ヨルズノート・スクルドの奮闘

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婚約者を探して学園内を歩きながら私はこの日課・・が後何日続くのか考えていた。


私ーヨルズノート・スクルドの学園を彷徨う姿は幽鬼のように皆には見えるだろう。


手入れはされているが膝まで伸び目元を覆う真っ黒な髪、陰湿な雰囲気を醸しだすにはピッタリでいつも俯きがちだ。


その上闇属性ときたら誰でも避けて通りたくなると自分でも理解している。


本当は髪なんて伸ばしたくない。

ショートヘアにして顔を上げて歩きたい。


でもこの乙女ゲーム「エッダ物語~竜の加護を授けられし乙女~」 の世界じゃ 私は根暗ヤンデレ令嬢。


顔すら強制力であげられない。


記憶が戻ったのは5歳の時で転生あるある高熱か~ら~の前世の記憶復活。


起きた時に両親が枕元で泣いて喜んでる姿に「心配かけてごめんね☆」と元気よく言おうとしたら、くっらーいどんよりした言い方しか出来なかった。


顔もあげられずずっと俯いたまま。


首の骨がおかしくなるんじゃないかと将来が心配になるわ!


そして自分がヨルズノート・スクルド侯爵令嬢でこの国がアスガルズ王国と知った時には『詰んだわ·····』と絶望した。


この乙女ゲームは三種類のヒロインが選べて、選んだヒロインによって攻略対象者も変わってくる。


私が悪役令嬢となる場合のヒロインは平民出の優秀で光属性を持つ、活発な金髪碧眼の美少女イズン。


ヒーローは火の属性を持つ優しく快活な赤髪金目の公爵嫡男ダグ・ヘルモーズ。


ヨルズノート・スクルド黒髪黒目の私と対象的に見えるようにとのゲーム会社の意図が透けて見える配色だよね☆


そのヒーローダグと婚約したのは私が14才の時。


ダグの家は公爵家で私の家スクルド侯爵家より格上だけど権力は下だから私が嫁ぐ時の持参金目当てで公爵家から打診してきた。


なんで侯爵家が公爵家より権力があるのかっていうと、スクルド家が代々闇魔法が使えるからなんだよね☆


闇魔法っていうと負のイメージがあるけど他の属性とそんなに大差はない。


特殊スキルだから持ってる人はめっちゃ少ないけど。


ただ〈影の軍団〉を使えるのは有利かな。


〈影の軍団〉ーその名の通り影を操る魔法で魔力量で作れる影の数は変わってくる。


スクルド家は影を使って雪かきして作物を育ててアスガルズ王国の食料庫としての役割を果たしていた。


なんたって影でビニールハウスもどきもできちゃうからね☆


本家の人間は大抵魔力量が膨大でスクルド領は不作知らずだから、お金持ちだし一年の半分を雪に閉ざされる我が国ではこの能力を欲して縁談は引く手あまたって訳♡


かくいう私も魔力量は結構あるんだけどこの陰気さで貴族令息達からは嫁にしたくない女ナンバー1!です(ヤケクソ)


いや、分かるよ。

私だって男だったら貞子みたいな女を娶りたくない。


義娘にも貰いたくないだろうけど、そこは貴族。


不気味な孫嫁を嫌がるより利益を優先してヘルモーズ公爵は公爵家格上の力で婚約を勝ち取った。


·····孫の幸せより家の利益を優先させる貴族らしい貴族だわ~。


ダグは初顔合わせの時、私を見て思いっきり引いてた。


これは仕方ない。


傷つかなかった訳じゃないけど私の風貌とボソボソ喋るのを見て引かない人の方が少ないから。


私もこのゲームの被害者だけどダグだってそうだ。


それでもダグは婚約者として紳士的に接してくれている。


めっちゃ良い奴。


だから学院に入ってヒロインに惹かれても、抱き合ってキスをしているのを目撃しても、胸が痛かったけどしょうがないって思った。


「しょうがなくありませんわよ!

他の方を選んだのなら婚約を解消してから愛を育んだらよいのですわ!!」


「なんで浮気男を擁護するの?」


私と同じ運命の二人からは一度だけお叱りを受けた。


でもダグは貴族としての義務を理解しているからこの結婚を拒否できないし、こんな根暗ヤンデレ女と一生を共にしなければならないのは苦痛だろう。


それがわかっているから彼に愛されるのは諦めている。


·····どれだけ私が彼を好きでも。


初対面では思いっきり引かれたけど、それ以降のダグは私を婚約者として大切にしてくれた。


いつも笑顔で誕生日には贈り物をしてくれて、パーティのエスコートを嫌がる素振りを見せずにしてくれる。


家の利益で義務としてしてくれてるってわかっていても、ダグを好きになるのを止められなかった。


二人も私の気持ちを知っているから、それ以降は何も言わなくなった。


本当はダグに会いたくない。


だけどゲームでのフリッグは毎日学院内を彷徨いダグを見つけては彼を拘束している。


まあ、放課後だから帰るだけだし馬車止まりまでの10分ぐらいだけど。


そんなわけでダグを探し当てて、ヒロインと楽しそうに会話している姿に逃げたくなってもー逃げたら強制力で物凄いヤンデレな言動になるから、空気読めない女の如く


「ダグ様、こちらにいらしたのね。

お帰りになりますか?」


二人の間に割って入った。


二人はハッとしたように私を見て距離を置いたけど、今更ですから。


「ああ、今から帰ろうとしてたんだ。

じゃあ、イズン嬢失礼する。」


「はい、ヘルモーズ様。」


よそよそしい態度の二人に少し申し訳なくなる。


でも私はイズンを透明人間扱いしてダグの腕に触れて(ゲームでは絡ませイズンに見せつける)帰りを促す。


この時イズンを見てドヤ顔するのが私の苛め。

根暗らしいやり方だわ·····


馬車止まりまでいつも無言で歩いている。


入学当初は色々話かけていたけど二人のキスシーンを見てからは、イズンの可愛らしい快活な声と比較されているんじゃないかと勝手に想像して、何を話したらいいのかわからなくなった。


ダグもゲームの被害者なのに時々責めたくなってしまう。


彼は誕生日もちゃんと贈り物をしてくれるし、今も嫌だろうに自分の腕に触れている私の手を振り払わない。


私が馬車に乗る時には手を貸してくれて見送ってくれる。


ーー例え私を見送った後イズンの所に戻るとしてもーー


私は知らないフリをして漆黒の塔に向かう。

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