第376話 ニースコン無血開城
「ジェロがモーネ姉上を連れて戻って来るまでは移動したくない」
「でも、ジェロマン様がモーネ王女殿下を連れて帰ってきたときに、今度はヒルデリン王子殿下が帝国に捕まっていると困りますよね」
嫌がるヒルデリンをユゲット達が説得しモージャンに移動させて何日かすると、先日の小隊レベルでは無い規模の軍勢がニースコンにやって来た。通常時のニースコンの兵力では確実に太刀打ちできない数である。
「私は誇り高きムスターデ帝国少将、ロルフ・ゲッツェ伯爵である。このニースコンの領主殿とお話がしたい」
「しばしお待ちを」
領主館に使いを出すと、覚悟を決めていたニースコン男爵が急ぎ城門に駆けつける。
「ニースコン領主のシャアヌール・エロー・ニースコン男爵です。お話を伺いましょう」
「立ち話というわけにもいかないでしょう。あそこにお話しするテーブルを用意しました。我が兵たちも下げますので、ご安心を」
互いに2人ずつを従えて、城門から少し離れた平地に設置されたテーブルにつく。
「そちらコンヴィル王国のギャストル第3王子が我々のところにいらっしゃいます」
「それはお手数をおかけしました。いかほどのお礼をお渡しすればよろしいでしょうか」
「逆に王子の値段をいくらと思われているのでしょうかね」
「はぁ、田舎領主には金貨1枚なのか100枚なのか想像がつけられません」
「ではまず田舎領地をいただきましょうか」
「まず、ですか?」
「えぇ、その後、価値を認識できる方とお話させて貰いましょう」
「つまり、ニースコンを明け渡しても王子は返して貰えないと?」
「そんなにお安いのですか?そちらの王子のお命は?」
ゲッツェの合図で猿ぐつわをしたギャストルが見えるところに引きずり出されてくる。
「わかりました。明朝までお時間を頂けますかな」
「我々も無駄に命を奪いたいわけでありませんので、結構ですよ」
想定される要求であったので準備はしており、特に女子供には早々にモージャンへ向けて出発させており先発隊は到着していたぐらいである。ラーフェン王国内から連れてくる軍勢が思ったより多くそれだけ時間がかかったので避難は進んでいる。
状況を理解しても土地を離れたくないと望む者だけが残った寂しい街であるが、無血開城して引き渡しされることになった。
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