第89話 ギルド訓練場

マスターの部屋を出た後、メオンから話しかけられる。

「事務職のままだが、バスチャンみたいに勤務時間内でも自分を鍛えておけということだな。マスターもジェロには期待しているということだよ。もちろん俺もな」

「はい、ありがとうございます」

「ダンジョン最奥ではジェロに助けられたからな」

「いえ、私こそメオンさんがうまく挑発を引き継いでくれたから助かりました」

「あぁ、ジェロが無理して挑発しているのが分かったからな」

「お恥ずかしい……」

「ま、もっと強くなってくれると助かるということだ。期待しているな」



折角マスターから許可も貰ったところなので、魔法カードの整理という名目での新規入荷品のチェックに向かう。

『楽しそうね』

『しばらくご無沙汰だったからね。モージャンに行ってもあちらの管理品を見る機会もなかったし』

しかし、一通り見てみても、増えたなかに目新しい物は無かった。その上、以前にヴィクシムに教えた魔法名の魔術語の効果か、ヴィクシムによるラベル付けで整理はしっかりされていた。それでも、それなりの数の魔法カードを眺められて満足であった。



ギルドには訓練場として、弓矢や攻撃魔法の長距離の訓練をする場所と、剣や盾などの近接距離の戦闘訓練をする場所がある。

しかし、いまだに他人の目が気になるジェロとしては、どちらの訓練場に行っても他人が居るのを見ると腰が引けてしまう。

本当なら、刀を入手してから実際に振るったのがダンジョンコアへの一撃だけという状況を踏まえて、一人ではできない相手の存在する模擬訓練をするべきであるが、どうも足を踏み出せなかった。

「おーい、ジェロ。どうした訓練場なんて珍しいな」

バスチャンが大きな声で呼びかけてくる。

「いや、ちょっと」

「あら、ジェロさん。もしかして訓練ですか?一緒にやりましょうよ」

モージャンの街から来たリスチーヌまでが声をかけてくる。

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