いつかくる滅亡に備えて(Before the Doom Day)

Judo master

第1話 魔道国の王子

 「ヤァこんにちわ。僕の名前はスラング。可変種でスライムなんだ。

  今君が望んだこと、僕が叶えてあげられるよ。」


 王子は、その馴れ馴れしい軽口のちっぽけな生物を見下ろした。


「嫌なこと言うけど、君のような汚れた血の第三王子は、この国では

 疎まれているよね。クォーターとはいえ人間の血が混じっている君を

 純血種の魔族は決して認めないよね。遅かれ早かれ暗殺される運命、

 違うかい?」


 その王子は、少し表情を曇らせた。

 この小さな来訪者の二日前、城の結界内の森で昼寝をしていると、

 強力な魔力と冷酷な殺気を帯びた異形の魔物が突如襲いかかってきた。

 この魔物たちの誤算は、一見弱々しいこの美しい王子のとてつもない

 戦闘魔法の恐ろしさであった。襲いかかる寸前、魔物たちは、魔王にも

 似たこの冷ややかなオーラに攻撃を止めざるを得なかった。生き残るには、

 命乞いしかない。


 その王子は、表情一つ変えることなく、得体の知れない詠唱魔法を呟いた。

 その瞬間、小さな水晶玉程度の黒異点に全身をバラバラに砕かれながら、

 魔物たちは、飲み込まれていった。


 「ゆっくり昼寝もできないのか」と呟いた。


  「だから、いっそこの国を出て転生というのはどうだろう。

  生き残る可能性は高くなるよ。もちろん刺客は来るだろうね。

  王位継承権がある限り、君は邪魔な存在だよ。

  でも、人間界に転生し、僕たちといれば、安心さ!」


 初めてその王子は口を開いた、

 「何をスライム如き低級で下等な生物がほざく。」

  

 「ネェ、スライムは無属性、つまり、どの世界でも存在できるレア種だよ。

  だから、君ごと飲み込んで異世界にも行けるんだ。今の君が異次元の扉を

  抜けることはできないのは知っているだろ?

  その強大すぎる魔力が災いするのさ?」


  初めて王子は、真剣な顔になった。


  「さてまどろっこしい話はやめて、単刀直入に提案するよ。

   僕と契約しないか?」


  「お前のメリットは何だ、スライム。」


  「イヤだな、僕の名前はスラング。さぁ王子アモン、どうするの?」


   アモンは、日々、命の危険を感じていた。この魔道城近辺では

   見たこともない魔獣に襲われたのはつい最近のことだ。


   「スラングよ、俺をこの魔道国から脱出させることはできるのか?」


   「今すぐにでも!」


   「生き残れるならどこでも構わない。

    そこで俺は自分の意思で生きるんだ。」


    「転生先は、あなたの祖母の国、異世界の日本です。

     そこで、仲間が拠点を作っています。

     とりあえずは、そこに落ち着いてからいろいろと

     説明させてもらいますね ! 」


     「今すぐ脱出できるのか?」


     「いえ、場内は魔法結界のせいで、術式が発動できません。

      どこか、城外への抜け道はないでしょうか?」


     「あるよ、俺だけの抜け道、この城の宝物庫と城外の壁に

      俺だけが抜けられる偽装した穴がある。」


  翌日、魔道王国デモリアは大騒ぎになっていた。厳重な守りが施されている

宝物庫から、ある宝具が奪われていた。人間の勇者を倒した先王の戦利品である

聖剣カリブルヌスに魔王の黒魔術が施された聖なる魔剣が消えていた。

魔道城は、厳戒態勢が取られたが、誰も第三の王子のアモンが消えたことは

気にもしていなかった。その程度の存在感だった。

もちろん、第一王子と第二王子は、すぐに刺客を放ったいた。


 アモンは、すでにスラングに飲み込まれて、ある教えられた魔法詠唱を

  口にしていた。

  「ミラージュ!」


  気がつくとアモンは、古びた小屋が一階と二階に立ち並ぶ場所に着き、

その201号室という部屋に通された。入口や外観とは異なり、部屋の中は

広々としていた。


 「魔法とは違う別の世界の空間技術を施していますから、敷地の広さは

  魔道城と同じくらいありますし、この空間なら、あなたの創生魔術が

  使い放題ですから、お好きな物を創生して下さいね、

  それから、この日本での貴方の名前は、不動亜門です。」


 「ところでこの世界で何をする?」


 「もう少しお待ち下さい。

  パーティーがまだできませんから?」


 「パーティ?酒宴は好まないが、俺は。」










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