第2話 ママ活

 出張ホストっていうのは、2000年頃に初めてできたらしい。俺のがやってたのは、実はもうちょっと前だった。知ってる人からの紹介で、どっかのお店や組織に入っていたわけじゃない。


 知り合いがデパートの外商をやっていて、金持ちのマダムを知っていたから、その伝手で誘われたのがきっかけだった。もともとは本人が相手をしていたが、他の人も紹介してもらえないかと言われたらしい。はっきり言って枕営業だ。知り合いと兄弟になってしまうが、俺も金が欲しかった。


「無職のイケメンは君しかいないから。頼むよ。そのマダムは52歳だけど、美容に金をつぎ込んでるから、けっこうきれいな人だし、悪い話じゃないと思うよ」


 ちなみにイケメンと言う言葉は当時なかった。

 でも、どう表現していたか忘れてしまった。


 俺はそんな人がいるのかと疑問だったが、知人と待ち合わせをして、堂々と客の家に行った。さすが金持ちの奥さんだけあって美人だった。しかも、子どもがいないそうで、スタイルは若い子に引けを取らない。ただ、肌の感触が少しカサカサしているくらいだった。顔にもちょっと皺があった。遠目で見たら30代後半だけど、声はおばさんだから、どうしても50代と思ってしまう。でも、同年代の人の中ではかなりきれいだったと思う。俺が断わるとその人が傷つくかなと思って、仕事を受けた。


 訪問してすぐに彼女は俺を寝室に呼んだ。それで、俺だけ仕事してたが、彼が何をしていたかわからない。そして、終わった後は、彼はそんなに高くない小さい物を買ってもらって、俺はお小遣いをもらって帰るという流れだった。


 スーツを着ていると、近所の人に見られても「男が出入りしてる」と言われる心配は低い。金持ちの家なら、証券会社、銀行の人なんかも出入りするだろうから、若い男が訪問するのも珍しくはないだろう。


 そうやって、週1回は訪問していた。彼はノルマがあって、その人は月200万くらい金を使ってくれて、俺にも3万円払っていた。3回目に会った時、マダムに誘われて一緒に旅行に行くことになった。宿泊で10万円もらえることになっていた。行先は山間の温泉地だった。電車に乗っているところを見られたら大変だからと、現地集合と指示された。正確に言うと、最寄り駅で待ち合わせして、マダムがピックアップしてくれた。マダムは自らハンドルを握っていたが、すごいいい車だった。ポルシェ。車に興味のない俺でもワクワクするほどだった。いいなぁ。金持ちって・・・。普段できない贅沢を味合わせてくれるその人を、俺は心から愛し、尊敬した。


 マダムと旅行に行ったことは知人にも言ってないし、ましてや元大企業のサラリーマンなのに、金に困って売春をしているなんて、死ぬまで秘密にしたかった。


 山奥だから、携帯は県外だった。

 ちょっと心細くなった。




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