第6話 治療の後フォロー

 女の子が回復したことからその両親に過剰なお礼を言われ続けるので、用事を思い出した体で逃げるように応接室から事務室に戻るジェロ。

 ため息をつきながら、居なくなったジェロのフォローとして、ポーションを含めた治療代の要求などの対応をそつなくこなす受付嬢のコレット。


『まったくジェロは面白いわね。≪治癒≫ポーションでは治らなかったのに、同等の初級回復魔法の≪治癒≫程度で成果を出すのだから。それも前世の知恵なの?』

『まぁ魔法はイメージが大事って、前世知識やヴァルに教わったからな』


 そう、この世界は異世界物語で読んだ色々なパターンの中でも、レベル制でもスキル制でも無くステータス画面を表示することも出来ない世界である。訓練をすれば徐々には何かしら成長している実感はあっても、ある閾値(しきいち)を超えると急に強くなるわけでもなく、唐突に何かができるようになるわけでもない。

 ただ魔法は確実に存在する世界である。前世記憶が蘇る前から、怪我が目に見えて分かる速さで治す回復魔法が使われるのを育てられた神殿で見ていた。


「なぁジェロ、魔法を使ったんだよな?詠唱も無かったし、カードも使わなかったけれど」

 ギルド裏方の鑑定魔法使いヴィクシムに問われる。

「はい、消耗品の魔法カードを個人で気軽に使えるほど裕福では無く、勿体ないので」

「うーん、そういう問題ではないのだけどな。まぁ神殿で育ったから回復魔法は得意なんだろうな、詠唱も無いなんて……」


 この世界、きっと昔の転生者か転移者が魔法についても改革したと思われる。普通の異世界物語では、覚えていない魔法でもスクロールと呼ばれる魔道具を消費すればその魔法を使えるということがあった。この世界ではスクロールは廃れていて、片手で扱えるサイズの“魔法カード”が普及しているのである。どちらも使用する際には使用者が魔力を供給する必要があるのは同じであるが。当然スクロールに比べて記載可能面積が小さくなるので、魔法陣などは精密化しているため製作コストも上がっているが、嵩張らない利便性に押されて普及したものと思われる。また貴族や豪商などのコレクション欲も刺激して活性化に貢献しているのであろう。


 ジェロにも前世に引き続きそのコレクション欲はあった。

 それにせっかく異世界に転生したという想いと、神殿で回復魔法が身近にあったので魔法には非常に興味津々であった。悪魔ヴァルの存在もあった。

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