山編2 アウトドア生活開始!(後)
星成__ほしなり__が戻ると、実__みのる__は立ち直っており、明里__あかり__と一緒に絵を描いていた。
そこに星成が意気揚々と帰ってくる。
「すっごくきれいな川でしたよ。
魚もいるし…」
星成が川の話をすると、明里は手を止める。
「へ―。いいね」
実も手を止めて、ちょっぴりわくわくしながらいった。
「魚がいるんだったら、釣りしたいな」
親友だからか、星成と考えることが同じだった。
星成は実のその言葉にうれしくなる。
そしてついつい禁じられていることをいいそうになった。
「そうだよな―。
おれ…いや、ぼくもそう思っていたんだよ」
そして慌てていい直した。
星成と実は、明里に「おれ」というのを禁じられているのだった。
その理由は、表向きは年上に対する礼儀だといわれている。
しかし本当の理由は、透達からこっそり聞いていた。
それは明里の勝手な意見だが、同情もあって、2人はいう通りにしている。
だから普通2人は、部活動中は「ぼく」といっていた。
特に星成は素もそうなので、めったにいい間違えることはなかった。
しかし機嫌がとても良くなると、ついつい友達と一緒にいる時に使う言葉が出てきてしまうのだった。
星成はごまかし笑いをする。
そして切り株に座り、絵を描き始めた。
ふう。危ない、危ない。
すぐにいい直したためか、明里の機嫌が悪くなった様子はない。
それを横目で確認した星成は、ほっとため息をついた。
そして描き終わった3人は、絵の見せ合いを始めた。
「わー。明里先輩の絵はいつもながら、細かくてきれいですねー」
星成が素直に、明里の絵に感心する。
そう鉛筆で細かく描くのが、明里は得意なのだ。
「そういう星成の絵も、ほわっとしてていいよね」
星成の絵は、明里の黒一色の絵とは雰囲気が違って見える。
水彩絵の具のやわらかい筆の味が出ていた。
それから明里は、実の絵を見て元気に笑う。
「実のもカラフルできれいだよね」
実の絵はクレヨンなので、星成のよりもずっと色がはっきりしている。
見た目がとても明るかった。
えっ!
自分の絵が意外にもほめられたことに、実はうれしくなった。
「そうっすか?」
そっか。きれいに見えるなら、クレヨンでもいっか。
そう明里のおかげで思い直す。
それぞれ道具の持ち味が光る、とてもいい絵に仕上がった。
そう初仕事を終えた3人は、スケッチブックを閉じて、軽く伸びをした。
絵を描いている間はずっと同じ姿勢でいたので、少し体が凝ったのだった。
各自軽い体操をして、体の調子を元に戻す。
それから明里はぱっと思いついた。
そうだ!#透__とおる__#ちゃん達に電話してみようかな。
そういえばあたし達が先にこっちに来たから、透ちゃん達がどんなところにいるのかも知らないしね。
そう明里は、制服のポケットに入れておいた魔法電話を取り出す。
「先輩、誰に電話するんですか?」
実がそう尋ねる。
「透ちゃん達はどうしてるのか、かけてみようと思って」
気持ちがはやる明里は、電話機を見つめながらそう答えた。
えーと、透ちゃん達へは星形のボタンだったよね。
そう思い出しながら、ボタンを押す。
すると星が光った。
そこで普通電話をする時のように、耳にあてようと明里は思った。
しかしその前に、透の声がしっかりと聞こえてきた。
『はい、透です』
そこで明里は、実達も話が出来るように、電話を真ん中の切り株の上に置いた。
そしてしゃがんで、電話に向かって話し始める。
「透ちゃん?あたしだよ、明里。
あたし達は結構楽しんでるよ。
きれいでいい山なんだ」
そう礼儀で、まずは自分達のことを話してから尋ねる。
者
「透ちゃん達は、どんなところにいるの?」
すると透もとても楽しいらしく、明るい声で返ってきた。
『わたし達はおじいさんに、村で絵を描くように頼まれたんです。
それで今、村の入り口で描いていたんですよ』
そんな透の雰囲気に、星成と実も明るく話しかける。
「透先輩!元気そうですね」
その声でますます元気になったらしい、透の声が聞こえてくる。
『実くん、星成くん!
うん。とっても楽しいよ。
村の人もとってもいい人達だし』
そんな和やかな雰囲気の時に小さく、#鈴良__すずら__#の慌てた声が聞こえてきた。
『透ちゃん、野村くんが…』
またその後、慌てているような透の声も聞こえてくる。
『あっ!#優志__ゆうじ__#くん、待って!』
………?どうしたんだろう?
明里達3人は不思議に思いながら、それを聞いている。
少し経って、透の声が聞こえてきた。
『あの…、ごめんなさい。
また後でかけ直してもいいですか?』
そんな慌てた透とは逆に、明里は明るく笑いながら答える。
「あ。特別用があったわけじゃないから、気にしなくていいよ。
でも暇が出来たら、ぜひかけてちょうだい」
『じゃあ今夜かけますね。すみません』
そう透は電話を切ったらしかった。
星のボタンの光が消える。
そこで明里は電話機をまたポケットにしまった。
今の話に対して、星成と実は不思議そうにつぶやく。
「透先輩、どうしたんだろう?」
「何か慌てていたみたいだけど」
そう首をひねる実達とは違って、明里は想像が付いた。
そこで意味ありげにいう。
「優志と一緒じゃ、透ちゃん達も大変だよね」
あいつは真面目にやらないだろうしなあ。
でもこの実達の方が、優志の相手は無理だしねえ。
ふう。
そうため息をつく。
そんな明里に、何だかわからない実と星成は問い掛けた。
「え?」
「明里先輩、何ですか?」
実と星成は、美術部に入ってまだ半年だ。
めったに部活に出ない優志のことは、ほとんど知らないのだった。
「まあなんとかなるよね」
明里はそう自分でうなずく。
そして実達に向き直って、右手を挙げた。
「さあ、それはとりあえずいいとして、あたし達も頑張るぞ!」
「は、はい」
実と星成は、明里の気迫に押されてうなずいた。
そううまくはぐらかされてしまった2人だった。
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