第33話 海獣

 翌朝。

 漁に出られない村の男性陣も含め、みんなが見守る中で私は丘の上に立っていた。

 何だってこんなにギャラリーがいるかな。


「【解放リリース】!」


 私は雷竜サンダードラグを解放する。

 海への超高飛び込みで閃いたといえば、もう分かるはず。

 こいつに乗ってアーケロンの真上まで行って、そっから飛び降りればいいのだ。

 私は【落下無効】があるから無傷だし、アーケロンはその大きすぎる体が仇となって逃げきれない。

 うん、我ながら完璧な作戦だね。


「そぉれっ!」


 雷竜サンダードラグの背中に乗って、空へと飛び出す。

 あっという間にアーケロンの上へ到着すると、私は雷竜サンダードラグを収納した。

 支えを失った体が、アーケロンへと急降下を始める。

 ぐんぐんとごつごつした甲羅が近づいてきた。

 よっしゃ、行けるぞ!


「……!?」


 ふと、海から何かが飛び出してきた。

 アーケロンは動いていない。

 その下から、何か太くて長いものが迫ってくる。

 その何かに、私は超高速で払いのけられ吹っ飛ばされた。

 昨日と同じように崖に叩き付けられる私。

 大ホームランだ。

 くっそぅ……空中で上手く姿勢が取れずに手で触れられなかった。


「ミオンさーん!!!」

「ミオン!!!」

「大丈夫なのか!?」


 心配する村人たちを、私は再び取り出した雷竜サンダードラグに乗って戻り安心させる。

 海へと戻っていく私をホームランで葬らんとした何か。

 それは巨大なイカの腕だった。

 よく見てみると、アーケロンの下にもう1つ、巨大な影がある。


「あれはクラーケンの腕じゃ……」


 呆然としたままミョン爺が呟いた。

 アーケロンだけじゃなかったとは。

 完全に不意打ちを食らってしまったな。


「今の感じだと、クラーケンがアーケロンを守ろうとしたように見える。そんなことがあり得るの?」


「あり得ん話ではない」


 ミョン爺は渋い顔をして頷く。


「アーケロンやクラーケンのような巨大な海洋生物を海獣という。ただし、海獣族ではない。ここがポイントなんじゃ」


「というと?」


「人間族や竜族、さらには鳥人族などなど。これらは高度な知能を持ち、意思疎通を図ることができる。ただし海獣は、知能はあれども高くはない。言語も持たん。じゃから海獣同士で、あるいは人間族や竜族などと明確なコミュニケーションを取ることはできん」


「なるほど。図体はデカいけど、頭は詰まってないってわけだ」


「そういうことじゃな。あれで知能など持たれたら、ちっぽけな漁村など一巻の終わりじゃわい。話を戻すが、言語を持たない海獣同士でも、主従関係が結ばれることがある。ちょうど今のアーケロンとクラーケンのようにな」


 アーケロンに近づく危険を、クラーケンが守った。

 あの状況から推察するに、アーケロンが主でクラーケンが従ってところかな。


「おそらく2頭は海中で偶然出会い、そして戦ったのじゃろう。そしてアーケロンが勝った」


 あんな大きい海獣同士の戦いなんて、まるでこの世の終わりだね。

 でもそんな激しい戦いを見たっていう噂は聞かないから、人目につかない海の奥深くで行われたんだろう。


「クラーケンが関わっているとなれば、また話は変わってくる。ミオン、どうするつもりじゃ?」


「大丈夫。今のは不意打ちを食らっただけだからさ。いると分かってるなら、クラーケンの腕が飛び出してきた瞬間に収納しちゃえばいい。あとはアーケロンの上に落ちればいいだけ」


「そう、上手くいくかの」


「やってみるよ。でも……」


 私は転移装置を取り出して言った。


「そろそろ王都に行かないと、今日の開店に間に合わない」


 何せ今日の分は材料があるのだ。

 それに念のため、明日は臨時休業ということを知らせておいた方が無難。

 となると、一旦は王都に行かないといけない。


「今日はニナとフェンリアと……」


 当番のみんなが私に掴まり、王都へと転移する。

 アーケロンとクラーケン。

 収納したら『美音』で特別メニューとして出すのもありだな。

 絶対にそうしよう。

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