血に飢えた凶人は今日も満たされない。

鬼頭星之衛

凶人VS勇者一行




 男は血に飢えていた。

 来る日も来る日も剣を振るい、血を見ない日はなかった。

 剣術の名家である骨喰ほねばみ家の三男に生まれたその男は物心つく頃から剣だけを振るってきた。

 10歳頃には2歳年上の次男を剣術で負かし、11歳には5歳年上の長男をも負かした。

 そして、12歳で骨喰家当主であり実の父親をも負かし、真剣にてその命を刈り取った。

 父親の後は、止めに入ろうとした二人の兄達も血祭りに上げた。

 齢12歳にして、剣術の名家である骨喰家を滅し、その弱さに失望した三男の藤四郎とうしろう


 ―――足りない・・・


 藤四郎は思った。全くもって足りないと・・・

 血が彼を呼び、それに応える。

 しかし、誰の血でも良い訳ではない。強者の血だ。

 心技体において、極限を極めんとする者達の血。

 研鑽を怠らない技量、精進を惜しまない力、それらを決して曲げない精神力。

 その極地へと至らんとする為、藤四郎は誰もいなくなった骨喰家を後にした。


 彼はそこから放浪の旅に出、つわものを探し求めた。

 北に兵が居ると聞き及べば、どれだけ時間が掛かろうとそこへ参った。

 南の島に居ると聞き及べば、身一つで泳ぎ切り、島へと渡った。

 魔境にそびえる死山の頂にいると聞き及べば、道中の魔物を斬り伏せながら頂きへと登頂した。

 勿論、旅路の間も自信の研鑽は怠らない。

 

 そして、目的地にて兵との邂逅。

 それは骨喰家の者達とは一線を画した強さを持つ者ばかり。

 槍術使いや、中太刀、小太刀の二刀流使い。

 棒術使いや、鎖鎌を扱う者もいた。

 弓矢や拳銃などの飛び道具を扱う者までいた。

 様々な武器を扱う者達と戦ってきた藤四郎だが、その全ての者達を悉く斃して来た。

 それは正に血沸き肉躍る死闘だった。

 藤四郎は歓喜した。

 これだ!これこそが我の求めていたものだ。

 藤四郎は初めて玩具を与えられた子供の様にはしゃいだ。


 しかし、それも長くは続かなかった。

 勝てば勝ち続ける程に自身の強さが極まってくる。

 それに連れて、次第に死闘を繰り広げる兵共との力の差が開いてくる。


 ―――足りない・・・


 藤四郎は思った。全くもって足りないと・・・

 そして、今日も藤四郎は兵を求めてこの世を彷徨っている。

 次の標的は〝勇者〟

 勇敢な心を持ち、どんな悪にも負けない絶対的存在。

 肩書になど一々反応する藤四郎ではない。しかし、確かめずにはいられない。

 血が求めているのだから。

 藤四郎はその勇者が居ると聞き及んだリーゼル王国の王都へと足を踏み入れた。




 🔶




 リーゼル王都の中央区の回廊を傍若無人に闊歩する集団がいる。

 中央には青年が一人。そして、その両脇にはそれぞれタイプの違う美女が連れ添っている。

 人々は彼らの往来に道を譲り、畏怖の念を持って傍観する。

 決して誰も近寄らない。それ程までに人々から恐れられている。


「なぁ、今日は何処に飲み行く?」


 その一行で唯一の男である青年が口を開いた。

 彼の名は『ロイギース』。勇者の称号を持つ冒険者だ。


「う~ん、今日はあのナイトクラブにしない?王様からたんまり褒美も貰ったし、みんなでVIP席で楽しみましょうよ」


 ロイギースの右腕に抱きつきている美女が提案した。

 短髪の赤髪に整った顔立ち。腰にはナックルダスターを両手分ぶら下げている。


「フィーラルは酔って、乱れに乱れるからお店から度々苦情が来るのよ。後で対応するこっちの身にもなってよ・・・」


 呆れ口調で赤髪の美女を窘める長身で長い銀髪を靡かせる美女。

 その背中には長槍を背負い、その剣身も銀色に光っている。


「そう言うエリアもロイの激しい腰振りにいつもよがってるじゃん。それに勇者パーティーである私達に文句言ってくるなんていい度胸じゃん。私達のおかげでみんなの安全があるって言うのにね」


「わ、私はよがってなんか・・・ちょっと我を忘れちゃうだけよ・・・」


「それをよがって、アヘってるって言うのよ」


「むっ!」


 二人の会話がヒートアップしてきた所でロイギースが会話に割って入る。


「まぁまぁ、二人とも落ち着いて。俺はそんなエリアも好きだし、いつも素直で正直なフィーラルも好きだから喧嘩しないでくれ。今日はとりあえず、フィーラルが提案したナイトクラブに行こう。みんなもそれでいいよね?」


 ロイギースは他のメンバーを見た。

 フィーラルは元気いっぱいに返事をし、エリアも頬を赤く染めながら頷いた。

 他の二人、魔女然とした美少女と聖職者の巨乳の美女も同意した。

 一行は目的地が決まった事で、淀みなく歩を進める。


 しかし、勇者一行は目的地に到着する前に足止めを喰らった。


「お主が勇者で間違いないか?」


 一行の行く手の先には黒色の長髪で顔が覆われたボロ布を身に纏った男がいた。

 ロイギースは内心で嘆息したが、こういうシチュエーションには慣れている。


「誰だあんた?」


 面倒事に巻き込まれて困った様な表情をしているが、その口角は僅かに吊り上がっている。


「我は藤四郎。真のつわものを目指し、数多の強者と死合して来た者。勇者であるお主と死合を所望する」


「はぁ?なんだ、し、あい?なんかよく分からない事言ってるが誰の恋人だ?いや、〝元〟恋人か・・・クククッ」


「・・・・・・・・・・」


 藤四郎は黙り込んだ。


「おいおい、誰の〝元〟恋人か言ってくれないとやりがいが無いじゃないか。そんなみすぼらしい姿になってまで俺への復讐心でここまで来るんだからなぁ」


「お主は何を言って・・・」


「おい!誰かこいつを知らないか?ヌーか?それともラァラか?」


 ロイギースの問いかけに魔女然の美少女と聖職者の巨乳の美女は首を横に振る。


「う~ん、エリアでは無いよな。だってエリアの〝元〟恋人はこの前、なっ?」


「もう、やめてよ!ロイ。あんな奴と恋人だったなんて・・・人生の汚点だわ」


「ハハハッ!人生の汚点か。そりゃそうだよな、あんな情けない奴。あいつが俺にボコボコにされて、お前に捨てられた時の顔と言ったら・・・アハハハッ、今思い出しただけでも笑いが出てくるぜ!」


 藤四郎は尚もロイギースの話を黙って聞いている。


「おいッ!黙ってちゃ分からないだろ!いい加減誰の〝元〟恋人か言えッ!」


「ロイ、ちょっと待って。私の知り合いかも・・・」


「おっ!フィーラルの〝元〟恋人か?」


「はっきりとは分からないけど、雰囲気が似ている気がする・・・」


 思案顔を浮かべているフィーラルの口が開く。


「・・・あなたディーンよね?」


「・・・お主達は本当に何を言っている?我の名は藤四郎で、勇者と死合がしたく・・・」


「いいってそんな嘘つかなくても。勇者であるロイに戦いを挑もうする奴なんて決まってるんだから」


 フィーラルは心底意地の悪い笑みを浮かべた。


「ほんと、私もエリアじゃないけど、あなたと恋人だった事は人生の汚点だわ。何?また私と寄りを戻したい訳?それでロイに戦いを挑むの?やめときなさい。あなたじゃ勝てないし、ヘタしたら殺されちゃうよ?」


「・・・・・・・・」


「情けない姿を晒す前に私達の前から消えなさい!さもないと容赦しないわよ?」


 藤四郎を鋭く睨むフィーラルの肩にロイギースが軽く触れる。片方の手には既に抜刀された剣が握られている。


「おいおい、フィーラル。追い返そうとするなよ。こいつは俺に用があって来たんだからな」


 フィーラル以上の底意地の悪い笑みをその顔に貼り付かせるロイギース。

 しかし、前に出ようとするロイギースを手で制し、フィーラルが先に前に出た。


「じゃ、ここは私にやらせて?女の子に惨めにボコボコにされる姿も見たいと思わない?」


「おっ!それもいいかもな。それなら、こいつはフィーラルに任せるよ。盛大にやってやれ」


「オッケー!」


 腰にぶら下げていたナックルダスターを両手に装着したフィーラルは臨戦態勢に入る。

 周りの国民は誰もこの決闘騒ぎを止めようとしない。

 見慣れた光景である事もそうだが、ヘタに口を挟めば後で勇者一行に何をされるか分からない。

 傍観者達は只々事が大事おおごとにならないように祈る事しか出来なかった。


 一方で終始ロイギース達の会話に傾聴し、少し疑問を呈していた藤四郎は困り果てている。

 会話が成り立たないとはここまで苦痛なのかと。

 自分は死合がしたいだけ。真なる兵になる為、又は其の者に出会う為。

 しかし、藤四郎の困惑などお構いなしに事態は進行していく。


「行くよッ!そのみすぼらしい姿をもっと惨めにしてあげるッ!」


 フィーラルが大きく拳を振り上げ、大きく藤四郎に向かって跳躍した。

 瞬時にフィーラルは藤四郎の間合いに入る。

 そこで藤四郎は少し躊躇った。

 それは決して女子おなごに手心を加えると言った類のものではない。

 藤四郎にそのような慈悲は持ち合わせていない。

 自分と立ち合う者はそれがどんな者であろうとも容赦しない。

 藤四郎が驚いたのはそんな事ではない。

 フィーラルの跳躍が自身の予想よりも、拍子抜けした為だ。

 会話は成り立たなかったが、勇者達が自信に満ちているのは見てとれた。

 ならば自身を満たしてくれる程の武芸者であると期待した。

 しかし、それがこのザマである。落胆するのも無理からぬ事。


 それでも藤四郎の躊躇いは一瞬の事で、直ぐに気持ちを切り替えた。

 瞬時に抜刀し、そこから太刀を三閃し、納刀する。

 それらを一呼吸の間に終えた。その間僅か2秒にも満たなかった。

 それは剣の道を極めんとする藤四郎の絶技。

 フィーラルは自分が死んだ事すら認識出来ずに、血と肉だけの塊となった。


 「はぁ?あっ?えっ?」


 目の前の事態を飲み込めないロイギースはたどたどしく言葉を発した。

 他のメンバーも同様で驚愕に目を見開いている。


「おいッ!嘘だろ・・・フィーラル?フィ・・・フィーラルぅぅぅぅぅぅ!!!!!!」


 藤四郎は耳をつんざく絶叫に顔を顰める。


「貴様ッ!よくもやってくれたなぁ!」


 涙を流し、怒りに顔を歪めているロイギースが他のメンバーに声を掛ける。


「おい!エリア!ラァラ!ヌー!フィーラルの仇を取るぞ!」


「ええっ!こんな事許せないわ!」


「・・・フィーラルの仇、取る・・・」


「うぅ、なんて惨い事を・・・」


 三者三様の反応をするが、各々が自身の武器を構え、藤四郎に正対した。

 その様子に更に顔を顰める藤四郎が口を開く。


「・・・?何故四人同時に我に挑もうとする?死合とは本来一対一での命のやり取り。他の者は下がれ」


「黙れ黙れ黙れッ!訳の分からない事を言って、フィーラルを殺しやがってッ!絶対に許さねぇ・・・」


「否、訳の分からない事をほざいていたのはそちらであろう?」


「もういいよ、ロイ。こんな奴と会話しても無駄よ」


 藤四郎は心の中でエリアの言葉に大いに同意したが、それは此方の物言だとも思った。


「それもそうだな。ありがとう、エリア。ちょっと冷静になれたよ」


 そう言うロイギースはねっとりとした眼差しを向け、それを受けたエリアはウットリとする。


「こいつは悪だッ!人殺しめッ!勇者である俺が断罪してくれる。エリア!俺と一緒に連携して奴を追い詰める。ヌーは魔法で援護してくれ。ラァラは補助魔法と回復魔法を頼むッ!」


 ロイギースは両手に金色こんじきの剣を携えて、エリアは両手に銀色の長槍を携えて、藤四郎に迫る。

 ヌーは魔法を詠唱し始め、ラァラは強化魔法を唱えた。


「〝神速の加護〟」


 ラァラの強化呪文が藤四郎に接近するロイギースとエリアに施された。

 それにより、二人は驚異的な加速をした。

 これには藤四郎も驚いた。

 先ほどのフィーラルの跳躍とは比べものにならない程速い。

 しかし、それはあくまでもフィーラルと比べての話だ。

 その程度の速度域ではまだ藤四郎の境地には辿りつけない。


 ロイギースとエリアが藤四郎の間合い一歩手前まで迫った時、リーチ差を生かしてエリアが銀色の長槍を間合いの外から突く。

 〝神速の加護〟のバフが乗ったエリアの突きは常人から見れば正しく神速であっただろう。

 しかし、幾重もの死線を潜り抜けて鍛え上げられた慧眼けいがんを持つ藤四郎にとってはその突きを躱す事はさして難しくなかった。


 エリアの神速の突きを半身になり右へ躱す。

 藤四郎は躱し際に剣を抜刀し、すれ違いざまにエリアの左腕を斬り割く。

 歪に斬られたその左腕は血飛沫を上げ、分断された。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」


 今まで経験した事のない痛みに絶叫するエリアへロイギースが藤四郎を牽制しながら近づく。


「おい!大丈夫か、エリアッ!クソッ!ラァラ直ぐに来て、エリアを治療してくれッ!」


 ロイギースの必死の呼び掛けに全力で駆け寄るラァラ。

 しかし、それを待つほど藤四郎はお人好しではない。

 エリアを抱えているロイギースへ跳躍しようとする藤四郎の瞳に一つの影が映った。


「・・・みんな、下がって・・・」


 ロイギース達と藤四郎の間にヌーが割って入る。


「〝豪魔の大火球〟」


 ヌーが呪文を唱えると5メートル大の巨大な火の玉が出現した。

 それは一直線に藤四郎へ向かう。

 藤四郎はその巨大な火の玉を目を細めて睨む。

 巨大な火の玉はそのまま轟音を轟かせ、大爆発を起こした。


「やったか・・・?」


 辺りは土煙に包まれて、何も見えない。

 そんな中ロイギースが小さく呟いた。

 傍らではラァラが必死にエリアの腕の治療を行なっている。

 しかし、ロイギースの希望とは裏腹にヌーがボソッと呟く。


「・・・まだ。やれてない・・・」


 藤四郎は右へ飛び退すさんで、火球を躱していた。

 巨大な火の玉は民衆の群れへと直撃し、周辺は阿鼻叫喚の様相を呈している。


「魔法とは摩訶不思議。この国に来て初めて見たが、あれを使いこなせれば我は更なる高みへと至れる・・・」


 藤四郎は独り言ちていた。

 藤四郎にとって魔法とは未知との遭遇だった。


「おいッ!何避けてるんだよッ!人々に被害が出ただろうがッ!」


「・・・?攻撃をしたのはお主達であろう。我の知った事ではない」


「くッ・・・この外道めッ!」


 ロイギースはまた怒りでその顔を歪めている。

 しかし、藤四郎はこの状況に飽きを感じてきた。


「もうよい・・・」


 藤四郎が小さく呟くと同時に、その姿が消えた。

 そして、一瞬でヌーの目の前に現れた。


「・・・ぁっ・・・」


 ヌーが藤四郎の姿に気付いた時には既に、自身の頭部と胴体はさようならをしていた。


「おい・・・嘘だろう・・・ヌーまで・・・」


 先ほどまでのロイギースの怒りは鳴りを潜め、目の前の信じられない光景に呆然自失としている。


「・・・ラァラ、もう、いい。ロイの元へ行ってやれ。後は私がやるから・・・」


「そんな、エリア。あなたのその腕じゃ・・・」


「・・・分かってる、わ。でも、このままだとみんな死んじゃう。勇者であるロイを死なす訳にはいかない・・・」


 悲しみを湛えてラァラは小さく頷き立ち上がった。そしてそのままロイギースの元へ駆け寄る。

 エリアは自身の銀色の長槍を杖代わりに立ち上がり、藤四郎と正対する。


「わ、私が相手よ・・・あの二人はやらせない・・・」


「その気概、賞賛に値する。ならば、一思いに逝かせてやろう」


 両者の力量は雲泥の差。ましてや、片腕を失ったエリアに勝てる道理はない。

 エリアの首は虚しく宙を舞った。

 ゴトリっと音が鳴り響く時には既に、ロイギースとラァラは藤四郎の間合いに捉えられていた。

 藤四郎が柄に手をかけようとする寸前、ラァラが立ち上がり、藤四郎を正面に見つめる。


「見逃してはもらえませんか?私達にもう交戦の意思はありません。どうかご慈悲を・・・」


 聖職者らしく祈るように懇願するが、藤四郎にはその道理は通用しない。


「どんな事情、どんな者でも、我と同じ土俵に一度でも立てば生か死。どちらかが死ぬまで終わらぬ。それにその者は勇者であろう。勇者とは勇敢な心の持ち主と聞き及んでおる。其奴そやつは勇者ではないのか?」


「彼はまだ若く、精神が未熟なのです。これから勇者として大きく成長します。ですからどうかご慈悲を・・・」


 その理屈も藤四郎には理解出来なかった。

 齢12歳で真剣にて実の父を斬り殺している藤四郎にとって、若輩者だからと言う言い訳は度し難かった。


「もうよい。潔く死ね・・・」


 藤四郎のその冷たい言葉を聞いて、さっきまで蹲っていたロイギースが突然立ち上がり、ラァラの背中を乱暴に押しのけた。

 そして、ロイギースはそのままラァラを見捨てて走り去ろうとする。

 ロイギースに押されたラァラはそのまま藤四郎の剣で心臓を一突きされ、絶命した。

 ラァラが最後に見た光景は情けなく絶叫しながら走り去る勇者の姿だった。


 藤四郎はラァラに刺さった自身の剣を引き抜き、即座にロイギースを追いかけた。

 必死さしか残っていないロイギースの走りっぷりは拙く、藤四郎は難なく追いついた。

 このまま斬り殺すのも後味が悪いと考えた藤四郎はロイギースの首根っこを掴み、顔面へと強烈な拳を振るった。

 その勢いで地面に転がるロイギースの足元に藤四郎は予め抜いていた金色の剣を放り投げた。


「拾え。そして、我と死合をしろ。我に勝つしかお主の生き延びる道はない」


「い、いやだ、助けてくれ・・・」


「お主、情けないとは思わないのか?お主が連れ添っていた女子共は負けると分かっていても毅然と我に立ち向かっていたぞ。その者達はお主を勇者として慕っていたのであろう。なら、それらしい振る舞いを見せよ。そして、我の乾きを癒せ」


 蛇に睨まれた蛙の如く微動だに出来ないロイギースは必死の思いで体を動かした。


「ごめんなさい。許して下さい。もう金輪際人様の恋人は奪いません。だから、命だけは助けてくださいぃぃぃ!!!」


 土下座である。

 ロイギースが選択したのは土下座であった。

 藤四郎は深い溜息をついた。


「お主の言動は終始理解に苦しむ・・・もう、死ね・・・」


「ひっ!!!」


 藤四郎は言葉と共に抜刀し、ロイギースへ斬りかかる。

 最後まで臆病風に吹かれているロイギースは藤四郎から目を背け、逃げ出した。

 そんなロイギースの背中を袈裟がけに斬り、崩れ落ちざまに首を刎ねた。

 背中の傷は戦士の恥。この男に相応しい死に様だった。


 その後、リーゼル王国の王都は混乱を極めた。

 勇者一行の魔法使いの攻撃による民衆への被害。

 死傷者多数。そして、その原因である勇者一行は謎の男によって一人残らず斃された。

 勇者一行が消えた事によって、今まで勇者一行に対して不満を溜め込んでいた国民の怒りが爆発し、勇者を擁護していた国王へその怒りの矛先が向けられた。そして、リーゼル王国は内戦へ突入した。

 しかし、藤四郎には関係ない事。




🔶




―――足りない・・・


 藤四郎は思った。全くもって足りないと・・・

 特別に今回の勇者に期待していた訳ではなかったが、それにしても期待を大きく下回る度し難い馬鹿共であったと落胆した。

 真のつわもの何処いずこか・・・

 藤四郎は今日も真の兵を求めてこの世を彷徨っている。





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血に飢えた凶人は今日も満たされない。 鬼頭星之衛 @Sandor

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