第三十七話 神獣降臨
「何で私を選んでくれないのですか」
シャルロッテが走り去った後バトラーは一人捨てられた子犬のような雰囲気を
一度立ち止まり上を見上げる。
シャルロッテと
ずーっと、ぼーっと見上げる。
商業区なだけあってこの時間もまだ人の声がするが彼の耳には届いていないようだ。
(確かシャルと出会ったのもこんな夜でしたか)
昔の事を
それは
(運命、と思っていたのですがね)
見上げたまま思い返す。
まだバトラーが小さな頃、名も無き神獣は不覚を取って討伐難易度Sランクモンスターにやられて
そこに現れたのが冒険者として活動していたシャルロッテだった。
神獣とて最強の存在ではない。
肉体を有し、血も流す。モンスターとの違いは
そんな彼を一発で見抜き、治療を
(人に攻撃されることはあっても護ってもらうことがあるとは当時は考えられなかった)
上を向いたまま一人苦笑気味に思い出す。
それまで
実の所神獣が人の前にあまり現れないのはその姿や能力がモンスターと似ている所にある。
故にあまり人前に出ず、関わらない。その方が双方ともに何も心配する必要が無く安全に暮らせるからだ。
よってこうして人前に出るバトラーのような存在は珍しいのだ。
空を見上げ
少し動いてまた立ち止まる。
はぁ、と
シャルロッテがやられたという感じではない。
バトラーはシャルロッテの血の臭いを覚えている。今
だが血の臭いは濃くなっている。
これはバトラーがカーヴ工房に近付いたのもあるがそれよりも流血が
軽く、神聖さを感じ取った。
(シャルが、あの高い『
それに軽く
特別は、自分だけでいい。
なのに何で他の人に構うのか。
「……ダメですね。これではまた
正直バトラーはシャルロッテの
だがそれを他の人に向けられるのはこれまた不愉快。
特に相手が男ならば殺さんばかりの殺気を放つだろう。
しかし実際問題カーヴの時は大丈夫だった。弟子だから、だったのだろう。彼の
が、あの時の事を思い出して顔を
(あれは不覚でした。弟子だから大丈夫だと思いましたが今になるとそれが周り回って今になる。不快ですね。シャルが取られるのは。昔からそうですが、この気持ちは何でしょうか? )
恋心とはまた違う気持ちに気が付き
とられたくない、という気持ちが
(恐れているのでしょうか。自分の元からシャルがいなくなるのを)
可能性の一つを思い浮かべて、少し考え事をしながら先へ進んだ。
少し歩いたところで叫び声が聞こえた。
「! 」
人間の声だ。
何か、いる。
十中八九モンスターだろう。
「行かなくて――」
と、独り
止まった。
(震えている? )
足を見ると震えているのがわかる。
しかしわからない。
何故? 乗り
(……シャルがいないから、でしょうか)
そう思い
結局の所バトラーはシャルロッテがいないと何もできない事を
だが同時にさっきの事を思い出す。
(矛盾そのものがシャルロッテ、でしたか)
シャルロッテの言葉を思い出し、自分が何者か
(私は……。そう私は神獣『フェンリル』。誇りあるフェンリルにして――シャルロッテ・エルシャリアの従者です! )
瞬間バトラーの体が
人の姿から巨大な銀狼へと。
しかし――月光に照らされるその体からはどこか蒼白い光が放出されている。
今一人の神獣が、成体に
★
「くそっ! こいつらどこから! 」
「そこの貴方は逃げなさい! 」
町の門内側。
冒険者達が
様々な魔法が放たれ、当たる。
しかし傷一つ付けられていない。
「何でこんなところにレッサー・リッチが! 」
「ははは、弱い。弱いぞ! しかし数が足りぬ。
ボロボロのローブを着た人型骸骨モンスターがそう
それを警戒し冒険者達は一旦下がる。
しかし逃げ遅れた町民は腰を抜かして出てくるモンスターを
「早く逃げなさいって言ってるでしょうが! 」
「こ、腰が抜けて」
女冒険者が怒鳴るが町民は地面にへたり込み動けない。
彼女は
「! アリシア! 」
「スケルトン・ファイター?! 」
拳を構えるスケルトンを見て、その場にいる全員が驚く。
基本的に動きが鈍いスケルトンだがファイターやビーストと言ったモンスターは動きが速いからだ。
魔法使いタイプのレッサー・リッチに全員が装備を合わせていたためその速度に合わすことができない。
「カカ」
と、音が鳴ったと思うと剣士の男が吹き飛んだ。
先回りしてレッサー・リッチに攻撃しようとしていた魔法使いは殴られ、上に吹き飛び、
どんどんとやられていく冒険者達に逃げ遅れた町民はガタガタ震える。
それと同時にその頭蓋骨が見抜く。
ファイターの姿が消えたかと思うと町民に拳が
「カッ?! 」
スケルトン・ファイターが驚く。
それと同時に悪寒のような物がスケルトン・ファイターを襲い、モンスターはその場を離脱する。
そしてその
町民を護るかのように一匹の、巨大な銀狼が立っていた。
大きさは
そして悪寒の正体がわかった。
その銀狼から大量の『聖光』が
「馬鹿な! あれはフェンリル! 」
レッサー・リッチが
それと同時に手を前にかざし魔法を放とうとするが――
「ウォォォォォォぉォォォン!!! 」
聖光を拡散させたフェンリルことバトラーの手によって消滅した。
皆が
まるでそこに大切なものを
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