悪役令嬢からの解放

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『エッダ物語~竜の加護を授けられし乙女』の最終イベントーーー断罪パーティの当日


卒業式が恙無く終了し、夕方から王宮でパーティが開かれた。


本来なら卒業式の後のパーティは学園の大会場で卒業する二年生とその親しか出席しないが、今年は一年に二人の王子がいる為、学年終了パーティと銘打って王宮の小会場で卒業する二年生だけでなく、一年生もパーティに参加できた。


小会場といっても全ての学院生と親がゆとりを持って入れるだけの規模はある。


卒業する二年生に不満はなく、二人の王子と間近で親交を深める最後の機会を親子共々狙っている。


そんな中エスコートもなく王子の婚約者であるフレイヤとヒルデガルダが誰にもエスコートされず一人で入場した為、皆の注目が集まった。


しかもフレイヤはオフホワイトに裾部分に向かって青紫色に変化するマンダリンドレスで脚部分のスリットには白と青のジョーゼット生地が使われ、サファイアやパールのアクセサリー、ヒルデガルダは深紅に濃淡の赤い花が散りばめられたエンパイアドレスでアクセサリーはオニキスの首飾りのみ。


何方も婚約者の色を使っておらず、周囲はヒソヒソとした嘲り声で二人を迎えた。


そんな中でも凛としたフレイヤと愛らしいヒルデガルダに見惚れる者は多かった。


二人は周りの視線を気にすることなく、本日の主役の登場を心待ちにしていた。


隅でドリンクを飲んでいたフレイヤのもとに両親と一緒に先に来ていた兄のフレイが近付いてくる。


「大丈夫か?」


心配そうにこちらを見るフレイに笑顔で返した。


「怪我でしたらすっかり良くなりましたわ。

パーティの事でしたら慣れていますので、お気になさらないで。

ドレスを贈ってこないのもエスコートをして下さらないのも慣れております。」


半年前から婚約者の義務を放棄したシグルドをフレイは知っている筈だ。


今更な心配をしてくる双子の兄の思惑がわからず探るように見る。


「·····パーティが終わったら邸に帰ってきてくれ。

話がある。」


その言葉にフレイヤは目を瞬かせる。


「何を言っておられますの。

もちろん邸に帰りますわ。」


フレイは悲しそうに笑って両親のもとに戻っていく。


「お兄さん、フレたん2号ゴーレムに気づいてたのかな。」


肩に触れる手に驚いて持っていたグラスを揺らす。


「驚きましたわ。

来てましたのね。」


「隠蔽魔法使ってるからこっち見ないでね。」


振り向きそうになったフレイヤをヨルズノートが止めた。


フレイヤは扇を広げて口元を隠す。


「準備は如何でして?」


「バッチリだよ‪☆って言っても師匠や魔道具部門の人達に手伝って貰ったけどね。」


「短期間で出来たんなら凄いよ。お疲れ様。

手伝えなくてごめん。」


ヒルデガルダがフレイヤ達の前を通りながら言葉をかけてきた。


これ・・は私の分野だよ‪☆」


ヨルズノートは強気に笑う。


その笑みに答えるようにこちらを流し見て口角をあげて通り過ぎて言った。


その艶冶な風情に二人は頬を赤らめる。


「可愛いのに色気があるって凄いね。」


ヨルズノートが感嘆の声をあげフレイヤも頷いた。


「少しわけて欲しいですわ。」


「フレたんは色気はないけど気高さがあるから大丈夫‪☆」


「·····それって高慢では?」


「違うよ~☆」


揶揄ってくるヨルズノートに頬をひくつかせた時、入口からヨルズノートの婚約者だったダグとイズンが現れた。


肩に置かれていたヨルズノートの手が震え、フレイヤはその手に触れる。


「辛ければ会場から離れていてもよろしいのよ。」


労るような声音にヨルズノートはキッパリと否定した。


「もう吹っ切れてるから大丈夫。

それに私だってケジメをつけたいからね‪☆」


「·····分かりましたわ。」


確かに吹っ切れているだろうがまだ恋の残滓は残っていそうだと思い、ヨルズノートを忘れたようにイチャつく二人を睨んだ。


ヨルズノートの家族もダグとイズンを射殺しそうな目で見ている。


そして茶番劇の主役、王子二人も会場に入ってきた。


フレイヤの婚約者シグルドは

白金色のドレスにアメジストのアクセサリーを身に纏ったフォルセティをエスコートし、ヒルデガルダの婚約者バルドルは淡い紫のドレスにダイヤのアクセサリーをつけたミーミルをエスコートしていた。


婚約者を放置し、婚約者でもない女を自分の色を纏わせて、エスコートした二人の王子を見て、茶番劇の登場人物に相応しいと感心して見ていた。


フレイヤとヒルデガルダは婚約者と言う立場上、ギリギリまで自邸で迎えに来るはずのない屑王子を待っていたというのに。


半年ほど前から一緒に出席する夜会にドレスも贈らず当日にエスコートをキャンセルするのはあったが、今日は両王子ともキャンセルの言伝さえなかった。


フレイヤとヒルデガルダの両親が王家に抗議しないから調子に乗っていったのだろう。


二人にすれば王子達に何の情もないので、調子に乗った馬鹿を追い落とした時が見物だと心中で嘲笑し、残りの登場人物達を待つ。




最後に国王と王妃、側妃が現れ高座に座り、王宮の使用人が出席者にドリンクを配った。


国王は立ち上がり笑顔で祝いの言葉を述べる。


「卒業生の諸君、卒業おめでとう。

そなた達の為にこの場を設けた。楽しんでくれ!」


全員が国王に礼をし、国王がグラスを空けてから周りが乾杯をして口をつける。


皆が笑顔で楽しんでいると王子二人が国王の元へ行き、礼をしてシグルドが先に発言した。


「陛下、祝いの席ではありますが、この中に罪人がおります。

彼女達に罪を問いたいのです。

どうかお許しください。」


国王と王妃が訝しげに王子を見た。


「皆の前で罪を問わねば彼女達は家の権力で有耶無耶にしてしまいます。

お願い致します!」


バルドルも声を張り上げ国王に訴えた。


国王はこの様な場でと難色を示したが王妃が両王子を援護する。


「いつもは王子としての立場を考えて行動している王子がここまで言っているのです。

願いを叶えてやりましょう。」


それに側妃も後押しする。


「王子もこの場でなければ罪人が罪を逃れるのを危惧されて仰っているのですから。」


国王は妻達の意見に頷き王子の願いを聞き入れた。


「全ての責任は己でとると約束できるなら許可しよう。」


二人の王子は顔を見合わせ喜色を浮かべて請け負った。


「ありがとうございます!」

「約束致します!」


二人は会場の中央に行き、愛する人の肩を抱いて婚約者の名を読んだ。


「フレイヤ・スフォルツァンド、こちらに出てきてくれ。」


「ヒルデガルダ・ギリング、出てこい!」


フレイヤとヒルデガルダは臆する事なく中央に向かい優雅に礼をする。


「お呼びによりまかりこしました。」

「·····」


フレイヤの格式ばった言い方もヒルデガルダの無言も婚約者として相対していないと言外に告げていた。


「フレイヤ、君がフォルセティにしてきた苛めをもう見逃す事は出来ない。

君のような傲慢で残酷な人に王子妃は務まらない。

よって婚約を破棄する。」


シグルドは苦しそうにフレイヤを見ながら宣言した。


「ヒルデガルダ!

お前のような卑怯な阿婆擦れと結婚するつもりは無い。

婚約を破棄する!!」


頭を下げたままのフレイヤとヒルデガルダ、隠蔽魔法を使って隠れて見ていたヨルズノートは茶番劇の幕開けに不敵な笑みを浮かべた。

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