第3話 翼の使えない天使

  かつて、神なる存在がこの地球を支配し、そこの管理を行うために、

聖天使と堕天使が作られた。最初は、聖天使イコール正義、堕天使イコール邪悪

ではなく、生物が死んだ際に、その魂を世話する二つの役割の違う係に過ぎなかった。

  聖なる魂担当の天使は、清らかな魂を天国へ導き、やがて新しい生へ誘う転生の役割を担っていた。堕落した魂担当の天使は、地獄に堕ちた汚れた魂を浄化し、聖天使へ渡す役目だったと聞く。でも、その浄化の副反応で、堕天使の心

そのものがだんだんと汚れていき、浄化よりも汚れた魂をそのまま食う最初のソウルイーター、始源の悪魔ルシファーが誕生した。悪魔ルシファーは、自分に同調する堕天使や地獄の獄卒集団をまとめ上げ、悪魔の王国サタニアルを作り上げた。魔道国デモリアもその一部である。


  やがて、この地球から神が突然消えた。神という中心を失い、天使も悪魔もその目的を変えてしまった。天使は聖なる清らかな魂を持つ死者を増やすために、宗教という形で生物の世界、特に人間の生き方に干渉し始めた。堕天使は、悪魔と変わらない存在となり、より汚れた魂の死者を冥界へ迎えるために、人間

の心に入り込み、罪を犯させる方法で人間の生き方に干渉し始めた。

端的に言えば、聖天使と堕天使のよる死後の世界の勢力争いである。


  今、天界と地獄界のちょうど間にあるアストラル界で一人の天使が悩んでいた。彼の名前は、グレイバーチ、父親が聖天使、母親が堕天使のこの世に存在

すべきでない天使だった。母親の悪魔の力と父親の聖なる力の化学反応のため

に、強大な霊力を持っているが、その異質で異常な強さの力を恐れた大天使に

より翼の中にその力が封印されていた。飛べない天使グレイバーチである。


その目の前に、アストラル界では珍しいスライムが現れた。


 「ヤァこんにちわ。僕はスラップ。可変種の一種で、スライムなんだ。

  今君が望んだこと、僕が叶えてあげられるよ。」


 「エッ、スライム?ホンモノのスライムかい?」


 「ネェ、グレイ君。急いで嫌なことを言うけど、もうすぐ君は、抹殺されるよ。

  今さっき、君のお祖父さんのアークエンジェルと、お母さんの父親である

  アークデーモンとの取引が成立したんだ。利害の一致ってやつさ。

  君はこの世界から抹殺命令が出たんだ。そうもうすぐ消滅するんだ。」


   グレイバーチは、その運命ならすでに悟っているかのような表情で、

   「そうだろうね!」と聞こえないくらいの小声で呟いた。


  飛べない彼は、いつも歩いて広大なエリアを旅していた。天国へつながる

 天界と汚れた魂の牢獄である地獄の間にある中立地帯は、徒歩で旅をするの

 に数十年を要する広さであり、その所々で彼は命を失いかけた。

 悪魔に襲われた場合は、浄化の光ホーリーライトニングという白い稲妻で

 撃退し、天使に襲われた場合は、ダークブリザードという黒い吹雪でその翼を

 汚し、飛べなくして追っ払った。相手を撃退するたびに、グレイバーチは、

 数日、背中の激痛で意識を失った。封印に逆らった副作用だった。


  「ネェ、死ぬ覚悟はもうできているという感じには見えないよね。

   君の望みは違うはずだよ。」

  

  「そう、僕は生きていたい。そして、探したいんだ。」


  「もう時間がないから、提案であり取引だ!

   僕と契約しないか?

   君の両親は君を守れない。大天使アークエンジェルと

   大悪魔アークデーモンが相手だ。

   でも、人間界に転生すれば、生き残れる可能性は高い。

   もちろん、いずれは、追手に見つかって、また襲われるけど、

   その時には、君は一人じゃない。仲間と一緒なんだ。

   それに、もちろん、僕にも思惑がある。

   君の秘められた力を使ってもらう時が来るかもしれない。

   さぁ、天使であり堕天使のグレイバーチさん、返事をしておくれ。」


   「スラップ君、決めたよ。諦めかけていたけど、僕は生きるよ。

    僕は俺が存在した理由を知りたい。

    消滅したら、答えがわからないままだ。

    だから、お願いだ。僕を転生させてくれ。」


   「じゃあ、今日は急ぐよ。スクランブル GO ! だね。

    僕が君の体ごと飲み込む。その際に頭の中に送った術式を

    詠唱してほしい。」


    次の瞬間、グレイバーチは、体ごと飲み込まれ、ミラージュが

  唱えられた。グレイバーチが目を開けると、背中の翼は消えていたが。

  その存在は以前よりも強く感じられた。


   「人間界で翼はマズイからね。でも、封印は解除したから、いつでも

    使えるよ。でも、今はやめてね。この世界では、人は飛べないから!

    それから君のこの世界の名前だけど、

    フランスからの留学生のグレイ エールという名前でどうかな?」


   「名前は気に入ったよ。でも、あの上の階の二つ、異様だね。

    特に201号室は、僕に近い匂いがするけど、でもはるかに強力だね?

    何だい。それに102号室から漏れる圧力は半端ないね、

    これが君の仲間かい?」


    「違うよ、僕たちの仲間だよ。」


    103号室に入るなり、グレイエールは、翼を広げることができた。

    君が飛べて、その霊力を訓練するぐらいのデカさは、この空間に

    作っているから。これまでできなかったことを試していいよ!」


    「その先はまだ秘密かい?」


    「四人が揃って、人間界に慣れてきたら、敵になるかもしれない相手の

     話をしよう。」





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