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それからゲーム通り傲慢我儘令嬢の役をどれだけ逸脱すれば強制力が働くのか試していった。
優しくありがとうと言いそうになれば強制力が働くが高飛車に言えば何も起こらない。
ならばと我儘として孤児院に寄付したり領地を見て周り両親の手伝いをしたいと我儘っぽく言えばいいとやってみたら強制力はなかった。
(意外と強制力っていい加減なのかも)
それを隠者ヴォルヴァに伝えるとふむふむと頷いて書き留めていた。
親切心もあったのだろうが、【千里眼】の観察が主だったのではないかと、一ヶ月もすれば薄々わかってきてジト目で隠者ヴォルヴァを見る。
隠者ヴォルヴァはフレイヤの己を見る目に気づき、そっと紙を隠した。
「今日はそなたに良い話がある。聞きたいか?」
いたずらっ子のような顔でフレイヤを見た。
「なんですの?」
フレイヤは小首を傾げて彼を見た。
「ふっふっふっ、実はもう一人【千里眼】がここに訪れたのだ。」
フレイヤは驚き目を見開いて素っ頓狂な声が出た。
「はぁあああ?
もう一人って誰ですの?
まさかヒロイン?」
完全にパニックになったフレイヤは混乱と恐怖で魔力が漏れてしまう。
「フレイヤ様、落ち着いて下さい。」
藍色のローブの女性ヴァルキリアが肩に触れ軽く電流を流す。
「痛い、痛いです!」
「落ち着きましたか?
貴女の仰るヒロインでも攻略対象でもありません。
お会いになりますか?」
ヴァルキュリアは人に電流を流しておいて澄ました顔で聞いてきた。
「·····はい、お会いしたいですわ。」
フレイヤはヴァルキュリアを恨みがましく見ながら答える。
ヴァルキュリアは気にせず緑葉の間に案内された。
扉を開けると緑溢れるーーー溢れすぎてテーブルと椅子以外が全て葉っぱで出来ている部屋に同い年位の少女が立っていた。
「御機嫌よう☆まさか同じ世界のしかも日本人に会えるなんて嘘みたい。ここに来てよかったぁー。あ、私はヨルズノート・スクルド。ヨッちゃんって呼んで☆貴女はフレイヤ様でしょ。貴女ももちろん〈
「ちょっと待って!ストップ!!」
(早口過ぎてついていけないわ。でも今ヨルズノート・スクルドって言ったわよね。ヨルズノートって)
「貴女闇属性のヨルズノート・スクルド?
根暗ヤンデレ令嬢の?」
「そっ☆根暗ヤンデレ令嬢で最後は闇の魔法でヒロイン呪って返されて死んじゃうヨルズノートでっす☆」
フレイヤはゲームのおどろおどろしいオーラを持つヨルズノートと目の前のテヘペロした元気いっぱいの幼女が同一人物とは思えなかった。
ヨルズノートは呆然としているフレイヤに気づいて一人浮かれていた自分を恥じるように謝ってきた。
「ごめんねぇ、驚かせて。
私って根暗設定だからまともに人と喋れなかったんだよね。
ここの中って強制力働かないようでやっとまともに喋れたのが嬉しくってついはしゃいじゃった☆」
いや、マシンガントークに驚いたんじゃない。
それにも驚いたが藁人形握りしめる姿がデフォルトだったヨルズノートがパリピな軽さで語尾に☆飛ばしているのに一番驚いているのだ。
「おーい、戻ってきてよ~。目が覚めるように鼻から牛乳飲む?」
「なんで鼻から牛乳やねん!やりたきゃ自分の鼻に流したろか!」
フレイヤはハッとなり慌てて両手で口を押えたが後の祭りだった。
ヨルズノートもヴァルキュリアも呆気にとられている。
「どうなさいましたの?
何か夢でもご覧になって?」
今のは幻聴と思ってくれないかな~と誤魔化そうとしたが、
「フレイヤ様って前世は関西人だったの?
うわーそっちの方が親しみあるのに何でお嬢様言葉使ってんの?
もったいないよ!」
バリバリのお嬢様や!
フレイヤは深呼吸して落ち着いてから反論した。
「わたくしがスフォルツァンド公爵家の娘だからですわ。
スフォルツァンド公爵令嬢が関西弁を話し出したら皆様どういう目で見るかおわかりになりますでしょ。」
完璧な笑顔で答えた。が、
「面白令嬢で親しみが湧く?」
「誰も面白令嬢なんぞ目指し取らんわ!」
また乗せられたとフレイヤは落ち込む。
「あははははっ、でもこんなに喋ったの久しぶ、りでっ、ふぅぐっ·····」
ヨルズノートが堰を切ったように泣き始めてフレイヤはやっと気づいた。
彼女も自身の未来を恐れていたのに誰にも相談できなかったんだ。
己の意思を無視して動く体や言葉に恐怖を抱かないはずがない。
今だけは公爵令嬢ではなく同じ日本人として彼女を慰めたかった。
「よう頑張ったやん。
体が勝手に動いたり喋ったりって怖いもんなぁ。
私もここに来るまでたまらんかったわ。
ここでやっと泣けてん。だからヨルズノートも好きなだけ泣いたらええで。」
そう言って抱きしめると鼓膜が破れるかと思うほどの声量で泣き始めたが、ヴァルキュリアがしてくれたように背中をポンポンして落ち着くのを待った。
「ありがとう。
なんか気持ちがスッキリしたー。
フレたん優しいね☆」
目をパンパンにして照れ笑いをするヨルズノートにホッとして冷気を纏った手を腫れた瞼に当てる。
巫山戯たあだ名で呼ばれたがもう気にしないでおこう。
「わたくしもここに来た日に大泣きしましたの。
あの時はヴァルキュリア様が慰めて下さいましたわ。」
ヴァルキュリアの方を見るとそっぽを向いているが耳が赤くなっている。
「もう関西弁喋ってくれないの~?」
強請るように言われるがそれは出来ない。
「現実問題、わたくしは公爵令嬢で王子の婚約者ですの。その枷が外れない限り言葉遣いから所作まで隙を見せる訳にはいきませんのよ。
関西弁を封じるのにどれだけの精神力がいるかっ。」
フレイヤは苦渋を滲ませ愛しの関西弁を出せない身分を呪った。
「あ、うん。わたしが悪かった。
じゃあ、自由になったらいっぱい好きな言葉で喋ろう☆
私も喋るから☆」
「貴女は今でも沢山お喋りされておられます。
でも貴女の仰るように自由になったら好きな事をしましょう。」
そろそろ腫れも引いたかとヨルズノートの瞼から手を離した。
目を開いたヨルズノートの瞳は黒曜石のように美しく、髪も艶やかな黒髪だ。
顔も切れ長の一重にすっと通った鼻筋、唇も薄いが小さくて日本人形のように整っている。
大人になれば臈長けた女性になるだろう。
ーーー黙っていれば。
「でも悪役令嬢二人が転生者だとしたらきっと「最後の一人も転生者かも」☆」
「という訳でやって来ました。未来の淑女のお茶会☆」
「誰に言ってますの。
それより真剣に探して下さいませ。」
フレイヤとヨルズノートは王宮の子供のお茶会に参加していた。
今回は女の子だけの集まりなので将来の婿を物色しなくてもいいからか、何時もより気楽な雰囲気だった。
フレイヤとヨルズノートは庭園の茂みに隠れて三人目の悪役令嬢を探していた。
「貴女物陰に隠れるの物凄く似合ってますわ。」
「フレたんはめちゃくちゃ似合わないね☆」
語尾に☆を飛ばしてるのに何故こんなに暗く感じるのか。
強制力の恐ろしさよ。
フレイヤが変な所で感心していたらヨルズノートが袖を引っぱってきた。
「居たぁ!左20m先に獲物発見☆」
「獲物って·····今の貴女が言うと本当に獲物に聞こえますわ。」
「今のフレたんが言っても違う感じだけど同じだから☆」
傲慢令嬢と根暗令嬢。
誰が見ても悲鳴を上げて逃げること請け合いだった。
「ちょっと、落ち込んでる場合じゃないから!
あれでしょ。夜遊び令嬢☆」
「未来の夜遊び令嬢ですわ。
今はまだ·····」
違うと言いたかったが、言えなかった。
深紅の髪に紅玉の瞳、唇もぽってりとした派手な顔立ちに装飾品をこれでもかとつけて薄ピンクのフリフリドレスを身にまとっている。
似合うか似合わないかでいえば似合うのだが·····
「派手だね·····」
「派手ですわね·····」
それ以外の言葉が出てこなかった。
ヨルズノートが日本人形なら彼女は西洋人形のように美しい。
「でも全く嬉しそうじゃないね。
目が虚ろだもん。」
「ここから見えますの?ってそれなんですの?」
いつの間にか瓶底メガネをかけていたヨルズノート。
「眼鏡に見せかけた望遠鏡。
100m先の蟻も見える高性能。
それはいいからターゲットに近づくよ。」
二人は茂みに隠れながら近づき目的の令嬢の後ろの茂みに移動した。
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読んで頂きありがとうございます
m(*_ _)m
二人目の悪役令嬢が登場。時系列が同じなので「ヨルズノート・スクルドの奮闘」もUPしていきます。
読んでくださったら嬉しいです(*^^*)
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