村編2 ようこそ!メイプル村へ(後)

「ここだ。サ―ラの宿は」

そこはメインストリ―トの1番奥の建物。

3階建てくらいの大きさで、ちょっとおしゃれな看板がかかっていた。

おじさんはそこの扉を開けて、宿の人らしい女の人に声をかけた。

「サ―ラ、この子達、旅行者なんだってさ。

 それで泊めてやってほしいんだが」

サ―ラと呼ばれた、見た目が20代くらいの若い女の人は、透達に視線を移して顔を輝かせた。

「ええ!?旅してるの?私、旅人の本大好きでたくさん読んでるのよ」

そんなサ―ラに透は笑顔で答えた。

「はい、今日から旅を始めたんです」

サ―ラはそれを聞いて微笑んで言った。

「そうなの。ようこそメイプル村へ」

「お世話になります」

鈴良が頭を下げて言った。

透も頭を下げた。優志も軽く頭を下げた。

「ああ、そういえば、あんた達の名前は?」

おじさんが聞くと、透が真っ先に答えた。

「わたしは真坂透です」

「私は夢里鈴良です」

続いて鈴良も名乗ったが、優志は黙っていた。

「…………」

すぐに優志が答えなかったので、鈴良は慌てて紹介した。

「それでこちらが野村優志くんです」

しかし、おじさんやサ―ラはさほど気にせず、

「ふんふん。マザ・カト―ル、ユメサト・スズラ、ノムラ・ユ―ジだな」

この村は名前がカタカナなので、おじさんはこんなふうに理解した。

透の名前の切り方が間違っているが、発音は同じなので透達は気付かない。

「オレはダン・ぺルだ。ダンと呼んでくれ」

ダンはそう名乗ると、

「サ―ラ、この子達を頼むぞ。じゃあな」

足早に出て行こうとした。

透と鈴良はお礼を言い、ダンはにこやかに出て行った。

「あら、2部屋しか空いてないわ」

サーラが宿泊リストを持って声をあげる。

そして3人に申し訳なさそうに言った。

「今ね、他にもたくさんお客さんが泊まってて、2部屋しか空いてないの。それで2人と1人に

 分かれてほしいんだけど」

「はい。わかりました」

鈴良がそう答え、透は考え始めた。

優志はそんな透達を見ながら、壁にもたれかかっていた。

そして、

んなの、決まってんだろ。

と思っていたが、面倒なので黙って見ていた。

それに絶対に自分が思った通りに判断すると思ったからだ。しかし…。

透はいろんな組み合わせを考えていた。

う―ん。わたしと鈴良ちゃんが一緒になると、優志くんが1人になっちゃうし、わたしが優志くんと一緒になると、鈴良ちゃんが1人になっちゃうし…。

悩む透をサ―ラと鈴良は微笑んで見ている。

鈴良は透が真剣に考えているので、結論が出るまで黙っていようと思ったのだ。

そしてサ―ラはみんなで答えを出すのを待っている。

そうだ!

透は決心した。

「決まったよ!」

やっと決まったのか…。

そんなのわかりきったことじゃね―か。悩むことないだろ。

優志はそう思いながらため息をついた。

しかし、透の結論は優志の考えとは違っていた。

「鈴良ちゃんと優志くんが一緒の部屋になればいいんだ」

みんなも1人になるのは嫌だし、わたしが我慢すればいいんだよね。

透がそう思って出した案だったのだが、優志はその言葉に足をすべらせ、そして大声で言った。

「どこがどうなってそうなるんだ―」

しかし、優志の叫びを誰も聞いていない。

「あ、大丈夫よ。私が1人部屋になるから」

鈴良がそう言ってるのを聞いて、無視されていた優志は怒った。

「俺の話を聞け―」

その声で透達一同が優志の方を向いた。

野村くん、怒ってるみたいね…。

鈴良はそう感じた。

優志は自分の考えを率直にのべた。

「お前達(とおるとうずら)が一緒の部屋になればいいだろ」

しかし透は意外な顔をして言った。

「え?優志くん、1人でいいの?」

優志は意外な問いに驚いたが、ひるまず言い返した。

「お前達仲いいんだからそうしろよ。俺はどっちとも仲良くね―んだから」

透はそう言われても、また聞き返した。

「夜、こわくないの?」

「こわくね―よ」

じゃあ、いっか…。優志くんもそう言ってるんだしね。

透は納得して、サ―ラに言った。

「じゃあ、そうお願いします」

サ―ラはそれを受けて、にっこり笑って言った。

「それでは部屋分けが出来たゆなので、それぞれの部屋に案内するわね」

あ!

その時、透は肝心なことを思い出した。

そして、それを申し訳なさそうに言った。

「あの、わたし達、お金持ってないんです」

その言葉に鈴良と優志もはっとした。

かばんはそれぞれ教室にあるし、今はみんなおじいさんから借りたリュックしか持っていない。

そんな状態なので、誰もお金を持っていなかった。

しかしサ―ラはきょとんとした顔をした。

「お金?お金ってなあに?」

その態度に3人とも驚いた。

そして、鈴良が思ったことを聞いてみた。

「この村にはお金がないんですか?」

サ―ラはうなずいて言った。

「ええ。見たことも聞いたこともないわ。何に使う物なの?」

透がたどたどしく説明する。

「え―と、食べ物をもらったり、こういう宿に泊まる時に渡す物で…」

そこまで聞くと、サ―ラは透達に優しく微笑んで言った。

「そんなものいらないのよ。

この村はみんなが食べられるだけの充分な食料があるし、私も好きでやってることだしね。

それと交換に物はいらないわ」

そんなサ―ラの態度に、3人は心を打たれた。

サ―ラって素敵な人だなあ。ううん、さっき会ったナコさんやダンもとってもいい人。

この村の人達ってとってもあったかいね。

透は感動してそう思った。

サ―ラは受付から階段へと行って、てすりに手をかけて3人を呼んだ。

「さあ、部屋に案内するからついてきて」

透、鈴良は小走りでサ―ラのところまで行った。

優志もその後をゆっくりついていく。

サ―ラは階段を昇って渡り廊下を渡る。

ふきぬけになっているので、渡り廊下からは、さっきいた入り口や受付などが見える。

透や鈴良はそんな1階を見ながら渡った。

廊下の奥には部屋が3つあった。

そのうちの2番目の部屋の前でサ―ラは立ち止まった。

ドアプレ―トには『5』と数字がふってある。

そしてサ―ラは簡単に説明を始めた。

「ここの宿はね、部屋が6つあるの。渡り廊下の向こう側に3つ、こっちに3つね」

カチャ

サ―ラが目の前のドアノブを回してドアを開けた。

「そしてこの5号室がカト―ルとスズラの部屋ね」

サ―ラもダン同様に名前を理解していた。

透は疑問に感じた。

今、わたしのことカト―ルって言った?

透が首をかしげている間に、鈴良とサ―ラは2人で話をしている。

「和室なんですね」

「ええ。夜は布団を敷いて寝てね」

そしてサ―ラは優志に向き直って、透達を振り返りながら言った。

「私はユ―ジを案内してくるわね。ユ―ジ、行きましょう」


透と鈴良は早速部屋に入ってみた。

中はとっても和風で、あまり物がないので2人は部屋を広く感じた。

真ん中のテーブルには、お茶セット(きゅうす、湯のみなど)とおせんべいが乗っている。

「なんだか旅館みたいだね」

透も鈴良もウキウキした気分だった。

鈴良が畳に腰をおろし、リュック、スケッチブックを置いた。

透も荷物をおろして座る。

そして鈴良に聞いた。

「これからどうする?まだ昼間だし、村の中を見てまわろうか?おじいさんに頼まれた絵も描かなきゃいけないし」

鈴良はうなずいてから、ほっと小さなため息をついた。

「うん。でも少し休んでからにしましょう。私、ちょっと疲れちゃった」

透もそう言われ、疲れを思い出した。

そんなに疲れるほど動いたわけでもなかったが、初めてのところで気を張っていたこともあって、疲れを感じたのだった。

「うん、わたしも」

透達がそんなことをしている間、優志は…。

優志はサ―ラに、透達の部屋の隣、6号室に案内された。

「ここがユ―ジの部屋よ。ここは洋室なの」

その部屋はベットなどがあるせいか、同じ広さなのに透達の部屋より大分狭く感じた。

特に何の反応も示さない優志に、サーラは何も気にした様子はない。

「何かあったら下に来てね」

微笑みを浮かべたまま立ち去った。

そして、透達の部屋の前で立ち止まった。

2人はお茶を飲んでゆっくりくつろいでいる。

そんな2人に、

「ユ―ジの部屋は隣の6号室よ。カトール達も何かあったら下に来てね」

と伝えると、2人はサ―ラを振り返って、元気に返事をした。

「はい、ありがとう。サ―ラ」

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