから…。私は夢里鈴良」

と名乗った。

続いて透も、

「わたしは真坂透」

と元気に言った。

「とおると、うずら…?」

優志のつぶやきに、透は慌てて訂正した。

「違うよ。うずらじゃなくて、すずらちゃん!」

そう言った直後、鈴良がうれしそうに言った。

「透ちゃん、村の入り口が見えるよ!」

「え?」

お互いを見ていた透と優志は、その一言で前を向いた。

近づくと、「メイプル村」と入り口のアーチに大きく書かれているのがわかった。

「あ!本当だ!着いたんだ!」

透が喜びの声をあげる。

3人はア―チをくぐり、村の中へと入った。

村は普通の大きさで、いる人も普通の人、優志はちょっと安心した。

透達は、村の通りをまっすぐ進む。

…と、村の人達に注目されているのに気がついた。

その中で、子供を連れたおばさんが透達に話しかけた。

「おや、こんにちは。きつねさん達かい?」

「え?きつね?」

3人はあまりの意外な問いに驚いた。

もしかして、私達が見たことない人だからきつねが化けたと思ったのかしら?

鈴良はそう分析した。

「あ、違います。わたし達、旅をしていて遠くから来たんです」

透が答えになっていないような答え方をする。

でもおばさんは、それが何を言ってるかわかったようで、

「え?もしかして、村の外から来たのかい?」

と目を丸くして聞いた。

「はい」

透と鈴良が答えると、そのおばさんはとても驚いたようで、

「へえ。村に、他のところからのお客さんが来たのは初めてだよ」

と興奮したように言った。

「それで?どうしてこの村に来たんだい?」

「私達、絵描きで、この村で絵を描くために来ました」

おばさんの問いに、鈴良がはきはき答える。

それを聞いたおばさんは、

「それなら宿に泊まらないとね」

と言い、ちょうど外に出てきた体格のいいおじさんを呼んだ。

「お―い。ちょっと」

おじさんが来ると、おばさんは手短に説明した。

「この子達ね、絵を描くためにこの村に来た旅の人なんだってさ。それで、この子達が泊まるためにサーラの宿まで連れてってくれない?わたしゃ、シャミ―もいるから連れていけないんだよ」

「いいぜ。ナコ。まかせな」

それを聞いたおじさんは胸をたたいて言った。

「よろしく頼むよ。じゃあ、またね」

そう言って去っていくナコに、透と鈴良は、

「おばさん、ありがとうございました」

と言って手を振った。

優志も軽くおじぎした。

ナコも振り返って手を振ってくれた。

「じゃあ宿まで案内するからオレについてきな」

「はい!」

おじさんの後を透達はついていく。

周りを見ると、メインストリ―ト沿いに木製の建物が並んでいる。

少し昔の西洋といった感じで、3人は気に入った。

こういう村、映画で見たことあるな。

優志はそう思った。

私、こういう西洋の村に憧れあったのよね。

鈴良はうれしそうに街並みを見ている。

今日からここでしばらく暮らすんだ。楽しみ―。

透はわくわくしている。

「サ―ラのところはいい宿だぞ。

 オレは泊まったことないが、時々村の子供達も泊まりに行ってるみたいだ」

おじさんは楽しそうに説明してくれた。

透と鈴良は期待した。

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