第5話 緊急治療

 冒険者ギルドに飛び込んで来たのは、土木現場風の男におぶわれた女の子。少し遅れてその母親っぽい女性。

「誰でも良い、娘を助けてくれ!」


「アイツら、なんでここに?神殿に行けば良いのに」

 ロビーにいた冒険者の独り言が聞こえたのか父親が答える。

「もちろん先に行ったが、ちょうど誰も居なかったんだよ」

「かしこまりました。ただ、昼間ですので冒険者の皆様はほぼ出払っています」

 受付カウンターから出てきたコレットが対応する。冒険者は朝に依頼を受けて夕方に報告に戻ってくるのが日常である。

「そんな。今朝まで元気だったのに急に吐き出してぼぉーとしたと思ったら目を開かなくなって。呪いか?病気か?誰かわかる奴は居ないか?娘を助けてくれたら何でもする!」

「どうかお願いします……」

 母親らしき女性が泣き崩れる。


 受付の奥にも騒動が聞こえたのでジェロたち裏方職員も表に出てくる。

『ヴァル、呪いかわかるか?』

『あら職場で話を?なんて言わないわよ。そうね、呪いの気配は感じないわよ』

『そうか、ありがとうな』

「とりあえず、≪軽病治療≫と≪治癒≫のポーションを持って来ますね」

 ジェロは事務方の上司メオンに断ってから、倉庫に戻り魔法回復薬とも呼ばれるポーションを持って来る。その間に応接室のソファに寝かされていた女の子の横に跪き2つのポーションを無理に飲ませるがむせるだけで目を開きはしない。


「私は神殿で育てられましたので、少しだけ心得があります。呪いの気配はありませんし、≪軽病治療≫ポーションで変化がないので病気でもなさそうですし、≪治癒≫ポーションで治る簡単な傷でもないようです。もしかして頭をぶつけたりしましたか?」

「うーん……そういえば。昨日、建築資材の山で遊んでいたときに落っこちていた。でも血も出ていないし、その後は元気だったぞ」

「なるほど。では」

 ジェロは女の子の頭に右手を触れて、頭蓋骨の中で溢れた血を除き、血管の破れを血小板が集まって塞ぐことをイメージしながら≪治癒≫魔法を発動する。しばらくすると女の子がモゾモゾ動いて目を覚ます。

「ここはどこ?お父さん、お母さんどうしたの?」

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