第8話 神殿

 ジェロにしてみたらずっと育った孤児院もある実家のようなものである神殿である。目をつむっていてもたどり着ける場所である。

 さっき駆け込んできた親子が「神殿は不在だった」と言った言葉に期待しながらトボトボと向かったのだが、元気な声で迎えられる。

「あら、ジェロじゃない。久しぶりね。お帰りなさい。元気していた?」


『ちゃんと居たわね』

『うるさい……』


「うん、ただいま、シスター・フロラリー」

「またそんな他人行儀で。昔みたいにフロ姉でも良いのよ」

「さすがにそれはもう……」

「そうね、こんな立派な大人になったもんね。で、今日はどうしたの?こんな昼間から。ギルドのお仕事は?」

「それで来たんだけど、誰か居る?」

「そうなの?司祭様も皆も居ないわ。私もさっき帰って来たところだし。私が聞くわよ」


 神殿の応接室でフロラリーに経緯を説明する。

「あら、皆が不在になったのは申し訳なかったわね。でもジェロが助けてくれて良かった。神様は見て下さっているのね。それに治療費についてはギルドの方がおっしゃる通りが良いわね。お互いに揉め事の種はない方が良いから。にしても、やっぱりジェロの回復魔法はすごいのね。助けてあげてくれてありがとうね」

「いや、ここでシスター・フロラリーに教わった魔法だから」

「神職にもならないのに、そんなに習得できたのはジェロぐらいじゃない。その指輪も使ってくれているのね」

「もちろん……」


 魔法発動の補助として、杖以外にも指輪も使われている。この世界、発動体があると効率的であるだけでなく、師匠から初心者卒業を認める意味もあった。

 ジェロの師匠はこのシスター・フロラリー、ジェロがちゃんと会話できる数少ない女性であり、初恋相手である。ただ数年前に結婚しており、密かな失恋相手でもある。

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