第4話 暗算

 飲酒した翌朝であっても、いつもの柔軟体操、ランニング、筋肉トレーニングを欠かさないジェロ。

 不摂生で太り心臓麻痺で死亡したという前世の記憶も蘇った後は、成り上がりまでは目指さなくても健康体であろうと意識している。また前世より物騒な世の中であるので、最低限の筋力や体力が必要と考えるのは、前世から引き続きの臆病な性格にも依存する。

『そのラジオ体操っていうの?変なことする人間は意外といるのね』

『うーん、これもどこかの転生者か転移者が広めたんだろうな』

 ヴァルの指摘でもあるが、既に広まっているのであれば目立たないから助かると思うジェロであった。



 もちろん、その日の業務も引き続き冒険者ギルドの裏方である。

「こちら、納品された各種素材の代金、3銀貨と24銅貨になります」

 コレットはジェロから渡された貨幣を積んだお盆を冒険者に差し出す。


「本当、ジェロに頼むと計算が早くて助かるわ」

「いえ、そんなこと……」

 いつものように俯いてボソボソと返事をしてしまうジェロ。

「私たち受付嬢も当然計算ができるけど、メモを取りながらになるからジェロほど早くはできないのよね」

『そろばん文化や九九は普及しなかったのかな。簡単な暗算なのに』

『そこで胸を張って自信を持って接すれば良いのに……』

『ヴァルは仕事場では発言しないの』


 ちなみに、この近辺の貨幣は、銅貨、銀貨、金貨、魔銀(ミスリル)貨という円形貨幣、コインである。100銅貨が1銀貨、100銀貨が1金貨、100金貨が1ミスリル貨となる。

 庶民の外食が数枚〜10枚程の銅貨、普通の職人日当が数十枚の銅貨〜1銀貨程であるので、銅貨が100円、銀貨が1万円、金貨が100万円、ミスリル貨が1億円であろうか。

 鋳造国によって刻まれる紋様は異なるが価値は同等とするとこの近隣の国家間の取り決めがある。例えば金貨なら金の含有量は同じ量にしているはずなのである。


 そんなことをジェロが考えていると、冒険者ギルドのドアを開けて叫ぶ者が入ってくる。

「誰でも良い、助けてくれ!」

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