第2話 異龍の少女

  魔道国デモリアとその西域に位置する大国タイタニアとの間には、魔滅海域という中立地帯があり、魔力や妖力が強いモノほどこの地域は通行を拒む。逆に言えば、人間やスライムのような非力なものには単なる静かな海である。


  このドラゴン族を中心にモンスターが支配統治するタイタニアに、

あるスライムが降り立った。全てが巨大なこの国では、スライムは羽虫程度

のデカしかなく、その警備網は易々と突破できた。


  「ヤァこんにちわ。僕はスランプ。スライムなんだ。

   今君が望んだこと、僕が叶えてあげられるよ。」


 最初、彼女はどこから声がするか分からずに戸惑ったが、やがてスライムが

 縦長に10メートルほど身体を伸ばして、同じセリフを言ったので分かった。


   「おチビさん、何の用?」そのドラゴンは答えた。


   「嫌なこと言うけど、君のような四大ドラゴンのどれにも属さない

    新種は、この怪物王国では、生き残れないよ。例え、君が王族の

    血を引いていてもね異端の龍という扱いしか受けないよ。

    黄龍、黒龍、青龍、赤龍のいずれでもない白龍の君は、やがて

    このタイタニアに災いをもたらす異物として抹殺されるよ。

    君は、四色貴族には、いろいろな意味で災いの種だからね!」


    固有の能力格差は、あるが黄色の龍は雷系のサンダードラゴンと

    呼ばれ、赤い色の龍は、炎熱系のファイヤードラゴンと呼ばれ、

    黒い色の龍は、猛毒系のブラックドラゴンと呼ばれ、

    現在、タイタニアの王であるブルードラゴンは、氷雪と水系の

    能力を持っていた。


    ある日、四大ドラゴンの集まりの中で、どの龍の子供が一番強いか、

    という戯言を本気にした赤龍が、そのイベントを強行した。

    互いの子供二頭が闘う中、白龍の彼女は誰も相手にしなかった。

    最後は、赤龍の王子マグナリアと青龍の王子ブルーバーンが闘い、

    その固有能力の差のため、マグナリアを追い込んだが、マグナリアが、

    最前列で見ていたアイスバーンへ、灼熱のマグマ弾を浴びせた。

    妹思いの兄は、その体でマグマ弾を浴びて動けなくなった。

    勝者は、マグナリアとなり、優勝はマグナリアとの宣言が行われる

    寸前、アイスバーンが口を開いた。


    「あんた、私と戦ってないわね、逃げる気なの?」


    「小娘が、弱っちい兄と同じ目に合わせてくれようか?」


    殺気に満ちたマグマ弾がアイスバーンを襲ったが、その瞬間に

    彼女の身体は、青く光、燃えさかるマグマを凍らせ砕いた。

    次の瞬間に、アイスバーンは目つきも体の色も豹変した。

    彼女は、四色ドラゴンの戦いで見た全ての能力を完全にコピー

    していた。まずは、黒く変下し、猛毒をマグナリアに浴びせ、

    黄色く変化しながら、雷を落として、もがき苦しむマグナリアの

    手足を永久凍土で凍らせ、最後は赤龍王よりも赤く色づき、

    マグマ弾を浴びていた。マグナリアは片手を吹き飛ばされ、

    片目を潰された。


    この出来事以降、彼女は異端の龍として、周囲から畏怖を抱かれ、

    城の北の端に遠ざけられた。最愛の兄ブルーバーンでさえも、

    彼女が幽閉されている部屋に結して近づかなかった。


     スライムの言葉に、少し、ムッとした彼女は牙を剥き、

    「本当に嫌なこというわね、食べるわよ!」


    「まぁ興奮しないでよ!単刀直入に提案するね。

     僕と契約しないか?

     もちろん、この世界で永遠に幽閉されるのも、

     他のドラゴンの子供を孕むだけの生き方もアリっちゃアリだけど、

     違う生き方を異世界で探すのも大いにアリだと思わない。」


    違う生き方というワードに白龍のドラゴンは心が動いた。


    「ネェ、スランプちゃん、

     その異世界に行っても、私はホワイトドラゴンのままなの?」


    「そもそも、これから転生する人間界では、ドラゴンも含めて全ての

     モンスターはおとぎ話の生き物なんだ。だから、君は違う姿に

     転生した方がいいと思うよ。

     もちろん、その気になれば、その姿にはなれるけど。」


    「そこにいる生き物は片っ端から食べちゃって構わない?」


    「それも困るな?それにハンバーガーとか寿司とかピザとか、

     美味しい食べ物はいくらでもあるし、それに自由があるよ!」


     「自由って?」


     「自分の意に沿わない生き方をしないで済む生き方さ!」


  二日後、タイタニア国ドラゴン王族の血を引く白龍アイスバーンは、

国を出る決意をした。娘のことを案じた母親の青龍から歴代最強ドラゴンの

鱗から作られた絶対防御のシールドを渡された。防御を恥と考えるドラゴン

族が多いため、このシールドは、秘宝庫の奥でずっと眠ったままであったが、

歴代のクィーンにより常に強化された最強の盾だった。


  この秘宝が消えても、アイスバーンの姿が消えても龍の城ドラゴンパレス

では何も騒ぎが起きなかった。それだけ、このタイタニアは、最強のドラゴン族

が統治する国のため平和ボケしていた。しかし、これを絶好の機会と考えた

四色貴族の一部、特に復讐に燃え盛る赤龍の一族は抹殺部隊を編成し、

彼女の行き先を探し始めた。


  翌日、スランプにその巨大な身体を飲み込まれ、教わった転移魔法ミラージュの詠唱の後、目を覚ますと、アイスバーンは、銀色の髪をした、十五歳くらいの人間の女の子に姿を変えていた。


 「アイスバーンさん、とりあえず目の毒ですから、

  そこの服を着ていただけませんか。」


 「私、衣を纏ったことないのだけどこのままじゃダメかしら!」


 「お願いします、人間界では非常にマズイのです。」


 「さて、今からどうするのかしら?」


 「とりあえず、新しい居住地へ落ち着き下さい。

  それから、この日本でアイスバーンという名前は呼びにくいので、

  今日からあなた様は、竜崎雪 リュウザキユキ とお名乗り下さい。」


 「ユキちゃん、、いい名前の響きね!」


  それから竜崎は、202号室というプレートのついた、狭い入り口の

  広大な広さの部屋に通された。

  

 「この部屋大きいわね。」


 「竜崎さんがドラゴンに変身して、暴れても大丈夫なくらい広い

  ですから。好きな姿でお過ごしくださいね。でも服を着たままドラゴン

  になると服は破けちゃいますから、、、」


  その言葉を聞く前に竜崎はもう白龍になっていた。


  「ごめんなさい、服破けちゃいました。」


  「困ります。これから注意して下さいよ。

   衣服はこれから増やしていきましょう。」


  「ところでスライムのスランプちゃん、

   私たちを助けてくれた見返りは何なの?」


  「さすが知恵がまわりますね。気がつきました?」


  「だって、お隣さんの異様な雰囲気は、私とは違うけど、

   異様だし、多分、悪魔でしょ。

   何を一体企んでいるの?

   このちっぽけな日本という国を破壊するのが目的なの?」


  「いえいえ竜崎さん、その逆です。

   人間風にいえば、アルマゲドンの準備です。

   人間は、魔力も妖力も霊力もありません。

   古の錬金術や忍術は失われたままだし、

   道具に頼った科学技術力はありますが、

   それも動力エネルギーがなければ使えないものばかり。

   役には立ちません。」


  「私、あまり人間のことは知らないけど、

   もしかしたら、何かが来るのね?

   そのために私たちの力がいるのね?」






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る