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アスガルズ王国の短い夏の終わり、王宮の庭園で二人の少女の三文芝居が始まるーーー


「今日は少し肌寒いですわね。

こんな日にはコンビニで熱いおでんが食べたいですわ。」


「私は熱い日本茶とどら焼きが食べたいですわ。」


ヨルズノートの意外な嗜好に驚きつつ芝居を続ける。


「ヨルズノート様は和食がお好きですの?」


「ええ、和スイーツは特に好きなのです。

炬燵でテレビを見ながらお饅頭とかよく食べましたわ。」


食べ物が庶民的な物しか出ないが相手は食いついてきた。


「あの、お話中に申し訳ございません。

立ち聞きするつもりはなかったのですが·····」


こちらは立ち聞きさせるつもりでした!


二人は獲物がかかった喜びに口角を上げる。


扇で口元を隠していなければターゲットは逃げ出しただろう微笑みだ。


「御機嫌よう。わたくしはフレイヤ・スフォルツァンドと申します。

こちらはヨルズノート・スクルド侯爵令嬢ですわ。」


「お初にお目にかかります。

ギリング辺境伯の娘ヒルデガルダと申します。」


カーテシーをする姿は愛らしいのに色気がある。


将来の夜遊び令嬢と言われるだけあると二人は内心思った。


「ギリング辺境伯令嬢、如何なさいまして?」


用件はわかっているが最後の確認で聞いてみる。


「あの、····先程炬燵とかTVとかどら焼きとか聞こえてきたのですが、梅干は如何ですか?」


そう来たかとフレイヤは目を細めた。


てっきり前世を覚えているかと聞いてくると思ったが、この世界にない日本の代表格の食べ物でこちらの反応を確認してきた。


しかもチョイスが渋い·····


これを狡猾と取るべきか否かを判断できず笑顔で答える。


「大好きですわ。特に熱々のご飯で食べるのが。」


ヨルズノートもフレイヤの意図に気づき合わせてきた。


「私はお茶漬けで食べるのが一番好きですわ。」


その答えを聞いたヒルデガルダは一筋の涙を流した。


「あ、申し訳ございません。お恥ずかしいところを·····」


フレイヤもヨルズノートも涙の意味を誰よりも理解できた。


だからこそ彼女を信じられる。


「いいえ、大丈夫ですわ。

わたくし達にも覚えがありますもの。

ではこれで失礼致します。」


「もうお帰りになりますの?」


「ええ、漆黒の塔・・・・では良い茶葉を栽培しているとか。

どんな味がするのかしら。」


小声で意味深に目配せして踵を返し、主催者の王宮女官長に挨拶をして漆黒の塔へ向かう。


緑葉の間に入ると直ぐにヨルズノートが来て不安そうに聞いてきた。


「気づいてくれたかな?」


「恐らくは·····」


あの場では誰が聞いているかわからないので、込み入った話は出来なかった。


ここに来てくれればなんでも話せる。


どちらも無言のままヒルデガルダが来るのを待った。


ノックの音に二人が急いで扉に飛びつく。


扉を開けるとヒルデガルダが驚いた顔で後退った。


「待ってたよ!

どうぞ中に入って、って言っても私の部屋じゃないんだけど☆」


「落ち着いて下さいませ。ギリング様が引いておりますわ。

お許しくださいませ。気づいて頂けたか不安でしたの。

来て下さって嬉しいですわ。」


「·····はい。」


気の抜けたような返事が返りフレイヤはヨルズノートと目を合わせた。


「とにかく座りましょう。

これではゆっくりお話も出来ませんわ。」


「先に教えておくとここでの会話は盗聴盗撮の魔道具で撮られてるの。

私達の保護者っていうか責任者がね、部屋に誰も置かないかわりにって置いてあるんだけど気にしないでね☆」


「彼らは探究心旺盛と言いますか、研究バカなんですの。転生者の実態を知りたいのですわ。

その代わりわたくし達を守ってくださいますの。」


「守るって何から?」


フレイヤはヨルズノートと再度目を合わせた。


「この世界での悲惨な最期からですわ。

あら、もしかして貴女〈双眼者シン〉ですの?」


「〈双眼者シン〉?」


「〈双眼者シン〉はこの世界ではない別の世界を知っている者の事ですわ。分かりやすく言えば転生者ですわね。」


「前世の記憶っていうか日本の記憶があるでしょ。

それの事だよ☆」


「ああ、なるほど。」


力なく頷く様子にフレイヤは状況を把握出来ずにいるか疲れているのかと心配になった。


「どこか具合でも悪いのですか?

それともいきなり過ぎて混乱なさってますの?」


労るように聞けばヒルデガルダはキョトンとした後、思い出したように首を降った。


「あー、本当の私ってこんな感じなんですよ。

面倒くさがりっていうか·····

この格好も趣味じゃなくて·····着れればなんでもいいんですけど、何故か勝手にこういうのが着たい、あれが欲しいって言っちゃうんです。

変な話ですよね。」


困ったように笑う顔に痛々しさが見えてフレイヤはヒルデガルダの手を握る。


「聞いてくださいませ。

この世界は前世の乙女ゲームの世界ですの。

そしてわたくし達はゲームの悪役令嬢で貴女がしたくもない服装も勝手に体や言葉が出てくるのもゲームの強制力ですわ。」


「は?乙女ゲーム?

強制力?何言ってるの?」



そしてプロローグの話に戻る。



*****

読んで頂きありがとうございます

m(*_ _)m

三人目の悪役令嬢も登場したので「ヒルデガルダ・ギリングの奮闘」もUPしていきます。

読んでくださったら嬉しいです(*^^*)

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