第3話 マダムの嘘
マダムは俺を車に乗せて山道を走っていた。
きっと高級旅館に連れて行ってもらえるんだ。1泊いくらだろう。俺はウキウキしていた。インスタやブログがない時代だったから、将来、誰かに自慢しようと思っていた。特に相手がいるわけじゃないけど。
しかし、実際に連れて行かれたのは、古い小屋みたいな建物だった。絶対に温泉旅館じゃない。貸別荘だったらわかるけど、そうだとしても、ボロくて、場所は不便だし、誰も来ないと思う。
「温泉じゃないんですか?」
「いいえ、温泉ついてるのよ」
俺はやばいなと思った。監禁されるか、殺されるかもしれない。
「こんな所に来るつもりなかったんで。駅まで戻ってもらえませんか?」
「ここは温泉なの!」
女は切れた。絶対やばい。俺は直感でそう思った。
周囲には人家もないし、何でこんなところに小屋を建てたんだろうというくらいの場所だった。
「俺はいいです。怖いんで・・・こんなとこで死にたくないし」
そう言うと、車から降りたとたんに、一目散に谷に向かって走った。
斜面が急すぎて、転げ落ちそうだった。
ボストンバッグを持ってたけど邪魔だった。
でも、ヴィトンだったから捨てて帰るわけにはいかない。
でも、女は追いかけて来なかった。
多分、追いつけないと思ったんだろう。
俺はとにかく下へ下へと降りて行った。
そのうち、川にたどり着いた。
川は怖い。深みにはまるとすぐ流される。
川の事故は相変わらず多いから、俺は普段から川には近づかない。
しかし、助かるには、歩くしかない。
自分に言い聞かせた。
ひたすら河原を歩いて行って、下流を目指して行った。
死ぬかもしれないと思った。
携帯は相変わらず繋がらない。
俺はひたすら川沿いを歩いて行ったが、途中で両側が崖になっていて、もう先に進めなかった。もう、終わりだと思ったが、迂回して、また川下を目指して歩いて行った。
結局、6時間ほどそうやって歩いていると、釣りをしている人を発見して、俺は助けを求めた。その人たちは俺が迷っていることを伝えると、帰りに車に乗せてくれると言って、持って来ていた飲み物や食べ物を分けてくれた。俺は嬉しすぎて泣いてしまった。
それから、俺はまっとうに生きることを決めた。
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