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フレイヤとヒルデガルダは顔を上げ、王子達を冷めた目で見る。


フレイヤは扇を広げて口元を隠しながら婚約者に問いかけた。


「傲慢で残酷とは酷い言われようですわ。

そのような言いがかりを付けられる覚えはありません。」


その言葉にシグルドは苦渋を滲ませる。


「君は私がフォルセティと親しくしているからと、彼女を罵倒して教科書を破ったり暴力を奮っていた。

そしてに1ヶ月半前にフォルセティを呼び出し階段から突き落とした。」


「罵倒ではなく人の婚約者に擦り寄るなと忠告しただけです。

教科書を破ったのも彼女がわたくしの足に引っかかって転けたのも故意ではありませんわ。

その件は謝罪してお詫びを致しました。

そして階段から突き落としたと言いますが、あれは彼女がわたくしを呼び出し、婚約者と別れろと迫ってきて、もみ合った末の事故ですわ。

しかもわたくしは彼女を庇って下敷きになり大怪我を負いましたのよ。」


フレイヤの反論にフォルセティは怯えながらも言い返す。


「違います。

フレイヤ様はわたしを身分を弁えない愚かな女だとか人の婚約者に手を出して卑しいとか皆の前で貶めました。」


悪役令嬢達は心中で事実では?と突っ込んだ。


「それに足を引っ掛けられ教科書を破られた時もお詫びなんてしてもらっていません!」


この発言はお詫びの品を準備したヴァルキュリアに喧嘩を売っている。


「階段から落ちた時に呼び出したのはフレイヤ様です。

私を泥棒猫と呼び突き落としました。

落ちる時に咄嗟にフレイヤ様の腕を掴んでしまったので、たまたまフレイヤ様が下になっただけです!」


突き落としたフレイヤが重症で突き落とされたフォルセティが無傷だったのにその言葉には無理がある。


「殿下、その女の言葉を信じますの?」


フレイヤはシグルドを睨みながら聞いた。


「証人がいるんだ。

信じざるを得ない。」


「証人とは?」


「出てきなさい!」


シグルドが声を張り上げると人混みの中から数人の男女が出てきた。


「フリングホルニと申します。

娘からは一度もお詫びを頂いたと聞いておりまませんし、我が家にもそのような物は届いておりません。」


礼をしながら証言をしていたが下卑た笑いを三人は見逃さなかった。


「わたくしはよくフレイヤ様と一緒におりましたが、酷い言葉でフォルセティ様を罵っていたのを見ましたし、態と足を引っ掛けたり教科書を破ったりして笑っている姿を見ました。」

「私も」

「わたくしもですわ。」


フレイヤの取り巻きの令嬢達がシグルドに訴える。


「僕はフレイヤ様がフォルセティ嬢を階段に呼び出すのを見ました。」


男子生徒がフレイヤから顔を背けて言った。


証言が終わりシグルドのそばに居たロキが吠える。


「これだけの証人がいるんだ!

言い逃れできないぞ!!」


「残念だ。

君の傲慢な態度も我儘も許容してきたが、もう庇う事は出来ない。」


最後まで自分が婚約者に対して我慢して誠実だったのにと言わんばかりの言い方だ。


フレイヤはシグルドの苦しそうな顔に呆れ、扇に隠した口が開いたままになっていた。


その横でヒルデガルダがそっとフレイヤを小突いて我に返らせ、己の婚約者バルドルを見た。


「わたしが卑怯な阿婆擦れとはどういう意味です?」


扇で持っていない方の手の平をトントンと叩きながら冷たい目でバルドルを見る。


高座でカタンと音がしたのを聞く。


その目にバルドルは一瞬怯んだが、そんな己を恥じるようにヒルデガルダを睨んで大声を上げた。


「夜毎如何わしい夜会や仮面舞踏会に行き、男漁りをしているのを知らないとでも思っているのか!

それにお前はミーミルの悪意ある噂を流し貶めた。

そんな女に王子妃の資格は無い!!」


「証拠は?」


どうでもいいような態度にバルドルは顔を赤くして強く睨む。


「ないと思っているのか!

証人はここへ!!」


その言葉に男女がぞろぞろと前に来た。


「私は夜会でヒルデガルダ嬢に誘惑されました。」

「俺も夜会で抱きつかれました。」

「私は仮面舞踏会だったけど仮面を外したヒルデガルダ様が男性に擦り寄っているのを見ました。」

「ヒルデガルダ嬢がミーミル嬢を悪し様に罵っているのを聞きました。」

「私も」

「僕も」


ヒルデガルダは証人をチラリと見て、勝ち誇った顔のバルドルに目を向ける。


「で、この証人達を信じたんですか?

裏付けは取りました?」


ここまで言われても冷静なヒルデガルダにバルドルは更に顔を赤くした。


「これだけの証人がお前の夜遊びを見てミーミルを貶めるのを聞いている。

それで十分だ!」


ヒルデガルダは虫けらを見るようにバルドルを見た後、フレイヤと目を合わせ国王に向かって頭を下げる。


国王は顔を顰めて二人の令嬢を見下ろした。


「そなた達は王子の婚約者でありながら、なんと愚かな真似を·····」


フレイヤとヒルデガルダは頭を下げたまま、落ち着いた声で国王に発言の許しを得る。


「国王陛下、発言をお許し下さいませ。」

「同じく。」


高位貴族という立場を鑑みたのだろう、国王が「許す」と許可した。


「シグルド殿下は証人やフォルセティ様のお言葉を鵜呑みにし、証拠や裏付けがありません。」


「バルドル殿下も同じです。

口裏を合わせればいくらでも捏造できます。」


顔を上げて動揺の欠けらも無い二人の言葉に国王が惑うように瞳を揺らした。


その横から王妃が蔑むように二人を見る。


「これ程の証人がいるにも関わらず、何を言っているの。

あなた方の普段の行いを見ても納得がいきます。」


側妃も片手をこめかみにあて嘆いた。


「あなた方と王子の婚約は国の未来を考えて陛下がお決めになられましたのに·····」


妃達の言葉に国王が惑いを捨て厳格な表情になった。


「そなた達の言い分もわかるが、身分関係なくこれだけの証人がおるのだ。

全てに口裏を合わせるなど無理であろう。

学院でのそなた達の行動も聞いておる。

フレイヤ嬢は公爵令嬢でありながら周囲を気遣わず傲慢な態度で接し、ヒルデガルダ嬢は異性に擦り寄り王子妃教育も理由をつけて一度も受けていない。

王子の婚約者としても貴族としも認められん。」


国王の発言は婚約を破棄するだけでなく、貴族からの除籍を意味した。


会場にいる人々が息を呑む。


フレイヤは両親の方に駆け寄り焦ったように言う。


「お父様、お母様、これは陰謀です。

わたくしは嘘は言っておりません。

信じてくださいませ!」


「国王陛下がそなたを未来の王子妃としてもスフォルツァンド公爵令嬢としても失格だと仰せになられたのだ。

それにわたしもそなたを信じられぬ。」


スフォルツァンド公爵は厳しい表情でフレイヤに告げた。


「どうしてこんな事を。

スフォルツァンド公爵令嬢としての自覚がこんなにもなかったなんて·····」


公爵夫人が泣き崩れるのを見て、呆然と二人を見た。


「わたくしをお捨てになりますの?」


スフォルツァンド公爵がフレイヤから顔を背ける。


「そなたをスフォルツァンド家から除籍するが捨てはしない。

領地でひっそりと暮らすなら生活の面倒は見る。」


その言葉にフレイヤの一縷の望みが絶たれた。


ヒルデガルダはフレイヤを痛ましそうに見たが、こちらも両親が出てきた。


表情を悟られないように扇で顔を隠す。


「お前のような見境のない娘など我が家の恥だ!」


「貴女を王子妃にするのにどれだけ苦労したか分かっているの?!

この恥知らず!」


両親の罵倒にヒルデガルダは自分の親ってこんな顔だったっけ?と場違いな感想を持った。


「それで?」


ヒルデガルダの冷たい声に二人は更に激高する。


「お前など娘では無い!

ギリング家から除籍する。

何処へなりと好きに行くがいい!!」


「そうよ。

我が家にはバルドル殿下に寵愛されているミーミルがいますからね。

貴女がおらずとも王家との繋がりは持てます。」


清々しいほど子を子としてではなく権力の道具として扱う親に、ヒルデガルダも二人を親と思わなくてもいいと安心した。


権力の道具にされるミーミルは一言も喋らず、ずっと俯いている。


結論は出た。


ヒルデガルダはフレイヤの方を向いて小声で呼びかける。


「レイ、どうする?」


もう終わりにしてもいいと言外に告げたが、フレイヤは小さく首を振りシグルドに向き直る。


「殿下、どうかわたくしの話をお聞きください。」


シグルドに近付いていくフレイヤの間にロキが割って入り剣を抜いた。


「殿下に近づくな!」


抜き身の剣をフレイヤに向かって振り下ろし、フレイヤは受けるつもりだったが、思わぬ人物に抱きしめられ剣がその人物の背中を切りつけた。


フレイヤの視界に赤が飛び散る。

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