第186話 冒険者ギルド幹部ザール

レナルマンからの経緯説明を聞いたザールはため息をついてから話し出す。

「依頼完了書についていた添状の内容とも合致する。もちろんモージャン子爵令嬢はオークダンジョン最奥でのことはほぼ知らないはずだが、魔人に関しては軽く触れてある。その前提で、依頼へは追加報酬を出すこと、別途子爵家がギルドに持参するので前払いしておいて欲しいとも書いてあったぞ」

「おぅ、太っ腹だな。やったな」

「イジドリックだったか。そんな簡単な話ではないのだぞ」


ザールが色々と丁寧に解説をしてくれる。

「自身が名誉付きながら騎士爵になったのはモージャンの街のスタンピードを落ち着かせたためと公には言われているが、お前たちなら魔人のことの情報漏洩を回避し情報統制をしながら対策検討をするためと分かっているだろう。単に現地のギルドマスターであっただけの自身が騎士爵ならば、二度も魔人を撃退し、一人殺している本人がその程度で済むわけがない。

しかも、ムスターデ帝国が魔人と手を組んでラーフェン王国を陥落させた事実、その魔人の息子がモージャンのダンジョンで後方撹乱していたのを殺して阻止した話。コンヴィル王国が魔人に対して危機感を感じないわけが無く、可能であれば自国領に攻め込まれる前に、ラーフェン王国領を戦場として撃退したいと考えるはず。その時の先兵にさせることも考えるならば、ますます上位の爵位につけて逃がさないはず。

せっかくジェロを目立たないようにしてくれていたアンブリスやメオンの気遣いは無駄になったな。いや、あいつらもジェロがそのうちに逃げられ無くなるとわかっていて権力を持たせるために王都への派遣に応じたのかもな。

爵位の本当の意味はわかっているか?国王と直接の契約魔法だ。もちろん奴隷契約のようなきつい物ではないが。だから貴族と言っても当主のみが絶対視される。嫡男ならまだしも単なる貴族の家族は、平民には強く出られても貴族内では優先順位は低い。

そんな戦争が始まるなか、魔人に対しても戦力と考えられる新規の貴族当主になることが確実視され、さらにこれから同盟強化するであろうラーフェン王国の王族にも恩を感じさせた人物。そりゃあ、唾のつけあい、自陣営への引き込み合戦の開始だろうな。だからモージャン子爵家も他家に弱みをみせないための追加報酬だろう。既に唾はつけている、というアピールとして。

だから当然、王女達が登城する際には一緒に呼ばれるだろう。モージャン子爵の令嬢とも一緒にな。自由行動ができる時間は少ないぞ。情報が伝わる前、今日明日がせいぜいだろう」

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