第752話 ミュンヒ住民2

 ジェロのところに国外逃亡について近隣住民が相談に来ている。

『これって罠かな?』

『本心っぽいけれどね』

『本心だけど罠ってこともあるよね……』


「他国でも開拓をしているところはいろいろあると思いますから、真面目に働く人ならば歓迎してくれるかもしれないですね。でも、みなさんは奴隷ではなくてもこの地に縛られる何かがあったりしないのですか?」

「親たちは先祖代々の土地を離れて、何ていうがまともに生きていけないのならば……」

「確かに親兄弟を残して出ていくのも後ろめたいが、新しい土地で妻子を養って幸せになりたいんですよ」

「彼女持ちのお前は良いよな。俺なんて……」

 つまらない愚痴になりそうな気配なので、コンヴィル王国で有名な焼き菓子を提供して話題を変える。


「私はムスターデ帝国に不慣れですが、各国ともにこのように地方ごとの名産があったりするはずですよね。旅をする楽しみの一つでもありまして」

「冒険者なのに変わっているんですね、ジェロマンさんって」

「はい、美味しいものを食べるのも生きがいの一つですよね」

 微妙に住民感情を煽動するような言葉を混ぜつつも、決定的な隙は見せないまま土産も渡して帰らせる。


「罠だったんでしょうか?」

「どっちでも良いよ。罠だったとしても、他国に比べて今の場所の居心地が良くないと感じて貰えたのならば、作戦は成功だし」

「ジェロ様も悪い人になりましたね」

 リスチーヌに苦笑いをされてしまうが、自分でも少し自覚してしまう。

『開拓地テルヴァルデで受け入れるつもりじゃないの?』

『あそこに連れて行くまでが大変そうなんだよね……』

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