俺たちの未来へ
「……む? ちょっと止まるのじゃ」
軽快にバイクを走らせていた俺は一度路肩の草原にバイクを停め、背中に乗っていたアラートを抱えて地面に降ろした。
アラートは側に落ちていた鉄パイプを拾い、首を傾げている。
「いきなりどうしたんだよ」
「……うむ。いけそうじゃ」
俺の問いに応えることもなく、アラートはおもむろに自身の右腕に付いていたマフラーを取り外し、鉄パイプを右腕代わりに取り付けた。
「じゃじゃん。
「いやすごいけど。見た目だけか?」
「そんな訳なかろう。一代目の
そう言ってアラートは、木の上を飛び回っていた蜂のような姿のVFCを次々に打ち落とした。
「ま、こんなもんじゃの」
アラートは自慢げにしたり顔を浮かべている。きっと、マフラーはあまり気に入っていなかったのだろう。俺としては長い方が邪魔な気がするけれど。
「良き物があれば妾が声をかける、拾っていくがよい。大砲以外にもスパイダーネットや釣竿など、様々な用途に使えそうじゃな」
便利だな、その機能。
「お主もルナールソードやアポロスガンの改造はしなくてもよいのか? 形状が少し変わるだけで戦術の幅が広がるぞ」
「いや、遠慮しておくよ。剣は重い方が威力が出るし、銃なんてなくてもアラートのサポートがあれば余裕でしょ」
「まあ、お主がよいならいいんじゃが」
アラートは少し照れ臭そうにそっぽを向いた。
寄り道をしつつ、俺たちはクォーター群南東のウォーレイズ湿地へと辿り着いた。湿地は広く澄んでおり、すぐに宇宙船の破片が見つかった。周囲には小動物の死骸や弱った鳥類などがおり、悲惨とはいかないまでも俺を陰鬱とさせた。
「こっから先はバイクじゃ無理だな。歩いていこう」
「ふむ……」
アラートは宇宙船の元につくなり、顎に手を当て何か悩んでいる様子だった。
その間に俺は新たな武器でも調達しようと物資に手を出したが、中身が既に抜き取られている様子だった。
「警官隊の仕業かな?」
「いや、そうであったら妾たちの元に連絡がくるであろう。それに、何かがおかしい」
「……というと?」
「何処を見渡しても、VFCが全く見当たらないのじゃ」
確かに、バイクを降りてから宇宙船までVFCは見つからなかった。これまでの道中には何匹もいたはずなのに。
「誰かが、既に倒した……ってことか?」
『
どこかしこから声がしたかと思うと、空から宇宙船の残骸の上に同じ背丈くらいの青年と少女が落下してきた……いや、降りてきた。
「背中の羽……ツインエンジェルかの」
二人の背中には、片側ずつ一つの大きな羽が生えている。アラート曰く、本来は一つであった羽が墜落の衝撃で分解してしまったのかもしれない、とのこと。
「……もしかして、ここら一帯の奴らは全部お前らがやったのか!?」
「ご名答。雑魚どもは俺様の
「そういうこと。私とアストはずっとここで待っていたのよ。じゃあ……行くわよっ!」
俺やアラートが返事をする暇もなく、ウラノは弓を引き絞り、放った。俺たちはその場から一歩飛び退くも、ぬかるみに足を取られ、バランスを崩したタイミングでアストが片手剣の先を向けて急降下してきた。
「くそっ!」
俺は間一髪で剣先を上に弾いたが、蹴り飛ばされて地面に倒れこんだ。水を含んだ土の感触は気持ち悪いし、何より動きづらい。
咄嗟に引き抜いたルナールソードに比べて相手の片手剣の方がよくしなるし軽そうだ。対人戦なんて考えもしなかったため、先程武器を軽量化しておかなかったことが悔やまれる。
……というか、なんで人間同士で争う必要があるんだ!?
俺は後退りしながら右手をあげた。
「待ってくれ! 俺たちに戦う意志はない!」
「はっ、知らねーなあ! 怪物は俺たちが全滅させるって決めたんだよ!」
「そうそう。御託はいいから早く死になさい!」
「やらせぬわ!」
アラートが飛んでくる光の矢を全て打ち落とし、俺はアストの突きを剣で何とか受け流す。その後アラートはエネルギーをウラノに向けて放ち、直前に気づいたアストは一瞬でウラノを抱えて飛ぶも羽に被弾して二人は落下した。
「くう、俺の羽が……! なかなか骨のある奴らだな……!」
「そうね……でも、フェイルの意思を守るためにも引くわけにはいかない!」
いつしか二人の羽からは光が消え、攻撃の速度も落下してきた。ウラノの弓は全てアラートが打ち落とし、俺はアストの高速突きをなんとか捌いていく。
……激闘が何分続いただろうか。足場が悪いせいもあってかお互いに疲労し、俺はもう剣を持ち上げることすら敵わなくなっていた。
「そろそろっ、終わりだっ……!」
アストは息を切らしながらも最後の力を振り絞り、俺に突進してきた。俺はもう避ける体力もなく、強く目を瞑った。
「伏せるのじゃ、お主よ!」
アラートの声に、俺はその場に踞った。瞬間、アラートがエネルギーを地面に放ったのか爆発が起こり、俺たち四人は爆風で軽く吹き飛んだ。
「く、う……」
俺が体を起こした時には既にアラートが倒れた二人を見下している状況で、何やら言い争っている様子であった。
「うっ……アラート、どうなったんだ」
「ふむ。こやつらに何を言っても聞く耳を持たなくて困っておるのじゃ。妾らが悪だの、怪物だのってのー」
二人は上半身をぷるぷると震える腕で起こしており、アストの方はこの期に及んでまだ強がりを見せている。
「俺たちは選ばれしフェイルの戦士なんだ! 怪物どもめ、ぜってーぶっ倒してやるからな……!」
「はいはいそーかのー。じゃが、貴様らがフェイルの戦士などと、誰が決めたんじゃ」
「そりゃ、俺たちのヒーローだ……宇宙船が壊れてしまった今、フェイルを守ることができるのは武器を賜った俺たち二人しかいない!」
「そうよ……でも私たちはここで終わりのようね。悪趣味なことはせず、さっさと一思いに殺して頂戴」
自分勝手な口を挟む二人。俺はため息をつき、頭を掻いた。
「はあ……殺すわけがないだろ。わかったから落ち着いて話を聞いてくれ」
「うるせえ、怪物の話なんて――」
「いいから聞け」
俺が凄むと、アストは目を泳がせて黙りこんだ。
俺はこれまでの経緯を全て話し、やっと状況を飲み込めたのかウラノは自分達の経緯を話してくれた。彼女の話を要約するとこうだ。
二人は俺と同じく宇宙船が落下した場所にいち早く駆けつけた。そこで大量のVFCに囲まれ、あれこれ武器になりそうな物を探したところ現在の
「それで、物資はどこにあるんだ?」
「……そこの裏だ。大したもんはもう持ってねーよ、どれが宇宙船を修復するパーツになるのかもわからねーしよ」
「それなら心配無用じゃ。基本的に7つの核となる物質があれば完成する」
「……今はいくつあんだよ?」
「まだ一つも持っておらぬ。じゃが、一つは下部エンジンに備えていたはずじゃ、探せばここらに……ほら、あったのじゃ!」
アラートの指差す先には宇宙船のエンジンだったであろう物体があり、後部にはオレンジ色に輝く六角形の石が埋め込まれていた。
「こんなもんが……」
「こんなもんとはなんじゃ。これが宇宙船の一番の動力源でな、こいつが無いと――」
アラートが手を伸ばした瞬間、地面が揺れた。いや、湿原が揺れた。いや――――空間が歪んだ。
「なっなんじゃ!?」
「危ないっアラート!」
突然現れた巨大な舌。俺は咄嗟にアラートに駆け寄り押し倒すと、舌は目にも止まらぬ速さで空を切った。
「でやがった……こいつだよ、擬態してたやつ!」
緑の体に巨大な体躯。は虫類をそのまま大きくしたような出で立ちのVFCは、ギョロギョロと忙しく視線を右往左往させている。核はエンジンと共にVFCの真横にあり、とても取ることができない。
「一旦引くのじゃ!」
アラートの掛け声に、俺たち四人は走り出した。とりあえずバイクまでたどり着ければ。その一心で匍匐してくるVFCから必死に逃げた。
「よし全員乗ったか!? 発進するぞ!」
『了解!』
とりあえずその場を抜けることしか考えておらず、海に出た。しかし、アラートがすぐさまバイクを改造し、今は背中にアストとウラノを、そしてアラートを抱っこした状態で水上を走っている。
あのVFCがどうなったのかはわからない。しかし、旅をする以上いつかは敵対することになるだろう。
「みんな、これからどうする?」
「決まっているであろう、核探し続行じゃ!」
「VFC? ってんのを根絶やしにする! それがヒーローである俺の役目だ!」
「乗りかかった船だもの。私は最後まで共に行くわ。でも宇宙船が完成したときは……そのとき決めるわ」
この先、同じように武器を取った者たちと出会い、多くのVFCと戦うことになるだろう。
ある者は使命のために。
ある者は未来のために。
ある者は私欲のために。
「お主はどうするのじゃ?」
このまま旅をしていれば、いつかはVFCを絶滅させることができるかもしれない。でもそれはいつだ? もしかしなくとも、俺たち人間が減っていく未来は見えている。
しかし夢にまで見た、宇宙への旅。故郷を捨ててアラートと逃げるか、アラートを行かせて最期を故郷と共にするか。
俺は――――――
フェイル・アラート 今際たしあ @ren917
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