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「御機嫌よう☆まさか同じ世界のしかも日本人に会えるなんて嘘みたい。ここに来てよかったぁー。あ、私はヨルズノート・スクルド。ヨッちゃんって呼んで☆貴女はフレイヤ様でしょ。貴女ももちろん未来視ギーメルなんだよね。死にたくなくってここに来たのかな。わかるよ、私も同じだもん。色々試してるって聞いたけどどこまで行けた?私は最近前世の記憶が戻ったばかりでーー」


「ちょっと待って!ストップ!!」


興奮しすぎてヒートアップしちゃった☆


でもやっぱり彼女もゲームを知っているようで私が3人の悪役令嬢の内の一人、陰気ヤンデレ令嬢だとわかったようだ。


私が早口すぎて吃驚しているので、仲間がいるのが嬉しくて興奮したと言い訳したけど後になって


「あの時はゲームで貞子風に描かれていたヨルズノートがパリピ幼女になってたから驚いたんですわ。」


と言われた。


悪役令嬢の一人フレイヤは楽しい子で、全く傲慢さもなくしかも前世は関西人だった。


本人は公爵令嬢だから関西弁を封印していると断腸の思いで語っていたので、全てが終わったら好きにしようと約束した。


言葉も髪型もなんでも自由に。


私はこの時初めて思いっきり笑ったし、大声で泣いた。


前世の記憶が復活してからずっと辛かった。


顔を上げることさえできない、声をはりあげてもボソボソとしか出ない声。


家族はそんな私でも愛してくれているけど、自由にならない自分に心が悲鳴をあげていたから。


そんな私をフレイヤは抱きしめて関西弁で慰めてくれるし冷たい手で腫れた瞼も冷やしてくれる。


めちゃくちゃ優しいーー!


フレたんって呼んでも呆れた顔されたけど駄目とは言わないし。


同じ境遇の子がフレイヤで良かったとしみじみ思う。


そして悪役令嬢二人が異世界転生したならば最後の悪役令嬢も異世界転生しているのでは?と思ったらフレイヤも同じ考えだったようで


「悪役令嬢二人が転生者だとしたらきっと「最後の一人も転生者かも」☆」


と同時に声が出た。




一ヶ月後の王都で開かれる子供のお茶会で確かめようということになりその日は解散した。


外に出ると顔が重くなり力を入れても顔をあげられなかった。


悲しくなったが未来が絶望だけじゃないとわかったから耐えられる。


フレたんって優しい仲間もいるしね☆


それに私は漆黒の塔で将来の夢を見つけた。




邸に帰ると両親がエントランスで待っていた。


どうやら馭者が漆黒の塔に行っていたと連絡したみたい。

入る時もすっごい心配してくれてたからね。


不安そうな顔で私を見る二人に明日一緒に漆黒の塔に行って欲しいと頼んだ。


「わたしの将来に関わるお話がしたいんです。」


「それはここじゃ駄目なのかい?」


アスガルズ王国ここではどんな強制力が働くかわからないし、しっかり目を見て話したい。


「ここでは無理なんです。どうかお願いします!」


両親は暫く考えていたが頷いてくれた。


ゲーム内でヨルズノートが死んだ後、両親は泣いてくれたシーンがあったから一か八かの賭けに出れた。


次の日両親と共に漆黒の塔に行き、昨日と違い門番(人形ゴーレムだった)もすんなり通してくれた。


中に入ると顔をあげて両親を見た。


「この中は空間拡張魔術が施されているんですよ。」


お父様もお母様も驚いて私を見ている。


驚く気持ちはわかる。

私自身も驚いたからね。

今まで一度も顔を上げたりハッキリと声を出したりした事ないんだもん。


応接室に二人を案内して隠者ヴォルヴァとヴァルキュリアが両親と挨拶して座る。


お父様もお母様も顔が硬い。


多分私も硬い顔をしているだろうな。


私は両親に前世の記憶があるのと前世でこの世界の預言書(フレイヤの受け売り)を読みその通りになっていて、私が顔を上げりないのも声をはりあげられないのも、預言書に縛られているからだと説明した。


婚約者のダグの浮気部分とか呪返しとかは誤魔化したけど·····


「この空間は預言書に縛られず本来の自分が出せるからここでお話したかったんです。」


お母様は泣きながら私を抱きしめて謝ってきた。


「ごめんなさい。貴女が苦しんでるのも気づかなかったなんてっ、母親失格よね·····」


「違います!

私が言えなかっただけです。

預言書は強い力で私を縛っているから、影響力のある所で言えば私の意思が無くなると思って怖くてっ!」


私も泣きながら今までの不安を吐き出した。


「それでも親なら気づいてあげるべきだった。

ヨルすまなかった。」


お父様が苦渋を滲ませた表情で私の頭に手を乗せた。


「私はお父様にもお母様にも感謝しているのです。

こんな顔もあげられない、人とまともに話せない私を慈しんで育ててくれてありがとうございます。」


やっと笑顔で目を見てお礼が言えた。

貴族令嬢として家の駒にならないような娘を愛してくれる両親にずっと言いたかった。


「当たり前でしょう!貴女はわたくしの愛する娘なんですよ!」


「お前が顔が上げられなくても、声が出なくても。

私の自慢の娘だ。」


二人は怒りながら私を愛していると言ってくれて、また大泣きしてしまった。


そして瞼がまたしてもパンパンになった·····


落ち着いて話ができるようになり、私は将来の夢を伝えた。


「私は魔道士になって漆黒の塔に入りたいんです。」


私を自由にしてくれた、空間拡張魔術を作り出す魔道具にすっかり魅せられていた。


将来どうなるかわからないけど、手に職があった方がいいし、それなら魔道具職人になりたい。


それに両親は猛反対した。


「漆黒の塔に入らなくても預言書に書かれている内容が終われば自由になるんだろう。

そうしたらスクルド領で魔道具作りでも何でも好きにしたらいいじゃないか!」


「そうよ!

漆黒の塔に入れば家族と見なされなくなるのよ。

預言書に書かれているいる事はわたくし達が解決策を見つけるわ。

だから漆黒の塔に入るなんて言わないで!!」


「私もそうしたいけど無理なんです。

私は未来視ギーメルであり双眼者シンです。

発覚すれば王家に囚われ自由さえ無くなるでしょう。

それならば自由に生きられるように漆黒の塔に入りたいのです。」


両親も【千里眼】が国にとってどれほど重要な存在か知っている筈だ。

王家に見つかれば飼い殺しにされる。


「漆黒の塔に入ってもお父様とお母様の子である事に変わりありませんし、何時でも会いに行けます。

そうですよね、隠者ヴォルヴァ。」


まだ納得できない両親を説得するのに隠者ヴォルヴァにふった。


頼みます、隠者ヴォルヴァ☆


「ふむ、ヨルズノート嬢の言う通り、家名が無くなり国籍も無くなるが、それだけだ。

漆黒の塔に入っても仕事さえしてくれれば後は何をしようと自由。

魔道具を作る奴らは偏屈が多くて、いや、お嬢さんが偏屈ではなくて、一般論だ!

とにかく縛りは無いと言いたいだけだ!」


お父様、殺気が漏れてます。

お母様、扇を折らないで。


隠者ヴォルヴァは二人の怒りの気配に偏屈発言を訂正した。


その様子を見て思わず笑った私にお母様は悲しそうな顔で頬に触れてきた。


「こんなに楽しそうに笑えるのね。

その預言書がこの世界にあるならこの手で引きちぎって燃やしてやるのに!」


「隠者ヴォルヴァ、異世界に渡るのは無理なのだろうか?」


その突拍子もない発言に私は目を瞬かせてまた笑ってしまった。


「お父様もお母様もそれは無理です。

預言書は数え切れないほどあるんです。

それに16才で預言書の効力は無くなります。

私は生きて外の世界で顔を上げられるように頑張りますから!

どうか信じて待っていて下さい。」


両親を強く見つめるとまた強く抱きしめられた。


「お前の好きにしなさい。生きてくれさえすればいい。」

「貴女が何になろうとわたくし達の愛する娘に変わりはないものね。

でも心配するのは親の特権よ。」


二人の言葉に胸が詰まって声が出ない。


絶対に生きてゲームを乗り切って見せると心の中で誓った。

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