第二章 少女の奮闘
第十五話 それぞれの日常
「……師匠。今日も来ない」
しかし彼女の顔は浮かない。
彼女の師匠——つまりシャルロッテが引き
ボロボロだった
以前とは大違いである。
現在ニアはシャルロッテに弟子入り状態である。しかし同時にシャルロッテを職員として引き
そんなシャルロッテが
新しくなった木の椅子に背を
(コンテストのおかげで依頼は増えたけど師匠が来ない。どうしよう……)
通常師が居なければ教えを
(そ、そう言えば師匠ってSランク冒険者で魔技師ギルドの名誉
シャルロッテの
無論その分給料は上がる訳で……。
そして、ニアが席から立ち拳を
「パ、パトリックさんに相談しよう! 」
震えながら決心し、前に進まない足で何とかニアは工房を出た。
★
「ふむ。今日はこの程度かな? 」
「お疲れさまです。シャル」
「残念なことにモンスターは食べれない。素材だけでも
そう言いながらボクは素材を
全くもってめんどくさくい。皮に角、
バトラーに探知を頼んでいるから大丈夫だとは思うけど、こんな危険な場所でやる作業じゃないな。
ポキリ。
あ……。
「……一応売れるものなのですから
「わかってる。だがこれは不可抗力だ。そう。ボクを
「どんな
ほほう。バトラーはボクに
「……時に神獣はモンスターを食べるのか興味があるね」
「食べませんよ。そんなもの」
「いやいや食べたことがないだけでもしかしたら神獣たるバトラーの口に合うかもしれない。そうだ。今度手料理でも作って隠し味に入れてみようか」
「どんな
バトラーのため
フェンリルでもモンスターを食べると腹を壊すんだろうか?
興味が
「終わったようで」
「ああ。帰るよ」
そう言うとバトラーが巨大な銀狼の姿を取ってボクを運ぶ。
魔境の中心部から
「そう言えば工房の方は良いのですか? 」
翌日朝食後、フェンリルの姿を取ったバトラーがそう言った。
軽く作業の手が止まる。
現在彼の毛をブラッシング中だ。
全くもっていい毛並みだ。
そしてこれもボクのおかげ。感謝して欲しいものだが、
ふぅ、と少し息を吐き毛並みを
「行かないといけないとは思うが最近は
膝を折ったままのバトラーにボクそう言う。
すると軽く確認するかのように口を開いた。
「時には中心部も掃除しないと、ですからでしょうか」
「その通りだ。ここ数年は放置だったからね。これである程度は安心だ」
「また森が騒がしくなりそうですね」
「間引いても、間引かなくても騒がしいだろ? 」
「確かにそうですが森のバランスが崩れますので」
「毎回の事だ。圧倒的強者を潰したんだ。これも自然の
と、ブラッシングも終わり軽く立ち、高級ブラシを机に置く。
軽く――少し残念そうな顔をこちらに向けつつバトラーは人型を取る。
ブラッシングをしたのだからそのままフェンリル姿になっていればいいのに。
これじゃモフれないじゃないか。
「なに残念そうな顔をしているのですか」
「
「ジェルラードではありません。バトラーです」
「そうともいう」
「そうとしかいいません。で、行かないのですか? 」
少しこちらに
「確かに仕事は終わったけれども何も積極的にあの町に行く必要はないんじゃないかい? 」
「私とはしてその意見を
「言うねぇ」
確かにニアを弟子としてとった。だがあれは一時的なものだ。
しかし、従業員となってしまった以上は少しは顔を出さないといけない。それは分かる。
だが行きたくないものは行きたくない。
出来ることならばここの自給自足生活を
なにせここはボクにとっての天国だ。
人付き合いの心配がない。食料がある。素材もある。ここを天国として言わずにどこが天国か。
そう思っていると軽く背筋を伸ばしたバトラーが続けた。
「貴方の人間不信は今に始まったことじゃないので何も言いませんが、今回は、せめて顔を出すくらいはしないといけないか、と」
むぅ。今回は押してくるね。
何かな。バトラーはニアがお気に入りなのかな?
だとしたら少し不
見上げて軽く
「……人間不信は君も、だろ? 」
「私の場合は人間不信ではありません。単純に関わりたくないだけです」
「それを人間不信という」
「私の中では違うのですよ」
肩を軽く
なら、なおさら行くべきではないと思うのはボクだけだろうか。
彼は彼なりに線引きでもあるのだろうか。いやはやわからないフェンリルだ。
「あ~もう。わかったよ」
髪をくしゃくしゃしながら机の引き出しを開ける。
中にある
バトラーの方を向き顔を
幾つか道具をアイテムバックに入れて、気は乗らないが、扉へ足を向けた。
バトラーが扉を開けて廊下に出、一階に下りる。
「……行くか」
こうしてまたボク達はルーカスの町へ向かった。
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