第12話
7年ぶりに雪が積もった。
乱れ始めた交通と師走の焦燥感を感じながら、いつもの街角にいる。
こうも不便だと困っちゃうね。
くたびれたおじさんが、部下であろう30歳くらいの長身に話しかける。
「本当に、そうですよね」
冴えないノッポの同調は恐らく本心に見えた。
非日常に対する対話はここで終わり、どうやら今終えたばかりの提案活動の話題にすぐ切り替わっていった。
このくたびれた小太りとパッとしない色白は、誰に何を売るんだろう。
誰が感銘を受け、誰が対価を払うのだろう。
人知れず、残酷な問答を心の中で繰り返してみたが、意外にも話は大きく前進したようで、めいめいに手応えを感じているようだ。
そんな彼らの門出を祝うように、白が世界を支配する。
どうやら世間は、今日のこの日を恨めしく思うらしい。
止まる路線に見切りをつけ迂回する者。
大事な予定の変更を決断する者。
イッチョウラを台無しにする者。
確かに、何かと面倒なのかも知れない。
決して、認めたくはないんだけど。
僕だって、ほんの少し煩わしさを感じている。
このまどろむような柔らかい高揚感は、ひょっとすると、単なる物珍しさだけで都合よく構成されてしまっているのかも知れない。
前に雪が積もった8歳の日を僕はあんまり覚えていない。
あの日、僕は何を考えて、誰にどんな気持ちを伝えたんだろう。
母さんは言う。
「あの時の拓己は本当にうるさかったんだよ。しんしん聞こえる、ってずっと言ってた」
少し大人になった今。
今、僕の耳に、しんしんは届かない。
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