第15話 簡易鑑定魔法

ジェロは足早に宿舎に戻り、早速≪簡易鑑定≫の魔導書を開く。

『嬉しそうだね』

『あぁ、いかにも異世界の魔法だから。確かに他の魔法も前世ではあり得ないものだけど、例えば回復魔法は元々の治癒力を増幅すること、水生成も空気中の水分を集めることの延長と思えなくもなかったから』

『そんな考えする奴、他には居ないわよ。やっぱりジェロは面白いね』

『そうか。で、鑑定は元々の自分の知識にもない情報をどこかから持ってくる魔法らしい魔法、ワクワクするよ』


この魔導書、最初に魔法の解説があり、続いて詠唱文である現代魔術語とその解説があり、最後に魔法陣とその解説がある。しかもそれらの解説は現代文で書かれているという非常に丁寧な物であった。そのため、魔術語についてヴァルの指導を受けるところは少なかった。


ただ、解説の中においても、対象物の鑑定情報をどこから入手するとの説明はなかった。前世記憶では良く登場していた“アカシックレコード”から入手するのであろうか。それとも対象物自体に含まれる何かを読み取るのであろうか。例えば木を切り倒して丸太にする、それを薪にする、釣り竿にする、弓にする、机や椅子にする等、作り手の意図によって変わるものを自我の無い対象物自体が知っているというよりは、世界記憶であるアカシックレコードから入手するという方が理解しやすい。


また得られた情報について、前世記憶では情報の書かれたウィンドウが目の前に浮かぶイメージが多かったが、この解説では、頭の中に元々知っていたように自然と浮かぶとある。実際に先輩ヴィクシムの≪簡易鑑定≫を使っていたイメージ、対象物を見つめると頭に浮かんだ物を手元でメモしていた行動を思い浮かべる。


ジェロなりに魔法を発動するイメージを固められたので、魔導書の魔法陣にも描かれた、魔力拠出、対象物特定、鑑定情報入手の流れを意識しながら詠唱文を唱える。試してみた対象物は自室内の椅子である。

アカシックレコードへの接続のイメージが難しく何度か失敗するも4回目には、中級上位の椅子で特殊効果は無い、と頭に浮かんだ。ジェロは木製椅子の品質に対する知見は無いので、明らかに≪簡易鑑定≫の効果であるとわかった。

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