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あれから10年近くたち、それぞれが漆黒の塔に入るべく勉強と魔法や魔術の修行に、強制力をどの程度避けられるかを模索し続けた。
学園に入ってからはゲーム通りシグルドとフォルセティが親密になり、フレイヤはゲームでしていた苛めを後でフォローできるようにしてゲーム通りにやっていた。
例えば相手を罵倒する時は婚約者がいる男性と親密にならないようにと忠告(ゲームのセリフを使いながらオブラートに)、教科書を破る(態とではないと主張して新しい教科書を第三者ーヴァルキュリアに送って貰う)、足を引っ掛ける(態とではないと主張して新しい制服とドレスを以下略)
無視するー略奪女と仲良く会話できる人がいるだろうか?
その度に当然の如くヒーロー達が来る。
それを忠告とちょっとの嫌味で躱しつつーーー
最後の階段イベントが起きる放課後、ヒロインであるフォルセティに呼び出されたフレイヤは階段の踊り場で彼女と対峙していた。
「ご用件は何かしら?」
偉そうにしなくても勝手になる自分に落ち込んでいたのは遠い昔。
今は何とも思わなくなった。
「どうかシグルド様を解放してあげて。
お願いします!」
「『貴女何様のつもりですの?』それはわたくしとシグルド殿下の問題ですわ。」
「でも彼は貴女との関係に苦しんでるのよ。彼を愛しているならどうしてもっと優しくして上げないの?!」
「『泥棒猫が口出ししないで!』」
フレイヤはフォルセティを突き飛ばしフォルセティは階段から落ちて大怪我をし、瀕死の中で聖属性で自分を癒す。
それがゲームのシナリオだがフレイヤは彼女の腕を引っ張り抱きしめて自分が下になるように落ちた。
体中に痛みが走り頭がグァンと揺れてヨルズノートとヒルデガルダの声が聞こえたのを最後に意識が落ちる。
後のことはヨルズノートとヒルデガルダに任せていた。
二人なら信頼できる。
〈一緒に落ちてフォルセティに傷を負わせないようにする〉
この方法しか思いつかず二人は反対したが、強制力があるなら死にはしないと何度も説得した。
最後まで難色を示していたが大怪我を負うとゲームではなっていて、それは逆らえない部分でフォルセティのかわりに己がその役割を果たし、罪を着せられることなく断罪イベントまで一時退場できるようにしたかった。
その為には落ちる時に強制力が一時的にでも働かないようにしなければならない。
フレイヤはヨルズノートに数秒でいいから異次元空間ー漆黒の塔の中のような強制力が喪失する空間ーを作り上げる魔道具を頼んだ。
ヨルズノートは最初拒否していたが、なくてもフレイヤも一緒に落ちると嫌でも理解して怒りながら作ってくれた。
最後まで二人とギクシャクしていたのが酷く心残りだったが。
体に温かい魔力が巡っているのが気持ちよく、目を開けると派手にメイクをしたヒルデガルダが目覚めたフレイヤを見て安堵した顔になった。
「良かった。」
一言だけだったがどれだけ心配をかけたか震える声音で十分に伝わってきた。
「心配かけてごめんなぁ。治癒魔法をかけてくれててんな。ありがとう。」
思わず関西弁が出てしまったが、全ての虐めイベントが終わって気が抜けているのと助かった喜びから気にならなかった。
「お疲れ様。後2日で完治するから。
学年終了パーティまで重症の幻影魔法かけるからもう学院に行かなくてもいいし、王子にも家族にも会わなくても大丈夫。
緑葉の間に住めるようにしてあるよ。」
学年終了パーティ。
最後のイベントだ。
この日の為に三人で頑張ってきた。
「このまま漆黒の塔まで移動魔法使うけどいい?」
「頼むわ。」
淡い光がフレイヤ達を包み、次の瞬間には緑葉の間のベッドで寝ていた。
「フレたん!」
ヨルズノートがフレイヤを見て涙を流しながらベッドの側まで来て顔を埋めた。
「良かった、起きてくれて良かった!」
フレイヤは包帯の巻かれた手でヨルズノートの頭を撫でた。
「あんたにもいっぱい心配かけたなぁ。
私の我儘で
「なんで謝るのよ。私達は運命共同体でしょ。
それに迷惑なんか私の方がかけてるじゃん。」
泣きながら怒って言うヨルズノートは包帯の巻かれた手を優しく包み込む。
「フレたんの作戦大成功だよ。
女狐はほとんど怪我してないし、庇ったフレたんが重症だったせいで事故扱いになってる。
あんな反則技じゃあ強制力も何もあったもんじゃないね。
後はゲームがどう修正してくるかわからないけど情報収集はかかさないようにしてるから、安心して。
まだ終わってないけどお疲れ様でした!」
ヒルデガルダにも言われた言葉をフリッグも言ってくれた。
「ふふっ、二人ともありがとう。次はヨルの番やけど私にもお疲れ様って言わせてや。」
「もちろん☆」
ヨルズノートの力強い返事に気力が溢れてくる。
三人で笑いあっていたら隠者ヴォルヴァとヴァルキュリアが部屋に入ってきた。
「全く無茶な計画を立てたものだ。
一歩間違えば死ぬ所だったんだぞ。」
「すみませんでした。これ以外に方法が見つけられなくて·····」
隠者ヴォルヴァにもヴァルキュリアにも反対された。
フレイヤにそっくりな
それだけは避けたかった。
ある程度自分で自分の体を動かせないと何も出来ない。
隠者ヴォルヴァは大きくため息をついた。
「そなたらは子供の時から全く言う事を聞かないからな。
もう諦めてるが皆が心配しているのを忘れるなよ。」
「どれほど言っても無茶をしてしまうのだから·····
とにかく今はゆっくりお休みなさい。」
ヴァルキュリア労わるように頭を撫で優しい瞳でフレイヤを見つめていた。
いつも母のように見守ってくれたヴァルキュリアには頭が上がらない。
「さあ、二人とも、フレイヤを休ませて。
貴女達は帰りなさい。」
「はーい☆フレたんまた明日ね☆」
「また明日来るから、お休みなさい。」
「うん、また明日。
お休みなさい。」
皆が出ていき部屋の明かりも間接照明に切り替わる。
まだ学年終了パーティでの断罪イベントがあるが、それが失敗すれば破滅するのはあちらだ。
そしてフレイヤ達には断罪イベントを失敗させる手段がある。
しかし断罪イベントが失敗すれば家族にも火の粉がかかるだろう。
10年前から両親とはどこか壁ができ、兄フレイとはほとんど口を聞かなくなった。
フレイは家族を警戒しているフレイヤに最初は戸惑っていたがフレイヤの気持ちを優先してくれたのか一定の距離で見守ってくれていたように思う。
今でも家族を愛する気持ちに変わりはないが、断罪後に捨てられる不安がどうしても拭えないままきてしまった。
フレイヤは自身の弱さが家族と距離ができた原因だとわかっていて縮める勇気は持てなかった。
両親を愛しているがもし娘が
両親は貴族らしい貴族だ。
貴族として肉親の情よりも国の為に娘を国に捧げる。
それは仕方が無い。
そして学院での兄を見る限り妹よりもヒロインであるフォルセティに傾いている。
これも兄を信じられなかったフレイヤの自業自得だった。
フレイを信じていたら、もしかしたらフレイヤの味方になってくれていたかもしれなかった。
たらればを考えても意味が無いと知りつつ何処かで勇気を出していればと何度も思ってしまう。
婚約者のシグルドは浮気をした時点で論外だった。
傲慢で我儘だが婚約者の義務を果たしていたフレイヤを学院在学中ずっと蔑ろにし、フォルセティと逢瀬を重ねてフレイヤの矜恃を傷つけていたのだ。
どうなろうと知ったことではない。
そしてフォルセティはきっと転生者だ。
注意深く見ていればわかる。
ゲームのフォルセティはあそこまでフレイヤに踏み込んで来なかったし、無礼でもなかった。
フレイヤの神経を逆撫でするようにフレイヤを名前で呼んだり、ゲームにないような場所で衆人環視の中、呼び止めて何も言っていない(無視していた)フレイヤを大袈裟に怖がっていた。
明らかにゲームのフォルセティと乖離が見られる。
それも全て断罪イベントでハッキリする。
今は休息を取って英気を養い、五日後のヨルズノートの最終イベントを乗り切らなければならない。
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