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フレイヤの階段落ち事件から一週間後に私の呪詛返しイベントが起きる。


このイベントはヨルズノートがイズンにダグを奪られた恨みが爆発しイズンを呪ったんだけど、イズンが持っている光の魔法で弾き返して逆にヨルズノートが殺られる。


しかも私は体中から血を吹き出しての死亡·····エグいなぁ。


それをどうやって回避するか!


いや、回避は無理。


仮に回避しても強制力があるから何度もしなきゃならない。


多分次にやる時は私の意思は介在しない。


フレイヤが階段落ちするって聞いてあんなに反対したけど、結局同じような不安から同じような行動をとるんだよね、私も。


ごめんよフレたん!


まあ私の場合はゲームまんまの行動だけどね。


呪いはするけど途中で呪いを変化させる魔道具を設置して一日ネコミミが生える呪いに変える。


それをイズンが光の魔法で私に返し変化させる魔道具で死の呪いに変えて私に返す。


なんでこんな面倒な事をするかというと、呪われた人には例え呪いを返したり弾いたりしても呪いの痕跡が残るから。


その道のプロが痕跡を見たらどんな呪いをしたかわかるんです。


だから弾き返されると知っていても笑い話ですむ呪いじゃないといけないし、強制力を発動させない為に私は死の呪いを受けなきゃいけないのよね。


変化の魔道具の設置はイベントが行われる放課後、いつもダグとイズンがイチャイチャしてる空き教室と判明しているので前日の夜中にヒルダが窓ガラスに設置してくれた。


呪いを受けて心肺停止した私を蘇生させてくれるのはフレイヤ。


ヒルダは死んだら模擬戦連続10回するからと言うし、フレイヤは自分を棚に上げて反対するし~。


ヒーたん、死んだら模擬戦できません。

フレたん、自分を棚上げしすぎです!


まあ最後には二人とも折れてくれたけどね。







呪返し当日、私は邸に帰って家族に説明した。

驚愕している内にいい逃げのように自室に行き、呪いの魔法陣を発動させる。


家族に止められたら困るからショックで動けないうちにやらなきゃ。


呪いが学院の方向に向かったのと同時にフレイヤが部屋に転移で飛んできて、始まっているのに驚いていた。


「どうしてわたくしが来るまで待ってくださいませんの?!」


「ごめんごめん、親に今話したから、万が一を考えて☆

それよりフレたんの体調は本当に大丈夫なの?」


まだ大怪我から一週間しか経っていないから心配だ。


「あの究極苦い栄養剤と回復薬で体調は万全ですわ。

言っておきますけど蘇生と同時に増血剤と極苦栄養剤と回復薬を流し込みますから覚悟なさいませ!」


えーと、その時私は味がわかる状態なんでしょうか?


そんな暢気な感想をしていたらフレイヤの叫び声が聞こえてきた。


「きましたわ!

横になってください!!」


私は急いで仰向けに寝転んた。


そして体中が推しつぶられたように痛み、意識を失った。






次に意識が戻った時に感じたのは口の中にも言われぬ苦さが広がっていて飛び起きた。


そして目眩がしてまたベットに突っ伏したけど口の中が苦い!


私が涙目で悶えていると目の前にグラスが差し出されたので一気に飲んだ·····ら、物凄い苦さに吹き出しそうになったけど口が開かない!


魔法で口を閉じられてる!!


「飲み込まないと模擬戦連続20回。」


ド派手メイクの西洋人形が目を見開いて私を覗き込んで脅してきた。


もー口の中が死にそうに苦いわ、目の前のヒルダの顔が恐怖だわで泣きながら飲み込んだわよ!!


嚥下したのを見届けてから葡萄ジュースを口直しにくれたけど口腔内は麻痺状態でほとんど味がわからないよ~。


あと増血剤と回復薬も飲まされた。


呪返しから丸一日経っていた。


「元気そうで良かったですわ。

事件現場にはヨル2号を置いてきましたので、似非紳士と阿婆擦れが来ても疑われませんわ。」


似非紳士と阿婆擦れってダグとイズンだよね。


あの後蘇生が成功してすぐに漆黒の塔に私を移し、部屋には私そっくりの擬似人形ゴーレムヨルズノート2号を予定通り置いてきたそう。





~出歯亀てんとう虫の録画~



私の部屋には私そっくりのヨルズノート2号が体中から血を流しながら横たわっている。


「私、こんな風になってたの?これはあんまり気持ちいいものじゃないね。」


「わたくしは本物でこれを見せられましたのよ。」


ジト目で私を見るのやめて!


「ごめんって☆

そう言うフレたんだって階段落ちの時はすっごい血を流してたんだから~」


それにしてもドアを叩く音がすっごい激しいな。


ミシミシいいだした。

誰でもいいから鍵で開けてよ。

私の部屋のドアが壊れーー壊れたわ·····


「ヨルブッッ!」


お父様、娘の名前を間違えないで。


顔面に紙がへばりついたからしょうがないけど。


その紙には今回の詳しい内容が書いて置いてあったやつなんだけど、なんで机の上に置物で止めてあったのにお父様の顔面にへばりついたの?


「あ、わたくしがスクルド侯爵の顔にへばりつくようにしましたわ。」


フレたん、何してんの?


「娘が血溜まりの中で死んでたら暢気に机なんて見ませんわ。」


あ、ソウデスネ。


手紙を読み終わったお父様とお母様はプルプル震えていたけど、何故に?


「手紙に入学式の出会いイベントから逢い引き、キスまで付け足した。」


ヒーたん、何してくれちゃってんの?!


「似非紳士浮気男と阿婆擦れに一時でもハッピーエンドなんて思わせるのは癪だからね。

あ、それとも上げて落とす方が好みだった?

それなら余計だったかな。」


私にそんな趣味はないよ。


でもどっちの方がよかったかと聞かれても答えられない。


スクルド侯爵家の為には私の名誉を取り戻さないといけないけど、ダグがちょっと可哀想な気もする。


そうしているうちにダグとイズンがスクルド邸にやってきた。


お父様は一瞬だけヨルズノート2号の死体を見せてすぐに扉を閉めた。壊れてるからちゃんと閉まってないけど。


出歯亀虫が廊下に出てダグ達を映してくれる。


「何しに来た。

我が娘からその汚らわしい女に乗り換えたと言いに来たのか!」


お父様、迫真の演技です!


「演技ではなく本当にお怒りなのです!」


すみません·····


真面目に見よう。


ダグが焦ったように言い訳を始めた。


「違います。

彼女が学院で何者かに呪いをかけられたのです。

それを弾き返したらこちらの邸に向かって行ったので·····」


「娘がやったという証拠はもちろんあるんだろうな。」


「彼女が死んでいたのが証拠です!がふっ」


お父様がダグの顔を殴り倒した。


「ぎゃっ!」


お母様もイズンの顔を扇で打ち据え、イズンの口から血が流れる。


「あなた方は恥ずかしげもなく、よくそんな事が言えるわね。

学院で逢瀬を重ねて口付けまでしていたそうじゃない!

ヘルモーズ公爵家そちらから婚約を持ち出しておいて不貞をするなんて!!

さっさとその汚らわしい娘と出ておいき!!」


「イズンは汚らわしくなどありません!

わたしが彼女を愛したのが悪かったのです。

ですが、それとヨルが呪いをしたのは別の話です。

呪いは禁忌魔法です。

ましてや人を呪い殺すなど!

ヨルは犯してはならない外道に落ちたんです!!」


いきなり映像が消えた。


ヒルダとフレイヤが出歯亀てんとう虫を壊したからだ。


「ヨル、わたくしが言えるのは被害者と言う言葉を一度辞書で調べ直すべきですわ。」


「わたしからは愛は盲目とだけ言っておこう。」


「「お休み」なさいませ。」


二人はそう言って出ていった。


うん、あれは無い。


しかもイズンは私の死体を見て笑っていた。


確かに呪いは禁忌魔法だけど、あの発言を聞くにちゃんと勉強してないみたい。


火の属性しか持ってないもんね。


イズンも調べもせず死の呪いと断定してるし、さっきの笑みから見てやっぱり転生者だ。


ふーーーー。


でもこれで吹っ切れた。

今までダグも私と同じ被害者だと思ってたけど、私が死んでダグが死体を見た時点でルートは終了したのに両親にあんな発言をする人を被害者とは思えない。


多分イズンが死の呪いだと言ってそれを鵜呑みにしたんだろうな。


そして私のエグい死体を見て信じたんだろうけど、わかってんのかな。


愛したのが悪いんじゃなくて欲望のまま私を騙して逢瀬を重ねたのが悪いんだよ。


強制力も無くなってるのに、婚約者の親によくあんな事言えるなぁ。

そのおかげで私のダグに対する情も無くなったからいいんだけどね。


だからこの胸が潰れそうな思いも頬を濡らす涙も、初恋が終わって悲しいだけなんだ。


自分の為に泣いてるだけ。


ダグなんかの為にこんな思いをしてる訳じゃない。


明日になったらいつもの私に戻るから今だけいいよね。

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