第168話 モージャンでの王太子

「おい、もっと美味い酒は無いのか?」

「申し訳ありませんが、この街ではそれが精いっぱいです(それだって、俺が大事にとっておいた秘蔵の酒なのに……)」

「ふん、つまらんな、この街は」

「(なら早く出て行ってくれれば良いのに……)はぁ、すみません」

ラーフェン王国の王太子オンハルト・ラーフェンが、ムスターデ帝国兵から逃げ込んできたコンヴィル王国、そのモージャンの街の領主館で領主の子爵ルベリート・バンジル・モージャンに対して、相変わらずのわがまま放題である。


「モーネやヒルデリンが援軍を連れて来るのにいつまで待たなければならないのだ」

「コンヴィル王国の王都ミューコンには通常の馬車で2週間。国王がすぐに派兵を決められてもその距離を直ぐに移動できるわけはなく」

「何度も聞いているからわかっておるわ!」

「(ならば聞くなよ……)申し訳ありません」

「そういえばお前の娘はどうした?この館ではまだ見られる方の容姿だから酌でもさせようと思ったのだが」

「(やはりそんなことを考えていたか)はぁ、用事を申し付けたので当分戻りません」

「何!いつ帰ってくる?」

「何週間もかかる場所ですので」

「ふん、ならば別の者でもよい。お前みたいな年配の男ではなく若い女性と飲みたい。どこか行け」

「は、失礼します」



「あなた、お疲れ様でした」

「あぁ、こんな自分勝手な王太子がこの館にいつまでいるのやら。どこか別宅を借り切ってそこに住んで貰った方が楽だな」

「それもあなたが費用負担されるのですか?」

「モーネ王女から奪ったお金は軍費にされたいだろうからな」

「返して貰えるのですかね?」

「まぁ本人からは無理だろうな。あまり期待せずに王都の官僚たちに要求してみるか」

「ところであの子、ユゲットは大丈夫でしょうか?」

「危険な旅だが、この館に残す方が別の意味で危険だったようだからな」

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