第500話 ラーフェン東方の国境攻防

帝国の守備隊長であるマリオ・ネッツァー少佐は、皇国の降伏勧告に対して応じない。

「良いか、俺たちはここで玉砕してでも皇国軍を足止めするのだ!今は併合されて地図から消えたが、ネッツァーの意地だ。ここで名を残せば二等国民と蔑まれているネッツァーの民が報われるのだ。家族のために!」

「ネッツァーのために!」



帝国軍の士気が高いこともあり、大方の予想通り、皇国軍のアルノワによる力押しはうまくいっていない。

木々を格子状に組んだ塀のような馬防柵(ばぼうさく)のために、騎士団の騎馬がその力を発揮することができない。数を頼りに強引に柵を倒しに行こうにも、その手前に堀があり騎乗の勢いのまま柵にぶつかることもできない。また、馬防柵の向こう側からの弓矢による攻撃のため、騎馬よりも足が遅い歩兵では狙い撃ちされ、その柵や堀への対処をさせるためにはこちらの損害が増え過ぎる。


「ええーい、こちらも弓で応戦しろ。それと魔術師団も働かせろ」

狙い通りに進まないため機嫌が良くないアルノワ。

「それが、我々騎士団の弓のほとんどは馬上でも使用できるショートボウでして、帝国軍は防衛のためのロングボウであり更に丘の上からのため、射程距離に差がありまして。もちろん、魔術師や弓兵には別人に持たせた盾の陰から攻撃させていますが、効率が悪く……魔術師も急拵えの部隊のため上級はほぼ居なくて中級以下ばかりのため……」

「我々は圧勝する必要があるのだ!急げ!」

「隙をついて逃亡される可能性もありますが、賭けに出てもよろしいでしょうか?」


帝国軍が狼煙を上げているのを見たが、あれは自分達が知る限りは増援依頼ではなく敵襲通報である。皇国軍はゆっくり進軍して来たのであるから、帝国軍は兵力差を知ってからも逃げることが出来たのに留まっているということは、ここで全滅することも覚悟のはず。増援待ちよりも足止め目的と思われる。

しかし皇国軍の足止めができず、無視されて、その先のザーローネに向かわれることを心配しているはずである。

そこで、今は数に任せて全方位を取り囲んでいるが、ある程度の包囲を解いてザーローネに向かう素振りをするのである。そうすると、背後を突いて攻撃してくるのを撃退する。


部下の作戦を聞いたアルノワは頷く。

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