5

フレイヤは漆黒の塔に入ると決めた。


同じようにヨルズノートとヒルデガルダも漆黒の塔入りを目指すようだ。


隠者ヴォルヴァはフレイヤに魔法の才があると見抜き、魔術師を束ねる隠者ヴォルヴァが魔法士を目指すようにと師となってくれた。


魔法士は元々持っている属性を上級魔法まで使える者、その上の魔法師は二属性以上の上級魔法を、魔術師は四属性の上級魔法を使え、隠者は四属性の上級魔法とあらゆる魔法の知識を持つ者だ。


「では賢者とはどういう方なのですか?」


フレイヤは己の師となった隠者ヴォルヴァに聞いてみた。


「賢者はなぁ、端的に言えば変人だな。

わしの師の賢者フギンは素晴らしい魔法の使い手だったが、四大元素の原理を追求する事に一生を捧げた方だった。

火の原理を知る為に火山の火口に飛び込もうとしたり、水とは何かと考えるために海に潜ったまま出てこなかったりと色々とな·····

その度に止めたり捜索したりと大変だった。」


当時を思い出したのか隠者ヴォルヴァは死んだ魚のような目で遠くを見た。


「子供·····」


小さな子供があれ何これ何と大人に聞いてくるが、大人だから人に聞くのではなく好奇心のまま己で行動し危険は考えない。


「そうとも言えるな。

賢者とはわしの師のように何かを追求する方が多い。

と言うより、その何かを追い求めるのに便利だから賢者になるのだ。

どの国でも賢者は君主よりも地位は上だから、何処でも行けるし入れるからな。」


「では隠者ヴォルヴァも賢者になれる資格があるのですか?」


そう聞くと嫌な顔をされた。


「なろうと思えばなれるが·····」


それ以上は何も言わず、魔法の授業を再開した。


何故嫌な顔をしたのか教えてくれたのはヴァルキュリアだった。


「隠者ヴォルヴァに賢者にならないかと他の賢者に何度も打診されているけど、断っていらっしゃるのです。」


そう言うヴァルキュリアも騎士の最高位魔剣主ソードマスターで賢者になれとせっつかれているが、隠者ヴォルヴァと同じ理由で辞退している。


世間では賢者は尊敬と憧れの対象だが、漆黒の塔では賢者を冠する者は変人扱いされているので、あまりなり手がいないらしい。


「歴代賢者が色々やらかしているから、漆黒の塔の大半は賢者になるのに二の足を踏むし、探究心のない地位目当ての人間には誰も推薦しないから、賢者が五人揃う時代はあまりありません。」


賢者になるには現賢者全員の推薦がないとなれない。


そして推薦されても断る事はできるようだ。


隠者ヴォルヴァもヴァルキュリアも賢者となるに十分な資格はあるが、今の地位で満足しているから変人の仲間入りはしたくないらしい。


「今賢者は何人おられるのですか?」


次の授業で隠者ヴォルヴァに質問してみた。


「賢者は三人おられる。

だがその内のお一人は自身より強い相手を求めて大陸を出ていったきり戻って来ていない。

あとのお二人の内、賢者イーヴァルディは魔道具に取り憑かれ·····魔道具を極めた方で、賢者ヘイムダルは魔物の実態を研究する為に魔の森に住んでいる。」


漆黒の塔に来てから賢者のイメージが崩れていくばかりだ。


実力も知識も超一流だが、やりたい、知りたい事を我慢できない子供ーそれが賢者なのだと情報修正した。


(とりあえず魔法師をめざしましょう。)


フレイヤは未来のビジョンがしっかりと見え始めた。






「フレたん、ヒーたん、私は魔道師になる!」


三人が漆黒の塔で過ごす場所、緑葉の間で三人揃って休憩していると、いきなりヨルズノートが立ち上がり宣言し、


「わたしは黒騎士で。」


ヒルデガルダがクッションに埋もれながら呟いた。


フレイヤ達は7才になりお互いを愛称で呼ぶぐらいに打ち解けていた。


「お決めになりましたのね。」


「色々話を聞いてるとその辺を目指すべきかなって‪☆」


「同感。」


三人とも同じ下から二番目の地位を目指すのは、変人の仲間入りをすること無く自由度の高い、世間から侮られない立場にいたいからだろう。


「試験は9年後の16才の春に決まったと隠者ヴォルヴァが仰せでしたわ。

断罪イベントの前ですから都合がいいですわね。」


フレイヤは何としても断罪イベントを失敗に終わらせて、自由になってみせると意気込む。


そんなフレイヤにヒルデガルダはゲームでの疑問を口にした。


「このゲームってヒロインを三人の中から選んでそれぞれに違う悪役令嬢とヒーローがいるんだよね。

この世界現実では同時期に三人の悪役令嬢とヒーローがいるのに齟齬はでないの?」


その言葉にフレイヤとヒルデガルダは目を見合わせた。


「そうですわね。

ゲームではヒロインを選んだら残りのヒロインは出てきませんし、選んだヒロインに対応する悪役令嬢とヒーロー以外は元々の関係性でモブとして出てきますの。」


「悪役令嬢が三人同時にいるこの世界でも、それぞれのイベントは場所も内容も違うからブッキングはないよ。

断罪イベントだけはフレたんとヒーたんのブッキングがあるけど、おかしくはならないんじゃないかな。

『エッダ物語』このゲームって乙女ゲームでは珍しくヒロインに対して攻略対象者が一人だけなんだよ‪☆」


「それは珍しいの?」


「普通の乙女ゲームは一人のヒロインに何人もの攻略対象者がいるものですわ。」


「一応二年生になるとフレたんのお兄さんのフレイが全ヒロインの攻略対象者か当て馬になるんだけどね‪☆」


フレイヤは兄フレイを思い出し憂鬱になった。


(この世界が乙女ゲームだと気づいてから家族やフレイともどう接したらいいかわからずに避けているけれど·····)


両親はフレイヤに自立心が芽生えたと寂しく思っているが、フレイは双子だからかフレイヤの家族に対する警戒に気づいている。


わかっていても無邪気に甘える事はもうできないでいた。


「都合が良すぎるね。」


ヒルデガルダがボソリと呟いた言葉をフレイヤもヨルズノートも聞いていなかった。






フレイヤは賢者ヴォルヴァから魔法の基礎や魔術理論、様々な魔法を学び、元々持っていた水と土属性の上級魔法は一年で習得し、火と風の属性は持っていなかったので難航したが、その属性を持っている魔術師に協力してもらった。


持っていない属性を取得するには体の中に獲得したい属性の能力を無理矢理体全体に流し、全身に行き渡った後収縮させて属性の種を作り、その種を自身の魔力で発芽させて再度全身に巡らせる。


「本来持っていない属性を強制的に全身に流すから体が耐えられずに死ぬ場合もある。

特にそなたは7才で体が出来ておらず失敗する可能性が高い。

そこまでして火と風の属性を得たとしても弱い力しか使えないんだぞ。」

と忠告されても諦められなかった。


(何もしなければゲーム通り17才で死ぬんですもの。

それなら試せる事は何でもやりますわ!)


火の時は体が燃えているような状態で、風は体が内側からバラバラになるほどの痛みがあり、どちらも三日その状態が続いたがそのおかげで四属性全てを使えるようになった。




獲得した火と風の魔法は最初下級魔法しか使えなかったが、魔法の成り立ちや理論を必死に勉強して膨大な魔力と緻密な魔力操作で13才で四属性全ての上級魔法が修得し、あらゆる知識を貪欲に吸収していった。


ヨルズノートやヒルデガルダも同じ方法で四属性を得た。


ヒルデガルダは風の属性を持っていたが、ヨルズノートは闇属性しか持っていなかったので、体が持たないと一番反対されていたが、一属性ずつ体を休めならがら一ヶ月かけて取得した。


ヒルデガルダは全属性を獲得すると師匠に告げると休む間も与えられずに9日で取得。


ヒルデガルダの師曰く

「気合と根性があれば耐えられる」そうだ。


ヒルデガルダも中身は脳筋らしく当たり前のように受け入れていた。


その話を後から聞かされ、ヨルズノートと二人で震え上がったものだ。


学園に入る頃にはフレイヤはまだ漆黒の塔入りしていないのに隠者ヴォルヴァの後継者と目される程の実力を身につけていた。

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