ヨルズノート

魔道具の回収や実験の検証がやっと終わって邸でのんびりしていたら、いきなりお兄様が部屋に入ってきた。


「お兄様!

淑女の部屋にノックもなしに入ってこないでよ!」


私が着替えてたらどうすんのよ!


しかもお兄様は怒っている私の顔を見つめたと思ったら抱きしめて頭をナデナデしてくる。


私、怒ってるんだけどわかってるのかな?


「お兄様?」


「ヨルの怒った顔、可愛い!

前のシャイなヨルも可愛かったけど、顔が見えて可愛さ倍増!」


貞子バージョンも可愛いって身内贔屓が凄すぎる。


断罪から2日立って、皆は私の変貌ぶりに最初こそ衝撃を受けてたっぽいけど、すぐに立ち直ってこんな感じが続いている。


喜んでくれるのは嬉しいよ。


私だって嬉しいし。


だけど私があんな風になってたのを聞いた邸の皆は大号泣からの大激怒。


王家とかいる?いらないよね。やっちゃう?いいんじゃない!

で、王宮襲撃しそうになった。


必死で止めて自分でやっちゃうから見守ってって約束したんだよね。


そして一段落してからは顔をマジマジ見ては抱きしめるの繰り返し。


今までシャイだからスキンシップも抑えてたんだって。


私からしたらあれで?!ってなったわよ。


貞子バージョンでも普通に1日一回以上抱きしめてナデナデしてたのに。


「お兄様、用があって来たんじゃないの?」


お兄様の胸筋硬くてギュッとされると痛い。

抱きしめる時はソフトに。


「ああ、そうだった。

今スフォルツァンド公爵が来てるんだよ。」


お兄様の爆弾発言にビックリした。


「えっ、なんで?」


「ヨルは驚いた顔もお目目パッチリになって可愛いな~」


また抱きしめてきた。


今はいいから!


お兄様の腕の中でジタバタしてると渋々腕を緩めてくれた。


「スフォルツァンド公爵ってフレたんのお父さんだよね。

家と親交なかったのに。」


あれかな、昨日フレイヤが公爵家に行ってアスガルズ王国のこれからの話をしたから来たんだよね。


「おっ、ヨルは予想がつくのか?

俺は予想がつかないから盗み聞きしようと思って誘いに来たんだ。」


堂々と言っちゃうところが我が兄の良い所だ。


兄と一緒に応接室の隣の部屋に入ると弟が先に来てて壁にへばりついていた。


『話は進んだか?』

『挨拶とか社交辞令が長くてまだ。』

『良かった~♪♪』

『良くないよ。つまんない話ばっかで止めようかと思ってた。』


いや、盗み聞きなんだから止めてもいいんだよ。


私は呆れてたけど『本題に入ったぞ』と言われて壁にへばりついた。


うっ、体が勝手に⋯


話の内容は今日と明日、王宮でアスガルズ王国の今後を話し合うから出仕して欲しいと言っていた。


お父様は貴族の義務だから良いよって二人とも貴族らしく遠回しに言っている。


悠長だけど期限は明後日の夜8時だよ。


大丈夫かな?


「それからヨルズノート嬢は今どうされておられる?」


ん?わたし?

何で私が出てくるの?


『スフォルツァンド公爵と面識あったか?』


私は首をふって否定した。

スフォルツァンド公爵だけじゃなく殆どの貴族と面識がない。


「邸におりますが⋯

娘がどうかしましたか?」


お父様もいきなり私の話を振られて戸惑っている。


「ヨルズノート嬢も今回の被害者だが、漆黒の塔の魔導冶師でもあられる。

アスガルズ王国が危機に瀕している今、どうかご助力頂けるようお口添え願いたい。」


は?

『『は?』』

「は?」


今、全員の声がハモったね。


「王家が倒れればアスガルズ王国は次の王位を巡って争いが起きる。

それだけは何としても避けなければならない。

ヨルズノート嬢はフレイヤやヒルデガルダ嬢と親交を深めている。

王家の進退は今回の被害者である彼女たちに委ねられているらしい。

ヨルズノート嬢が一言でも許すとーー」


「お待ちください。」


お父様の一言で公爵が黙った。


「わたしは娘に何も言うつもりはありませんよ。」


「国が危機に瀕しているのだぞ!」


「ええ、わかっています。

ですが原因は王家であり、わたし達貴族で、彼女達は被害者でもうこの国の人間ではありません。

貴方は他国の尊き方、それもアスガルズ王家の被害者に我が国が危機だから助けろと言っているんです。

それがどれだけ非常識かおわかりですか?

わたしが娘の立場なら狙って滅ぼしてやります。

まあ、わたしの娘は優しいし可愛いからそこまではやらないかもしれませんがね。」


お父様、今可愛さは関係ありません。


でもお父様の言葉で落ち着いた。


もう少しで飛び出していく所だったから。


お兄様たちが手を握っててくれたのも大きいけど。


「では何もしないと?」


「何もしないとは言っていません。

順序の問題ですよ。

まず今回の騒動を起こした者を罰して、私の娘やフレイヤ嬢やヒルデガルダ嬢に真摯に対応し、わたし達貴族が国を立て直さねばならないのです。

王家や今回の加害者が反省せねば協力する必要を感じません。」


「それでも貴族か!!」


「貴族だからこそこの国の為に領地を治め、税を払い、あんな屑と婚約させてしまった。

そのせいで娘が漆黒の塔に入る為に、幼い頃から何一つ子供らしい遊びもせず勉強し命の危険がありながら他属性を取り入れなければならなかったんです。

もう娘に願うのはただ幸せになってくれる事だけです。」


お父様、私は幸せですよ。


家族がいて親友がいて私の大切な皆が笑っていてくれるから。


「⋯これで失礼する。」


「一つだけ忠告を。

もしギリング辺境伯の所に行かれてもこの話はしない方が良いかと。

ギリング辺境伯は貴方に恩を着せるために安請け合いするでしょうが、ヒルデガルダ嬢は両親もこんな話を持ってきた貴方も許さないでしょう。

貴方はフレイヤ嬢のお父上なので骨を5、6本おられる程度でしょうが、両親は⋯」


⋯ヒーたんの性格よく分かってるね。


公爵は何も言わずに出ていった。


私達はお父様のいる応接室に入った。


お父様はソファに深く腰掛けて、疲れているようだった。


「お父様、私のせいで申し訳ありません。」


お父様達は驚いたように私を見た。


「なんで姉上が謝んの?

あのオッサンがおかしいのに!」


オッサンって、どこでそんな言葉を覚えたの?


「ヨルのせいじゃないだろ。

あのオッサンは貴族なら犠牲になるの当たり前だと思ってるんだ。

だったら自分が犠牲になりゃいいじゃねーか!」


お兄様も口悪いな。


「ヨル、おいで。」


お父様が優しく私を呼んだ。


私がお父様の隣に座ると頭を撫でてくれる。


「お前達もおいで。」


「いや、俺はこっちで。」

「俺も。」


二人は断り、対面に座る。


お父様は寂しそうだけど、お兄様も弟ももう頭なでなでの年じゃないからね。私もだけど。


「聞いていたんだね。

でもスフォルツァンド公爵の言い分もわかるんだよ。」


私達は何が?って顔をしてたからかお父様は困ったように笑う。


「貴族ならば国のために犠牲にならないといけない。

でもそれは王家や一部の貴族の為ではなく、領民や国民の為なんだ。

公爵もわかっておられるが王家が安泰なら国民も安泰だと思ってしまっている。」


「逆だろ。国民が安泰だから王家も安泰でいられるんじゃないの?

今回は貴族間の問題で、しかもそのせいで何の罪もない民が犠牲になってる。」


お兄様は平民の魔力持ちが亡くなったのにかなり憤りを感じていた。


「それよりあのオッサン、大事な事忘れてるよね。」


大事な事?


「王家が皆役に立たないって事?」


私が弟に聞いてみた。


「違うよ。

姉上達は三人で国を落とせる戦力があるのに、なんで国の犠牲になると思うかなって事。

あのオッサンのご高説?聞いてたら、そんな鬱陶しい国なんて要らんってなるじゃん。」


弟よ、私達を何だと思っているの?


人間兵器じゃないよ。

そんな地雷みたいにすぐドンッと爆発したりしないよ。


「確かになぁ。」


いや、お父様ちょっと待って。


お父様までそんな目でみてたの?


「いや、ヨルじゃなくてヒルデガルダ嬢の方だ。」


「⋯⋯」


「ヨルの話を聞いてたらヒルデガルダ嬢は親しい人には情は深そうだが、それ以外にはちょっと⋯」


「⋯⋯」


「姉上、どうした?

顔が真っ青だぞ。」


私は笑顔で答えた。


「ヒーたんは基本面倒くさがりだから、そうそう動いたりしないよ。それに私達の為に命懸けで邪竜と戦った友達思いの優しい子なんだよ。」


「姉上、ごめん。

訂正する。ヒルデガルダ嬢一人でアスガルズ王国を滅ぼせる。」


訂正しなくていいから!


「あのオッサンの話ってヒルデガルダ嬢の地雷を踏みまくってないか?」


お兄様、止めて!

私もそう思ってたけどあえて棚上げしてたんだから!


「ヨル、お父様はどうしたらいいかな。」


「公爵がヒーたんの両親の所に行かないよう一緒に祈ってよーーー!」


暫くヒーたんと一緒に行動しよう!と決意したよ!!


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